#5
「宝探し」「運動会」が組織を活性化する
イベント各社“慰労”提案も…
企業にとって秋の行楽シーズンは社員旅行やパーティーで従業員の労をねぎらう季節だ。社員らが団結して楽しむ運動会や「宝探し」などを慰労イベントとして実施する動きが広がっている。運営を手がけるイベント会社は、楽しさを追求しつつ、裏テーマとして組織の活性化を狙う。この組織活性化が企業からのリピートにつながるため、イベント各社はさまざまな工夫を凝らす。(文=小寺貴之)
「楽しくないと始まらない。楽しいだけでも続かない」。体験型イベントなどを企画・運営するタカラッシュ(東京都江東区)の齊藤多可志社長はこう指摘する。会社で慰労イベントを企画して参加者が満足し帰っても、翌年も同じイベントだと社員からマンネリ化を指摘されることがある。そのため慰労イベントを複数用意し、隔年でローテーションするのが無難だ。
だがタカラッシュが企画する宝探しは、顧客企業の30―35%が翌年もリピートする。その秘訣を齊藤社長は「チームの活性化や個人の学びの“匂い”をつける」と説明する。宝探しは地図を片手にチームで謎を解く。探索ポイントに向かう人や問題を解く人、他チームの情報を集めて指示する人などの分担が求められる。
チームで課題に挑むのは仕事と同じだ。宝探しに本気になる人も、本気になれない人も、かしこまった研修ではない素の自分のチームワーク力があらわれる。大会の後で謎解きの過程を振り返ると必ず後悔や発見がある。
コミュニケーションの活性化も促しやすい。組織の縦割りを壊すには普段交流のない部署をまたいでチームを作る。組織改編後などに部門ごとの一体感を高める際は部門対抗で競わせる。宝探しのテーマに製品や業界課題を組み入れることも可能だ。従業員の家族を巻き込み会社への理解を広げる機会にもなる。齊藤社長は「顧客とは一緒に宝探しを作るパートナーになりたい」と話す。
運動会も子どものためのものではない。大人の本気の運動会は熱量が大きい。チームの一体感や勝利した時の高揚感は、仕事では得られないものがある。運動会屋(横浜市都筑区)の米司隆明社長は「米国はジョーク好き。大玉送りの折り返し地点を動かすなど、しょっちゅうイタズラする。韓国や中国は何としてでも勝ちにこだわる」と、海外で開いた運動会を振り返る。インドの運動会では徒競走でズルがあり、乱闘になったこともあるという。
同社は企業向けの運動会を企画・運営する。日本では業種や企業に合わせて運動会の種目を調整する。例えば会計監査法人など高齢の従業員の多い企業には、玉入れや綱引きなどの静的な種目を増やす。対して商社や保険会社など若い人が多い企業は、体力を消耗させないと満足しない。そこで長距離走や棒引きなどの激しい種目を増やす。
多国籍の従業員が多い製造業は家族を呼ぶことが多い。そのため借り物競走やリレーなどの子どもと大人が楽しめる種目を盛り込む。運動会は競技のアレンジもしやすい。米司社長は「玉入れはかごを固定しても、かごを人が背負って逃げてもいい。運動量を調整しやすい」と説明する。
そして司会進行役(MC)の盛り上げ方も工夫が要る。ソフトウエアハウスなど社員同士で普段あまり話さない職場向けには、最初に声量を競う大声競技で場を温める。上下関係の厳しい会社では、運動会の最中であっても部下が上司をおもんぱかることが多い。そのため「MCは忖度(そんたく)(するような人や行動)を笑いに変える力が必要になる」(米司社長)。
大切なのは一人ひとりを巻き込む点だ。なぜ大人になって運動会なのかと嫌々ながら参加する人もいるためだ。さらにM&A(合併・買収)や社長交代の後など、現場の雰囲気を良くしたい時にも工夫が必要になる。
運動会をする企業の従業員が新しい種目を作ると参加感が増す。ボッシュ(東京都渋谷区)では入社式に運動会が開かれ、新入社員が新種目を考える。2019年のテーマは「ダイバーシティー」だった。視覚障がいの要素を加えた「先頭目隠しムカデ競走」、下半身の障がい要素を取り入れた「座り玉入れ」などが実施された。
運動会屋の米司社長は「自分でどうしたら面白い種目になるか考える。そうすると思いついた種目は絶対にやりたくなる」と話す。
運動会の新種目開発にテクノロジーも加えている。ハッカソン(技術開発コンテスト)のようにデジタル機器やソフト開発を加えてまったく新しいスポーツを作ってしまう例もある。ハッカソン型運動会を採用したIT会社は、最終的に廃校を借りて迷路の中でサバイバルゲームをするような新競技を実施した。
アイデア出しから開発、実装して遊ぶまでが一つのレクリエーションだ。企画や開発などの得意技を生かしたり、普段と違う仕事にチャレンジしたりと一人ひとりの可能性を広げる絶好の機会になる。
タカラッシュも宝探しとデジタルの融合を進める。常設の宝探しアトラクションでは、仮想現実(VR)ゲームと宝探しを組み合わせる。謎を解きながら武器や防具などのアイテムを集めて、VRモンスターを攻略する。齊藤社長は「リアルな謎解きとデジタルを融合させるニーズは大きい」という。スマートフォンに拡張現実(AR)機能が追加され、新しいスポーツや謎解きを開発しやすい環境は整っている。
従業員の労をねぎらう楽しいイベント運営から始まり、組織活性化や新種目の開発に領域が広がっている。楽しさを追求するとその場限りになりやすく、教育要素を盛り込みすぎると途端にしらけてしまう。この両立が難しかったが、企画段階から参加者を巻き込んで自分事にしてしまえばその壁を突破できる。慰労の枠を超えて、レクリエーションを再発明する企業が今後増えそうだ。
隔年で企画ローテーション
「楽しくないと始まらない。楽しいだけでも続かない」。体験型イベントなどを企画・運営するタカラッシュ(東京都江東区)の齊藤多可志社長はこう指摘する。会社で慰労イベントを企画して参加者が満足し帰っても、翌年も同じイベントだと社員からマンネリ化を指摘されることがある。そのため慰労イベントを複数用意し、隔年でローテーションするのが無難だ。
だがタカラッシュが企画する宝探しは、顧客企業の30―35%が翌年もリピートする。その秘訣を齊藤社長は「チームの活性化や個人の学びの“匂い”をつける」と説明する。宝探しは地図を片手にチームで謎を解く。探索ポイントに向かう人や問題を解く人、他チームの情報を集めて指示する人などの分担が求められる。
チームで課題に挑むのは仕事と同じだ。宝探しに本気になる人も、本気になれない人も、かしこまった研修ではない素の自分のチームワーク力があらわれる。大会の後で謎解きの過程を振り返ると必ず後悔や発見がある。
コミュニケーションの活性化も促しやすい。組織の縦割りを壊すには普段交流のない部署をまたいでチームを作る。組織改編後などに部門ごとの一体感を高める際は部門対抗で競わせる。宝探しのテーマに製品や業界課題を組み入れることも可能だ。従業員の家族を巻き込み会社への理解を広げる機会にもなる。齊藤社長は「顧客とは一緒に宝探しを作るパートナーになりたい」と話す。
大人も本気に
運動会も子どものためのものではない。大人の本気の運動会は熱量が大きい。チームの一体感や勝利した時の高揚感は、仕事では得られないものがある。運動会屋(横浜市都筑区)の米司隆明社長は「米国はジョーク好き。大玉送りの折り返し地点を動かすなど、しょっちゅうイタズラする。韓国や中国は何としてでも勝ちにこだわる」と、海外で開いた運動会を振り返る。インドの運動会では徒競走でズルがあり、乱闘になったこともあるという。
同社は企業向けの運動会を企画・運営する。日本では業種や企業に合わせて運動会の種目を調整する。例えば会計監査法人など高齢の従業員の多い企業には、玉入れや綱引きなどの静的な種目を増やす。対して商社や保険会社など若い人が多い企業は、体力を消耗させないと満足しない。そこで長距離走や棒引きなどの激しい種目を増やす。
多国籍の従業員が多い製造業は家族を呼ぶことが多い。そのため借り物競走やリレーなどの子どもと大人が楽しめる種目を盛り込む。運動会は競技のアレンジもしやすい。米司社長は「玉入れはかごを固定しても、かごを人が背負って逃げてもいい。運動量を調整しやすい」と説明する。
そして司会進行役(MC)の盛り上げ方も工夫が要る。ソフトウエアハウスなど社員同士で普段あまり話さない職場向けには、最初に声量を競う大声競技で場を温める。上下関係の厳しい会社では、運動会の最中であっても部下が上司をおもんぱかることが多い。そのため「MCは忖度(そんたく)(するような人や行動)を笑いに変える力が必要になる」(米司社長)。
迷路でサバイバルゲーム 謎解きとデジタル融合
大切なのは一人ひとりを巻き込む点だ。なぜ大人になって運動会なのかと嫌々ながら参加する人もいるためだ。さらにM&A(合併・買収)や社長交代の後など、現場の雰囲気を良くしたい時にも工夫が必要になる。
運動会をする企業の従業員が新しい種目を作ると参加感が増す。ボッシュ(東京都渋谷区)では入社式に運動会が開かれ、新入社員が新種目を考える。2019年のテーマは「ダイバーシティー」だった。視覚障がいの要素を加えた「先頭目隠しムカデ競走」、下半身の障がい要素を取り入れた「座り玉入れ」などが実施された。
運動会屋の米司社長は「自分でどうしたら面白い種目になるか考える。そうすると思いついた種目は絶対にやりたくなる」と話す。
運動会の新種目開発にテクノロジーも加えている。ハッカソン(技術開発コンテスト)のようにデジタル機器やソフト開発を加えてまったく新しいスポーツを作ってしまう例もある。ハッカソン型運動会を採用したIT会社は、最終的に廃校を借りて迷路の中でサバイバルゲームをするような新競技を実施した。
アイデア出しから開発、実装して遊ぶまでが一つのレクリエーションだ。企画や開発などの得意技を生かしたり、普段と違う仕事にチャレンジしたりと一人ひとりの可能性を広げる絶好の機会になる。
タカラッシュも宝探しとデジタルの融合を進める。常設の宝探しアトラクションでは、仮想現実(VR)ゲームと宝探しを組み合わせる。謎を解きながら武器や防具などのアイテムを集めて、VRモンスターを攻略する。齊藤社長は「リアルな謎解きとデジタルを融合させるニーズは大きい」という。スマートフォンに拡張現実(AR)機能が追加され、新しいスポーツや謎解きを開発しやすい環境は整っている。
従業員の労をねぎらう楽しいイベント運営から始まり、組織活性化や新種目の開発に領域が広がっている。楽しさを追求するとその場限りになりやすく、教育要素を盛り込みすぎると途端にしらけてしまう。この両立が難しかったが、企画段階から参加者を巻き込んで自分事にしてしまえばその壁を突破できる。慰労の枠を超えて、レクリエーションを再発明する企業が今後増えそうだ。
日刊工業新聞2019年9月24日
特集・連載情報
一人ひとりに合わせた働き方って何でしょうか。ワークライフバランスを重視したり、やりがいや高い給与、社会的に認められたい。仕事のモチベーションはそれぞれですが、これらの記事が皆さんの考えるヒントになってくれれば幸いです。