視聴者自身が映像編集…新たなスポーツメディアを生むか
スポーツを見る視点は多様だ。にわかファンはスター選手などの「役者」を見る。対して競技のファンは選手の「プレー」を見る。コアなファンは「戦術」を、番記者はチームの「マネジメント」を見るとされてきた。会員制交流サイト(SNS)ではさまざまな意見が飛び交い、スポーツの見方に深みを与えている。(取材・小寺貴之)
多様な視点は、視聴者自身による編集でコンテンツになる。仏VOGOはマルチ動画配信システムを開発。複数アングルの映像をスマホなどに配信し、ユーザーがアングルを選択して中継を見る。リプレイやスロー、ズームなどができるため、試合会場で見逃したシーンを手元の端末で何度も視聴できる。
日本ではパナソニックインフォメーションシステムズ(大阪市北区)が総代理店を務める。現在は会場限定だが、映像の権利関係などを整理できれば、新しいスポーツメディアを生む可能性がある。
大切なのは競技者とファンのコミュニティーの中から知見や視点が湧き上がってくる環境だ。データや映像の編集環境をオープン化して、有名選手などが発信すればコミュニティー全体に波及する。そして選手がデータを覆した時、称賛はより大きくなる。
SNSにスポーツコンテンツが増えると、会場での体験がより重要になる。富士通はジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)などと次世代ライブビューイングを開発している。1月のオールスター戦では富山の試合会場と東京・品川の観戦会場をつないだ。8Kの大画面映像や立体音響に加えて、コートの振動も中継した。
ステージではレジェンド選手がプレーを解説する。ハーフタイムには控室と会場をつないで、不調な若手にレジェンドが活を入れた。富士通の高橋草一第二システム部長は「舞台裏には選手のリアルな姿がある。レジェンドだから引き出せる選手の本音に会場が沸いた」と振り返る。
富士通はレジェンド視点でプレーをハイライトしたり、ショートコンテンツに編集してSNSに発信したりするような、ライブビューイングとSNSをつなぐ企画を進めている。ライブビューイングは遠征チームのアリーナなどで開く構想だ。チームは収入源が増え、ファンは応援に行きやすくなる。
スポーツデータは選手強化だけでは市場が小さく、エンターテインメントのニーズに応える必要があった。選手の好調や不調、チームの経営状態を知るとファンの応援の熱量が変わる。スポーツの深みに誘えるか注目される。