子どもへの学歴期待が高まり、教育費はどう推移してきた?
【連載】進化する幼児教育 第4回 教育をとりまく状況
少子化の進行や、母親が就労する割合が増加している現在、乳幼児の教育をとりまく環境や保護者の意識はどう変化してきたのか。ベネッセ教育総合研究所の行ったアンケート(※)を紹介するとともに、その変化を考察する。(取材・昆梓紗)
●子どもへの学歴期待が高まっている
「第5回幼児の生活アンケート」調査では、乳幼児を持つ首都圏の母親の最終学歴のうち四年制大学以上の割合が15.7%(2000年)から36.5%(2015年)に増加。子どもへの学歴期待では4年制大学卒が増加し、知的教育のニーズもやや高まっている。
首都圏に住む乳幼児で、習い事をしている割合は、4歳で急に増加して約5割に達し、6歳には8割以上になる。4歳以上の幼稚園児では、習い事をする率は7割を超えている。4歳以上の保育園児は2015年で56.7%(首都圏のみ)である。
●習い事の種類は変化なし
習い事の種類で一番多いのはスイミング。これに、通信教育、体操と続く。また10年ほど前から英語教育が若干増加している。体を動かすものか、学習に関しての習い事が変わらず人気である。
●教育費二極化(金額)
子どもにかける習い事などの費用はどう変化しているのか。少子化に伴うコスト集中で一人あたりの教育費は増えていると思いきや、1995年が1カ月平均8,556円だったのに対し、2015年には5,960円と大幅に減少している。2010年にはすでに5,829円になっているのでリーマン・ショック以降、教育費は減少したままである。
しかし金額分布を見ると違った傾向が見えてくる。1,000円未満の回答が増えており、2015年では、全体でみると教育費をかけない家庭とかける家庭の2極化が進んでいる。全体で見るとコストをかけない家庭とかける家庭の二極化が進んでいる。教材の提供方法や種類が増え、安価に手に入れられるようになったことも関係しているようである。
●子育ての価値観が多様化
母親の子育てに関する価値観は多様化の傾向にある。「自分の生き方も大事にしたい」の回答が減り、「子供のためには自分ががまんするのはしかたない」とほぼ半数に。逆に「子どもが3歳くらいまでは母親がいつも一緒にいた方がいい」という、いわゆる「三歳児神話」も減少傾向にはあるが半数で、母親の多様化がここにも表れている。
保護者の考え方の多様化の一因に晩婚化も挙げられる。「乳幼児を持つ保護者を対象にアンケートを取る時も、その対象者は19歳~50歳程度と、ほぼ二世代が入るほどの幅広い年齢層になっている」(学び・生活研究室長の高岡純子氏)。
●知的教育ニーズの一方で意識が下がっているのは?
子育て全体で知的教育へのニーズがやや増加している傾向が見られる。「子育てで力を入れていること」という設問では、「数や文字を学ぶこと」「外国語を学ぶこと」の回答は1割程度かそれ以下ではあるが、10年間でやや増加している。一方で「友だちと一緒に遊ぶこと」の回答は約25%から19%に下がっている。働く母親が増え、平日、降園後に友だちと遊ぶ機会が減り、母親と一緒に遊ぶことが増えていることも背景にあると思われる。
母親たちも子どもを介した地域でのリアルな付き合いが減っており、子どもの生活が家庭と園に集約する傾向にあり、そこでどのように子育てや教育をしていくかの重要性が高まっている。「現在の乳幼児の親たちは第2次ベビーブームの後に生まれた世代が主で、初めて接する赤ちゃんが自分の子どもという人が約半数である。首都圏などの場合は実の親が近くにいないケースも多くあり、近くに話せる人がいない、また父親も仕事が忙しい、となると母親の孤独感は相当なもの」(高岡氏)。
●幼児教育の時期に身に付けた方がよい「学びに向かう力(非認知スキル)」
近年、「学びに向かう力(非認知スキル)」の重要性が強調されている。「認知スキル」とは従来のテストで測るような読み書き、計算などを指す。これに対し「非認知スキル」は粘り強さ、行動・感情のコントロール、協調性などの力である。ジェームズ・ヘックマン氏の行った「ペリー就学前計画の実験」では、充実した就学前教育を受けた子どもと、何もしなかった子どもを40年間追跡調査し比べた時に、学力だけでなく平均所得や持ち家率、逮捕者率まで差が出たという。この差には非認知スキルの力の差が大きく関係していた。これを受けて欧州では幼児教育を充実させたり、非認知スキルの向上に努めたりするようになった。
非認知スキルは生活科などの横断的・総合的な授業や課外活動などで身につくとされているが、「保育園や幼稚園ではすでに日々の活動の中で自然と取り入れられているのでは」と高岡氏は話す。ただ、意識せずにやってきたことに名称がつけられたことで、より意識してカリキュラムの中に取り込んでいくことが期待される。
また非認知スキルと認知スキルは相互に関係しており、さらにその土台となるのが生活習慣だ。「『幼児期から小学生までの家庭教育調査』の結果では、年少の段階で生活習慣をしっかり身に付けている子どもは、年中時での学びに向かう力の成長に結びつく。さらに年中時に学びに向かう力が高まると、年長時で文字・数・思考の力が高まる。さらに年長時に3つの力が高まると、小学校に上がった時、自分から進んで学習するといった学習態度につながっていく流れが見えてきた。
「幼児期にどのような体験を積んでいくかが非常に大切。順序性を大切にして、幼児期にふさわしい遊びを通して学びに向かう力を身に付けることが大切になると考えます」(高岡氏)。
文字や数などを早くから学ばせたいというニーズが増加しているが、生活習慣を身につけ、非認知スキルを伸ばすといった基本的なことも乳幼児のうちから身に付けておくべきだろう。
※ベネッセ教育総合研究所「第5回幼児の生活アンケート」1995年~2015年調査
「幼児期から小学生までの家庭教育調査 縦断調査」2012~2018年調査
【連載】進化する幼児教育ビジネス
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#1 3歳からプログラミング教育は必要?早くから身に付けておきたい力とは
#2 子どもも英語+αが求められる時代!職業体験を通じて身に付ける
#3 特別支援学級の生徒こそ「スマホ学習」が必要な理由は?
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教育への意識はどう変わったか
●子どもへの学歴期待が高まっている
「第5回幼児の生活アンケート」調査では、乳幼児を持つ首都圏の母親の最終学歴のうち四年制大学以上の割合が15.7%(2000年)から36.5%(2015年)に増加。子どもへの学歴期待では4年制大学卒が増加し、知的教育のニーズもやや高まっている。
首都圏に住む乳幼児で、習い事をしている割合は、4歳で急に増加して約5割に達し、6歳には8割以上になる。4歳以上の幼稚園児では、習い事をする率は7割を超えている。4歳以上の保育園児は2015年で56.7%(首都圏のみ)である。
●習い事の種類は変化なし
習い事の種類で一番多いのはスイミング。これに、通信教育、体操と続く。また10年ほど前から英語教育が若干増加している。体を動かすものか、学習に関しての習い事が変わらず人気である。
●教育費二極化(金額)
子どもにかける習い事などの費用はどう変化しているのか。少子化に伴うコスト集中で一人あたりの教育費は増えていると思いきや、1995年が1カ月平均8,556円だったのに対し、2015年には5,960円と大幅に減少している。2010年にはすでに5,829円になっているのでリーマン・ショック以降、教育費は減少したままである。
しかし金額分布を見ると違った傾向が見えてくる。1,000円未満の回答が増えており、2015年では、全体でみると教育費をかけない家庭とかける家庭の2極化が進んでいる。全体で見るとコストをかけない家庭とかける家庭の二極化が進んでいる。教材の提供方法や種類が増え、安価に手に入れられるようになったことも関係しているようである。
子どもをどのように育てたいか
●子育ての価値観が多様化
母親の子育てに関する価値観は多様化の傾向にある。「自分の生き方も大事にしたい」の回答が減り、「子供のためには自分ががまんするのはしかたない」とほぼ半数に。逆に「子どもが3歳くらいまでは母親がいつも一緒にいた方がいい」という、いわゆる「三歳児神話」も減少傾向にはあるが半数で、母親の多様化がここにも表れている。
保護者の考え方の多様化の一因に晩婚化も挙げられる。「乳幼児を持つ保護者を対象にアンケートを取る時も、その対象者は19歳~50歳程度と、ほぼ二世代が入るほどの幅広い年齢層になっている」(学び・生活研究室長の高岡純子氏)。
●知的教育ニーズの一方で意識が下がっているのは?
子育て全体で知的教育へのニーズがやや増加している傾向が見られる。「子育てで力を入れていること」という設問では、「数や文字を学ぶこと」「外国語を学ぶこと」の回答は1割程度かそれ以下ではあるが、10年間でやや増加している。一方で「友だちと一緒に遊ぶこと」の回答は約25%から19%に下がっている。働く母親が増え、平日、降園後に友だちと遊ぶ機会が減り、母親と一緒に遊ぶことが増えていることも背景にあると思われる。
母親たちも子どもを介した地域でのリアルな付き合いが減っており、子どもの生活が家庭と園に集約する傾向にあり、そこでどのように子育てや教育をしていくかの重要性が高まっている。「現在の乳幼児の親たちは第2次ベビーブームの後に生まれた世代が主で、初めて接する赤ちゃんが自分の子どもという人が約半数である。首都圏などの場合は実の親が近くにいないケースも多くあり、近くに話せる人がいない、また父親も仕事が忙しい、となると母親の孤独感は相当なもの」(高岡氏)。
●幼児教育の時期に身に付けた方がよい「学びに向かう力(非認知スキル)」
近年、「学びに向かう力(非認知スキル)」の重要性が強調されている。「認知スキル」とは従来のテストで測るような読み書き、計算などを指す。これに対し「非認知スキル」は粘り強さ、行動・感情のコントロール、協調性などの力である。ジェームズ・ヘックマン氏の行った「ペリー就学前計画の実験」では、充実した就学前教育を受けた子どもと、何もしなかった子どもを40年間追跡調査し比べた時に、学力だけでなく平均所得や持ち家率、逮捕者率まで差が出たという。この差には非認知スキルの力の差が大きく関係していた。これを受けて欧州では幼児教育を充実させたり、非認知スキルの向上に努めたりするようになった。
非認知スキルは生活科などの横断的・総合的な授業や課外活動などで身につくとされているが、「保育園や幼稚園ではすでに日々の活動の中で自然と取り入れられているのでは」と高岡氏は話す。ただ、意識せずにやってきたことに名称がつけられたことで、より意識してカリキュラムの中に取り込んでいくことが期待される。
また非認知スキルと認知スキルは相互に関係しており、さらにその土台となるのが生活習慣だ。「『幼児期から小学生までの家庭教育調査』の結果では、年少の段階で生活習慣をしっかり身に付けている子どもは、年中時での学びに向かう力の成長に結びつく。さらに年中時に学びに向かう力が高まると、年長時で文字・数・思考の力が高まる。さらに年長時に3つの力が高まると、小学校に上がった時、自分から進んで学習するといった学習態度につながっていく流れが見えてきた。
「幼児期にどのような体験を積んでいくかが非常に大切。順序性を大切にして、幼児期にふさわしい遊びを通して学びに向かう力を身に付けることが大切になると考えます」(高岡氏)。
文字や数などを早くから学ばせたいというニーズが増加しているが、生活習慣を身につけ、非認知スキルを伸ばすといった基本的なことも乳幼児のうちから身に付けておくべきだろう。
※ベネッセ教育総合研究所「第5回幼児の生活アンケート」1995年~2015年調査
「幼児期から小学生までの家庭教育調査 縦断調査」2012~2018年調査
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