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価格転嫁できない!給食業者が倒産に陥った“美味しくないビジネス”

価格転嫁できない!給食業者が倒産に至った“美味しくないビジネス”
価格転嫁できない!給食業者が倒産に陥った“美味しくないビジネス”

顧客に運営の主導権がある給食ビジネス(写真はイメージ)

 1970年に設立した給食受託業者の一冨士は、10月29日に破産手続き開始決定を受けた。食を通じて心身の成長を資する役割を担ってきたが、自社としての運営を断念した。

 事業内容は、都立学校・幼稚園向けの給食提供や、官公庁の食堂運営。調理室・食堂などのインフラ設備や固定費などは取引先の負担であり、同社は調理師・栄養士など従業員を配置し、給食を提供するという事業形態だった。旬の素材を生かした味と、顧客のニーズに合わせた献立を提供することで2002年3月期には年売上高約15億5500万円を計上していた。

 一方で、近年の人件費や光熱費など経費高騰に伴う価格転嫁ができなかった。前述の事業形態上、同社の一存ではメニュー価格や内容の改訂、人員配置の変更が難しく、これが収益を圧迫する原因となった。さらに官公庁向けの案件でも、受注を続けるべく低額での入札を繰り返し、採算がさらに悪化。

 16年頃からは、M&A(合併・買収)など事業売却を目指すなか、給食・食堂事業は公的側面から営業停止に伴う社会影響が大きいため、代表の役員貸し付けで、しのいでいた。

 だが、18年5月には国税庁から差し押さえを受け、資金繰りが急速に逼迫(ひっぱく)。8月には関係会社のIHK(旧商号:一富士ケータリング)の工場不動産と営業基盤を他社へ売却し、10月には一冨士からIHに商号を変更。大半の事業を別会社へ譲渡し、9月末までに事業を停止していた。IHKなど3社も同様の措置となり、グループ合計の負債額は約8億円超にのぼった。

 自社の固定費はかからないが、顧客に運営の主導権がある、リスクとベネフィットが表裏一体のビジネスモデルだった。そこには、変動費の高騰を吸収するバッファーが全くないという大きな落とし穴があった。一富士はその落とし穴に落ちた。
(文=帝国データバンク情報部)
<会社概要>
(株)IH
住所:東京都千代田区麹町2―7―3
代表:冨依サキ子氏
資本金:4850万円
年売上高:約8億320万円(18年1月期)
負債:約3億8019万円
日刊工業新聞2018年12月18日

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