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化粧で認知症は予防できる!?健康寿命は日常行動で伸ばそう

資生堂、美容教室で脳に刺激
化粧で認知症は予防できる!?健康寿命は日常行動で伸ばそう

資生堂は、高齢者向けの美容教室や介護スタッフ・介護に関心のある人を対象にしたセミナーを開催

 人生100年時代をどう生きるか―。「寝たきり」や「認知症」のように介護を必要とせず、自立した生活が送れる期間を示す健康寿命。平均寿命が延びる中、介護を必要とする期間も延びており、社会問題の一つになっている。化粧品・日用品各社では、長寿命社会に対応した商品やサービスの開発だけでなく、セミナーやイベントの実施など、独自の取り組みに力を入れる。

資生堂、化粧で認知機能維持


 2016年の平均寿命は男性は80・98歳、女性は87・14歳。一方で、健康寿命は男性は72・14歳、女性は74・79歳で、介護などを必要とする期間は男性では8・84年、女性は12・35年にのぼる。

 資生堂は、高齢者向けの美容教室や介護スタッフ・介護に関心のある人を対象にしたセミナーを開いている。17年は高齢者対象の「いきいき美容教室」を年間のべ約3万5000人が受講した。“美容と健康”ではなく、“美容で健康”を目指して、化粧を高齢者の認知機能を維持するためのツールの一つと捉える。

 化粧をすると楽しい気分になったり、人に会うときに自信が持てるなど精神的にも良い効果がある。それに加えて、化粧をする動作は、握力や腕の筋肉トレーニングにもつながり、身体能力も向上するという。ライフクオリティー事業グループの池山和幸マネージャーは「スキンケアをした後にメーキャップをするように料理同様、段取りや手順を頭で考えるため、脳にも刺激を与える」と話す。

 実際、化粧の動作は食事の動作と比べて2―3倍の筋力が必要になる。化粧水や乳液を顔に手で付けるスキンケアの動作は、生活を営む上で必要な日常生活動作(ADL)の維持に役立つ。化粧水などの容器も形がさまざまで、それが健康器具の役割も果たす。ディスペンサーを押すタイプやキャップを回して開けるタイプなど、指先や関節などの上肢運動にもつながる。介護施設でスキンケアをするようにアドバイスすると、食事動作が速くなるといった効果も得ている。メーキャップは、緻密な巧緻動作に当たり、まゆげをかく動作だけでも負荷がある。

 腕は平均3キログラムあり、腕の曲げ伸ばしでも筋肉が鍛えられる。70歳以上の人には化粧をすることで筋力の衰えを抑えるなど化粧療法の効果がある。またスキンケアをする際に唾液(だえき)腺をマッサージすると唾液が出て、口腔(こうくう)ケアにもつながる。池山マネージャーは「自治体にも働きかけて、高齢者の閉じこもりや孤独死防止といったサービスへの転換にもつなげたい」と話す。

ユニ・チャーム、楽しく歩いて海馬拡大


 ユニ・チャームは、認知症予防となる社会参加型のウオーキングを提唱している。「健康寿命の延伸」という課題に対して、軽い尿漏れ用紙オムツなど製品にとどまらない解決策を示している。

 4月21日に葛西臨海公園(東京都江戸川区)で、一般市民を対象にした「ソーシャル・ウオーキング体験会」を開いた。「ソーシャル・ウオーキング」とは人と関わって、楽しみながら歩くという意味の造語だ。平均年齢70歳の参加者が約60人集まり、1時間半ほど公園内を歩いた。

 歩くと、脳に栄養と酸素が送られて、記憶をとどめる海馬の容量を拡大する効果がある。米ピッツバーグ大学の研究によると、1日40分・週3回ウオーキングした人は、ストレッチのみを行った人よりも海馬が大きくなることがわかった。また歩幅が狭いと、認知機能が低下するリスクが高いという。そのため歩幅は横断歩道の幅45センチメートルより大きい65センチメートルを維持することが大事となる。

 歩くことに加えて、家族や友人などとの交流による社会参加が認知症予防には重要。東京都健康長寿医療センター研究所の藤原佳典氏は「言葉や感情など、コミュニケーションをとるために神経を使う。脳を使えば使うほど、神経網が充実してくる」と強調する。

 参加者はただ歩くだけでなく、ポールを使うノルディックウオーキングを体験した。ノルディックウオーキングは、下半身だけでなく腕や上半身の筋肉も使う。普通のウオーキングの1・2―1・3倍のエネルギー消費量で、より効率的に有酸素運動ができる。

 一般参加者とともにウオーキングした高原豪久社長は「ノルディックウオーキングの目的は健康寿命の延伸だ。認知症予防にも効果があり、草の根活動につながる」と述べた。
ユニ・チャームのソーシャル・ウオーキング体験会。高原社長も参加した
日刊工業新聞2018年5月31日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
「化粧をする」「歩く」といった何げない日常行動は、認知症予防の積み重ねになる。男女ともに健康寿命と平均寿命には約10年の差がある。少しでも長く健康で自立した生活を送れるように、各社工夫を凝らした取り組みを続ける。(日刊工業新聞社・高島里沙)

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