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スポーツデータビジネス、日本企業が海外の牙城崩すか

連載・湧き上がるスポーツデータ#01

スポーツ分野にさまざまなデータビジネスが起ころうとしている。その一つ、スポーツのデータ活用を学生チームなどに広げる環境が整おうとしている。(取材・小寺貴之)

スポーツでのデータ活用は、これまでセンサーや解析システムが高価で、プロのトップチームに限られてきた。海外企業の牙城だったが、日本企業の参入により、製品やサービスの価格競争が始まろうとしている。しかも海外企業と輸入品の状態に比べ、日本企業が日本で手厚い保守サポート体制を提供できる。

「輸入品に比べ端末価格を1ケタ下げられるはず。アフターサポートを含め、いいサービスを世に出したい」と、アジア航測の山田貴之プロジェクトマネージャーは力を込める。サッカーやラグビーなどのフィールドスポーツ向けに衛星測位システムを開発した。選手の総走行距離やポジショニングなどを分析する。

全球測位衛星システム(GNSS)を利用した一般的な計測システムは、センサー端末が1台数十万円する。年間で数百万円かかるため、学生チームでは手が出せなかった。

アジア航測は基準局を置くRTK処理で測位精度を高めた。選手が静止していれば誤差数センチメートル、走っても1メートル以内の誤差に収まる。日本から利用できる測位衛星で計測精度を評価しているため性能を保証できる。心拍数から体力の消耗具合、加速度からタックルの衝撃などを計測できる。

「できるだけオープン化し、学生に普及させたい」(山田氏)として、データ解析はプラットフォームとともに提供する。大学生や高校生にとっては自分の成長をデータとして残せる。ミズノや関西大学と事業化を進める。

富士通はバスケットボールなどの屋内スポーツ向けに、カメラ式の計測システムを開発した。ジャンプの高さなどの3次元情報が得られるため、シュートの直後に軌跡を計算したり、ゴールまでの距離や成功率などをディスプレーに表示したりできる。ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)と全国18アリーナへの導入を企画中だ。学生向けなど普及品はセンサー端末を提案する。

屋内競技、屋外競技ともに計測システムが出そろう。プロで実績ができれば、スポーツ強豪校への提案が始まる。学生チームは試合に出場する人数の2―5倍の部員を抱える。優秀な人材を集めて序列を作るよりも、チームを勝たせながら若い才能を伸ばし、プロや海外へのキャリアを開くことが指導者の仕事だ。富士通の星野真一シニアマネージャーは「選手の伸びしろを示せるとスカウトへの説得力が増す」と期待する。

富士通のカメラトラッキングイメージ
日刊工業新聞2019年12月23日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
選手や子どもの親御さんにとってはデータに基づいて話せるチームや学校に、子どもの選手生命や人生を託したいはずです。優秀な人材を集めてヒエラルキーで管理することが監督の仕事ではなく、一人一人の才能を伸ばしてキャリアを拓くことが本来の仕事です。練習からデータをとれば努力する才能や効率も可視化できるようになるかもしれません。スポーツ分野でデータに投資しても業界構造のために分散しきました。プロからジュニアまでデータつないでエコシステムを育てていきたいところです。ベンダーはプラットフォーマーになれると思います。

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