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息子へ事業承継も、「ママ会長」の存在が大きすぎて倒産

アプローチ・ハルにみる、子息子女への事業承継の難しさ
 国内における約3分の2の企業が、後継者難の問題を抱えている。代表者が高齢になる一方で、次の担い手が見つかっておらず、事業存続が危ぶまれるのは大きな問題だ。すぐに訪れるリスクではないが、即座に解決できる類の事象でもなく、日本企業にとって長年の悩みの種となっている。こうしたなか、子息子女に事業承継できる企業は一歩進んでいると言えるが、その先にも問題が山積している事を忘れてはいけない。

 アプローチ・ハルは、1996年6月にPOPデザイン業を手がける企業から、ひとりの女性が独立する形で設立。女性社長の人柄やデザインの斬新さ、企画力が好評で、事業規模は拡大。主にアミューズメント業者を取引先としながら2006年頃には年商約16億円を計上していた。

 08年12月に子息へ事業を承継。母親である元女性社長は代表権を持たない取締役会長に就任し、新代表である子息をサポートする新体制が始まった。

 しかし実態を見ると、取引先との関係を維持する上で母親の存在が大きく、取締役ながら「会長」のポストに母親がいることで引き続き影響力を持っていた。

 また、リーマン・ショックをはじめとする市況の変化に伴い、取引先の業績が悪化したことも相まって売り上げは減少傾向で推移。直近の年商規模は約2億円にまで縮小していた。

 その後も業績悪化に歯止めが掛からず、19年初旬には取引先に対する支払い遅延が散発。こうなると、経営者は倒産という苦渋の選択を迫られる。しかし、会長である母親の事業継続意欲が強く、代表である子息は、この意思決定を先延ばしにしていた。

 最終的には母親主導の再建策はすべて頓挫、同年4月に代表が破産を決断し終止符を打った。決断を下したのは社長自身だが、ここに至るまでのプロセスを知る取引先は「本当の意味で事業承継できていたのだろうか」と首をかしげた。後継者がいれば事業承継できるという単純な話ではない。
(文=帝国データバンク情報部)
<企業概要>
(株)アプローチ・ハル
住所:東京都足立区綾瀬2の27の5
代表:下川高志氏
資本金:1000万円
年売上高:約2億3400万円(18年12月期)
負債:約3億500万円
日刊工業新聞2019年8月27日

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