スポーツ選手の動きを見える化する“シャツ”の仕組み
スポーツ中の身体の動きと力を計測できるとシミュレーションで筋肉一つひとつの出力を推定できる。特定の筋肉への負荷やバランスの良い身体の使い方などを調整できる。計測とシミュレーションの融合が注目される。
計算力学研究センター(東京都品川区)は自転車トレーニング支援システムを開発した。カメラで身体を撮り、人工知能(AI)技術で身体骨格を認識して動きを計る。出力はタイヤの回転負荷を測る。一般に筋骨格シミュレーションは、角度が1度ずれると出力が10%変わることもあった。開発担当の岩永則城次長は「ペダルをこぐ動きは平面運動。シミュレーションしやすい」と説明する。
ペダルをこぐお尻やももの筋肉の出力を推定する。中長距離種目では筋肉の消耗を抑えるこぎ方が重要になる。サドルの高さを細かく調整して、姿勢や筋負荷を最適化する。各国のナショナルチームに売り込んでいく。
筋骨格シミュレーションの力を借りて、計測システムを簡略化するアプローチもある。Xenoma(ゼノマ、東京都大田区)は、IMUセンサーと筋骨格シミュレーションを組み合わせた。「e―skinMEVA」は、IMUセンサーをももやすね、足の甲など、7カ所に配置し、加速度や角速度を測る。この値をシミュレーションに当てはめ、脚の動きを推定する。伸縮パンツをはくだけで計測でき、空間的な制約がなくなる。
身体の張りやねじりの計測も進む。伸縮で電気抵抗の変わる伸縮配線を身体の表面に巡らせる。身体をねじると配線が伸び縮みして動きを推定できる仕組みだ。
野球のピッチング計測では腕や肩の筋肉に沿って伸縮配線を配置する。アシックスと「投球動作解析e―skinシャツ」を開発した。アシックスベースボールラボに導入する。
野球のピッチングなど、指先の速い動きは計測さえ難しかった。ゼノマの網盛一郎社長は「アシックスは身体の開きや肘のしなりから負荷を推定するノウハウを持つ。肘の故障の予防につなげる」と利点を強調する。
さらに将来はモーション計測に心電計測を組み合わせる構想だ。心拍数は体感時間に影響するとされる。ゴルフのロングパッドやバスケットボールのフリースローなど特に集中が必要なショットが安定しているか計れる。網盛社長は「不調は多くの選手が直面する。緊張するシーンでもルーティーン(繰り返し動作)を再現できているか、モーションとバイタルの双方から明らかにしたい」と展望する。