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米テキサス州や台湾よ、活目せよ!「N700S」が時速360kmで走る

JR東海は東海道新幹線の次期車両「N700S=写真」を最高時速360キロメートルで走行する試験を2019年中に実施する。20年度の営業投入に向けた確認試験車による試験の一環で、営業運転の同285キロメートルを上回る速度で走行させる。N700Sは車両数の変更で海外の高速鉄道にも適用できる設計のため、高速性を訴える。N700Sは東海道新幹線の車両編成の16両以外でも運行できるのが特徴で、JR東海は米テキサス州や台湾の高速鉄道へのN700Sをベースにした車両の採用を目指している。金子慎社長は最高時速360キロメートルについて「高い性能を発揮できるとアピールしたい」と狙いを説く。

 確認試験車の走行試験は18年3月に始め、これまでに同330キロメートルで走行した。最高速度を引き上げても安全に走行できるか確かめる。N700Sは東海道新幹線では現行車両と同様、同285キロメートルで営業運転する。

日刊工業新聞2019年1月1日



搭載技術、まるっと早わかり


 JR東海の東海道新幹線次世代車両「N700S」確認試験車が3月20日から走行試験を始めた。2020年の営業車両投入を目指し、搭載する新技術の最終確認を進める。最高の新幹線車両という意味「Supreme(スプリーム)」の頭文字をとって名付けられた「N700S」は開発拠点の小牧研究施設(愛知県小牧市)と国内鉄道車両関連メーカーの技術の粋を結集して創り上げられたものだ。

高まる快適・安全性


 N700S確認試験車について、新幹線鉄道事業本部車両部の古屋政嗣担当部長は「技術開発の成果をふんだんに採用した」と紹介する。車両はJR東海子会社の日本車両製造と日立製作所が分担して今春完成させた。

 先頭は「デュアルスプリームウイング形」と呼ぶ鼻先にエッジを立てた形状。小牧研究施設での風洞実験や各種シミュレーションを通じて、導き出した答えだ。

 走行時の風の流れを整えて乗り心地をよくし、省エネルギー性も高めた。トンネル突入に発生する微気圧波も抑え、騒音低減の効果が得られる。

 N700Sに搭載する新技術の筆頭が、駆動システムだ。主変換装置(CI)にSiC(炭化ケイ素)パワーモジュールを採用。CIは、架線から取り込んだ単相交流の電力をいったん直流に変換し、再度モーター駆動用の三相交流に変換する装置。SiCは発熱が少ないことから、走行風で冷やせるようにして小型化を実現した。

複数社購買


 CIの小型化は床下機器の最適配置を可能とし、N700Sが特徴とする「標準車両」の実現に貢献した。編成を構成する車種は4種まで絞り込むことができ、量産効果が狙えることに加え、短編成による運用も可能。10月から8両編成での走行試験も予定する。

 CIはJR東海と東芝、日立、富士電機三菱電機が共同開発した。SiCパワーモジュールも4社が担当。東芝、日立、富士電はダイオードのみSiC素子の「ハイブリッドSiC」、三菱電はトランジスタもSiC素子で構成した「フルSiC」を供給する。

 フルSiCの方が性能に優れるが、十分な効果が得られるとして設計はハイブリッドSiCに合わせた。加えて新幹線には“複数社購買”という調達原則がある。複数社購買は品質へのリスク対策とともに、国内メーカーの技術力底上げを図るものだ。そろってフルSiCを供給できるようになれば、新幹線はさらに進化できる。

 SiC素子の高速スイッチング性能を生かして、モーターも小型化した。東芝と三菱電が新幹線初となる6極駆動モーターを開発。両社に加えて日立、富士電、東洋電機製造の5社で製造する。

 歯車装置では信頼性を高めるため、新幹線営業車で初めて歯車が向き合って一体化したヤマバ歯車を採用。歯車の向きが片方向だった従来装置に比べて、安定してかみ合い、走行時の騒音低減や、軸受の信頼性向上、省メンテナンスを実現した。

 新日鉄住金と共同で開発したものだが、開発過程で、JR東海の技術者は工作機械など実際のモノづくりに関する部分にも踏み込んだ。向かい合わせに歯車を形成する際、中央に溝が生じる。歯車の歯切り時に、加工直後の切削工具をワークから“逃がす”工程を工夫して溝の幅を縮め、小型化につなげた。

 パンタグラフも集電性能向上と省メンテナンス性に配慮し、新構造のたわみ式すり板を採用した。工進精工所(埼玉県狭山市)が開発し、同社と東洋電機製造が供給する。

走行データ再現


 N700Sでは、駅到着前に客室内が明るくなる発光ダイオード(LED)の調光システムを導入する。JR東海がシステムを開発し、コイト電工(静岡県長泉町)と東芝ライテックが納入。

 シートも機構や機能を見直して快適性を高めた。グリーン車はコイト電工が設計、普通車はコイト電工と天龍工業(富山市)が設計を担当した。両社とシロキ工業の3社が製造する。

 グリーン車の乗り心地を高めるフルアクティブ制振制御装置は、小牧研究施設の車両運動総合シミュレーターを使い開発した。実際の走行データを再現して、試作調整を繰り返した。

 JR東海では「大型試験装置で実証する」(大竹敏雄執行役員総合技術本部副本部長技術開発部長)開発サイクルを重んじているという。

 完成した装置は小型かつ省電力で車体の横揺れを大幅に抑えた。特にトンネル区間で揺れを半減できる。製造は日本車両とKYB、富士電の見通しだ。

重要デバイス


 補助電源には東芝インフラシステムズのリチウムイオン二次電池「SCiB」を採用した。N700Sは緊急時に電池を使って安全な場所に移動する。9月から試験を始める。自力走行は車両基地や工場内でも役立ちそうだ。高圧の架線をなくし、保全作業の軽減や安全性向上が図れる。

 電池は今後の新幹線で重要デバイスになるとみられる。JR東海幹部も、いずれ複数社購買を実現したい意向を持ち、電池容量が増えれば、さまざまな可能性が開けると話す。

 新技術を満載した次世代車両だが、従来車両と外観の差異は少ない。デザイナーの福田哲夫氏は「青と白の車体は東海道新幹線の象徴」と話す。N700Sも、長年培ってきた日本の高速鉄道技術の延長線上に存在する。
(日刊工業新聞社・小林広幸)
車両運動総合シミュレーター(JR東海の小牧研究施設)

日刊工業新聞2018年5月1日

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