「人生100年時代」 生保じゃなく損保各社がサービス競う
700万人に増える認知症対策に工夫
日本は世界指折りの長寿国だ。100歳以上の高齢者が増えており、「人生100年時代」を迎える中、損害保険各社はこうした状況を商機と見て、さまざまな趣向を凝らし、高齢化社会を支える保険商品の販売を強化している。
長寿命化に伴い患者の急増が見込まれるのが「認知症」。2025年は認知症患者が現在に比べ約1・5倍増えた約700万人になる試算もある。国民の65歳以上の5人に1人が認知症になる計算だ。
認知機能の低下が原因で起こりうるのが自動車事故。そのため損保各社はいずれも、誰もが安全に長く運転できる社会の実現に向け、高機能なドライブレコーダーや付随サービスを活用し、他社と差別化した安全運転支援に取り組む。
三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の両社は、高速道路のインターで逆走の可能性を検知した場合に注意喚起するサービスを提供。また高齢者の多くが限られた生活圏で暮らしている状況を踏まえ、事前に設定した指定区域外に出ると運転者に通知し、不慣れな土地での交通事故を防ぐサービスも実施。
東京海上日動火災保険はいち早くドラレコを活用した自動車保険の特約を提供した。3月末で22万件の契約件数があり、2輪車や原付き以外に対象範囲を広げている。強みは事故発生時の迅速な対応。事故の衝撃で運転者の意識がない場合でも、提携先の救急応対担当者が最寄りの救急に連絡する。
損保ジャパン日本興亜は1月に、WEB上で自分の認知機能を確認できるコンテンツを提供。視覚機能を鍛えるサービスとセットで運転寿命の延伸につなげる狙いだ。綜合警備保障(ALSOK)の駆けつけサービスは、交通事故の示談交渉に不安を抱く高齢者や女性に人気という。
認知症患者が線路に立ち入り、電車が遅延するなどの事態になれば、経済的な損失が大きい。神戸市はこうした事案が起きないよう認知症に優しいまちづくりを始めている。運用を支援しているのは三井住友海上火災保険だ。
認知症患者が起こした事故で問題になるのが責任能力の有無。本人に賠償責任が認められなくても、配偶者ら監督義務者に対して多額の賠償請求が行われるケースもある。事故の被害者も責任能力の有無を争う長期にわたる裁判で心身を疲弊しやすい。
こうした中、神戸市が認知症患者らが安心して暮らせるまちづくりを目指し取り組みを始めた。同市が進める「神戸モデル」は、認知症の診断助成制度と事故救済制度を組み合わせ、必要な財源約3億円を市民が負担する全国初の取り組みだ。
先行して診断助成制度を開始。4月に認知症患者が起こした事故の被害者を救済する制度がスタートした。「被害者と認知症患者の家族、両者を救済する視点が重要」(神戸市の担当者)とした。
神戸市民同士で死亡事故が起きた場合には責任能力の有無にかかわらず最高3000万円の給付金を被害者側に支給。賠償責任能力が認められれば、加害者側にも最大2億円の保険金を支給する。「被害者は泣き寝入りの事実だけが残りやすい。同時に両者にセーフティーネットがあることが特徴だ」(三井住友海上火災保険)。
個人賠償責任保険に似ているが、同保険は責任が認められて初めて補償対象になる点が異なるという。自治体と損保会社が連携して進める「神戸モデル」は、今後、認知症患者に優しい新たなまちづくりのモデルになる可能性がある。
平均寿命の伸びに関係するのが親の介護問題。急増が見込まれる認知症などで親が要介護状態になる可能性は誰にでも起こりうる。
介護リスクを抱える中心は企業の中核を担う30代後半から50代前半の人材。介護離職が増加すれば、企業側にも損失がある。そのため注目されているのが、仕事と介護の両立を経済的に支援する親介護補償の保険だ。
親介護の保険は、企業の従業員向けの団体保険が主流。損保ジャパン日本興亜は被保険者となる従業員の親らが要介護状態になれば補償対象にする。公的介護保険制度の給付対象外の諸費用や限度額を超える自己負担分をカバー。同社は介護事業を手がけており、見守りや住宅改修でも提携事業者を利用すれば、料金を直接事業者に支払うため、「自己負担が発生しない」。
三井住友海上火災保険やあいおいニッセイ同和損害保険は、介護休業時の給与補償が特徴だ。「先が見えない介護でも離職せず働ける」という。
団体保険がメーンの商品だが、個人向けもある。東京海上日動火災保険は五つの生活習慣病で就業不能に陥るリスクを補償する保険に、仕事と介護の両立支援を特約として用意。保険対象者の親や配偶者の親が要介護状態になると一時金を支給する。
厚生労働省は2025年に認知症患者が700万人になると試算する。介護の平均期間は約10年で、費用総額が1000万円を超えることも珍しくない。今後、経済的な負担を軽減し、仕事と介護を無理なく両立できる親介護保険の存在がますます注目されそうだ。
(文=増重直樹)
長寿命化に伴い患者の急増が見込まれるのが「認知症」。2025年は認知症患者が現在に比べ約1・5倍増えた約700万人になる試算もある。国民の65歳以上の5人に1人が認知症になる計算だ。
認知機能の低下が原因で起こりうるのが自動車事故。そのため損保各社はいずれも、誰もが安全に長く運転できる社会の実現に向け、高機能なドライブレコーダーや付随サービスを活用し、他社と差別化した安全運転支援に取り組む。
三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の両社は、高速道路のインターで逆走の可能性を検知した場合に注意喚起するサービスを提供。また高齢者の多くが限られた生活圏で暮らしている状況を踏まえ、事前に設定した指定区域外に出ると運転者に通知し、不慣れな土地での交通事故を防ぐサービスも実施。
東京海上日動火災保険はいち早くドラレコを活用した自動車保険の特約を提供した。3月末で22万件の契約件数があり、2輪車や原付き以外に対象範囲を広げている。強みは事故発生時の迅速な対応。事故の衝撃で運転者の意識がない場合でも、提携先の救急応対担当者が最寄りの救急に連絡する。
損保ジャパン日本興亜は1月に、WEB上で自分の認知機能を確認できるコンテンツを提供。視覚機能を鍛えるサービスとセットで運転寿命の延伸につなげる狙いだ。綜合警備保障(ALSOK)の駆けつけサービスは、交通事故の示談交渉に不安を抱く高齢者や女性に人気という。
認知症患者が線路に立ち入り、電車が遅延するなどの事態になれば、経済的な損失が大きい。神戸市はこうした事案が起きないよう認知症に優しいまちづくりを始めている。運用を支援しているのは三井住友海上火災保険だ。
認知症患者が起こした事故で問題になるのが責任能力の有無。本人に賠償責任が認められなくても、配偶者ら監督義務者に対して多額の賠償請求が行われるケースもある。事故の被害者も責任能力の有無を争う長期にわたる裁判で心身を疲弊しやすい。
こうした中、神戸市が認知症患者らが安心して暮らせるまちづくりを目指し取り組みを始めた。同市が進める「神戸モデル」は、認知症の診断助成制度と事故救済制度を組み合わせ、必要な財源約3億円を市民が負担する全国初の取り組みだ。
先行して診断助成制度を開始。4月に認知症患者が起こした事故の被害者を救済する制度がスタートした。「被害者と認知症患者の家族、両者を救済する視点が重要」(神戸市の担当者)とした。
神戸市民同士で死亡事故が起きた場合には責任能力の有無にかかわらず最高3000万円の給付金を被害者側に支給。賠償責任能力が認められれば、加害者側にも最大2億円の保険金を支給する。「被害者は泣き寝入りの事実だけが残りやすい。同時に両者にセーフティーネットがあることが特徴だ」(三井住友海上火災保険)。
個人賠償責任保険に似ているが、同保険は責任が認められて初めて補償対象になる点が異なるという。自治体と損保会社が連携して進める「神戸モデル」は、今後、認知症患者に優しい新たなまちづくりのモデルになる可能性がある。
「介護保険」離職を防ぐか
平均寿命の伸びに関係するのが親の介護問題。急増が見込まれる認知症などで親が要介護状態になる可能性は誰にでも起こりうる。
介護リスクを抱える中心は企業の中核を担う30代後半から50代前半の人材。介護離職が増加すれば、企業側にも損失がある。そのため注目されているのが、仕事と介護の両立を経済的に支援する親介護補償の保険だ。
親介護の保険は、企業の従業員向けの団体保険が主流。損保ジャパン日本興亜は被保険者となる従業員の親らが要介護状態になれば補償対象にする。公的介護保険制度の給付対象外の諸費用や限度額を超える自己負担分をカバー。同社は介護事業を手がけており、見守りや住宅改修でも提携事業者を利用すれば、料金を直接事業者に支払うため、「自己負担が発生しない」。
三井住友海上火災保険やあいおいニッセイ同和損害保険は、介護休業時の給与補償が特徴だ。「先が見えない介護でも離職せず働ける」という。
団体保険がメーンの商品だが、個人向けもある。東京海上日動火災保険は五つの生活習慣病で就業不能に陥るリスクを補償する保険に、仕事と介護の両立支援を特約として用意。保険対象者の親や配偶者の親が要介護状態になると一時金を支給する。
厚生労働省は2025年に認知症患者が700万人になると試算する。介護の平均期間は約10年で、費用総額が1000万円を超えることも珍しくない。今後、経済的な負担を軽減し、仕事と介護を無理なく両立できる親介護保険の存在がますます注目されそうだ。
(文=増重直樹)
日刊工業新聞2019年5月16日/17日/18日