ついに始まったホンダの脱“ケイレツ”
ホンダの脱“ケイレツ”が動きだした。ホンダ系サプライヤーのケーヒン、ショーワ、日信工業が日立オートモティブシステムズ(AMS)と合併を決め、メガサプライヤーへの道を歩み出した。ホンダ系サプライヤーは、ホンダ依存から脱却しホンダ以外の完成車メーカーとの取引拡大を目指してきたがそれを象徴する動きだ。ホンダ系サプライヤーは生き残りに向け真価が問われるステージに入っている。
生き残りへ大型合併も
「新たな付加価値が提供できる」。10月30日に開いた会見でケーヒンの相田圭一社長、ショーワの杉山伸幸社長、日信工業の川口泰社長はこう口をそろえた。「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」の波は完成車メーカーにとどまらず部品メーカーにも及ぶ。KPMG FASの井口耕一パートナーは「サプライヤーも生き残りをかけて規模を拡大し、コスト競争力をつけることが重要」と分析する。
ホンダを含む自動車メーカーはCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)対応を加速させており、部品メーカーもCASE対応が欠かせない。新統合会社が注力する主な分野は電動化や先進的なシャシー、自動運転・先進運転支援システムといった分野だ。電動車向けパワーコントロールユニット(PCU)といった燃料や電力の制御系部品を得意とするケーヒン、ショックアブソーバー(緩衝器)など足回り部品のショーワ、ブレーキ部品の日信工業とそれぞれの強みを生かした事業を想定する。特に「電動化はナンバーワンになれる」(コッホCEO)と挙げ、日立AMSとケーヒンの電動化技術での相乗効果を狙う。先進シャシーでもショーワや日信工業とブレーキやサスペンション、ステアリングなどでトップクラスを目指す。
一方、ホンダ系3社と日立AMSはPCUや緩衝器などで重なる事業領域があるが、コッホCEOは「別の事業に集中するなど事業の効率を上げられる」と説明。規模の拡大による研究開発での人材活用や顧客へのリーチ拡大といったメリット面を強調した。ホンダ系3社も次世代技術開発などの対応を強化してきた。ケーヒンはPCUの小型化などで性能を高め、国内工場で生産能力を増強した。ショーワは自動運転など向けにハンドル操作の力を電気信号でタイヤに伝えるシステム「ステア・バイ・ワイヤシステム(SBWS)」の開発に取り組む。日信工業も自動運転時代を見据えた電動キャリパーやドラム式電動パーキングブレーキ(EPB)を開発中だ。
無風だったホンダ系再編
業界では、日産自動車がカルロス・ゴーン前会長がケイレツ解体を主導したほか、トヨタ自動車は電子部品事業をデンソーに集約するなど足元でグループ内再編を加速する。これに対し、ホンダは14年に旧ホンダエレシス(日本電産エレシス)を日本電産に売却したケースを除きほぼ無風だった。今回、グローバルで事業規模や技術力が期待されるサプライヤーが、ホンダ系を母体にして誕生することとなる。
統合新会社の出資比率は日立製作所が66・6%、ホンダが33・4%と“ホンダ色”を薄めた。ホンダの貝原典也常務執行役員は「新会社が(競争力を)磨いていけばホンダ以外への販売が拡大する。ホンダへの販売比率は自動的に下がるだろう」という。ホンダ系サプライヤーにとってホンダ以外の「他販拡大」は積年の課題だったが、近年は成果も出始めていた。ケーヒンは開発体制などの効率化でリソースを生み出し、ホンダ以外へのアプローチを強化。今年、トヨタ向け部品の初受注につなげた。
今後、日立AMSとは電動化分野などの相乗効果で他販拡大を加速できる可能性がある。他販拡大の経験を積むことで「完成車メーカーによって要求は異なる。(その経験から)さまざまな提案がホンダにできるようになる」(ケーヒンの相田社長)などホンダ向け製品への相乗効果も期待できる。
今後は台風の目に
「今回の合併は環境の激変に端を発したものだろうから、今後台風の目になる可能性は大いにある」。合併3社以外のあるホンダ系サプライヤー関係者は、今後の動向を注視する。ホンダの倉石誠司副社長も、次の系列再編の可能性を否定していない。世界トップ集団の自動車グループが年1000万台規模で競り合う中でホンダは500万台程度。さらにCASEが台頭する中で、ホンダに依存したこれまでのケイレツ関係では規模面でも技術面でも乗り越えるのは容易ではない。新たな生き残り策がホンダ系サプライヤーに求められている。
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