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債権者も「まさか」、老舗の金物卸はなぜ突然倒産した?

百貨店離れで業績の悪化、店舗閉鎖…。最もスタンダードな傾向
債権者も「まさか」、老舗の金物卸はなぜ突然倒産した?

同社「金山新吉」インスタグラムより

 1933年創業の老舗の金物卸業者である吉安が、10月9日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請した。事前に兆候と思われるシグナルはなく、債権者の多くが「まさか」と思った倒産となった。

 同社は佐藤靖治氏が創業し、41年に法人に改組。その後は関係会社を設立し、主力の金物卸事業を関係会社に移管していたが、2005年に関係会社を吸収合併し、再び自社で金物卸事業を手がけてきた。

 主力の金物卸事業では、主要都市に事業所を開設し、全国に営業エリアを拡大した。ティファールやフィスラーなど世界中のキッチンブランドの各種調理用金物など1万2000を超えるアイテムを取り扱っていた。豊富なアイテム数を強みに、百貨店やホームセンターなど直近では全国約650社と取引し、都内屈指の家庭金物問屋だった。

 しかし、デフレの進捗(しんちょく)とともに海外で生産された安価な製品との競合などで業界環境が悪化。また、主力先である百貨店の金物商品の売り場面積が年々縮小し、客離れが加速。金物商品需要がさらに落ち込んでいった。

 このため、06年にセレクトショップ「金山新吉」をオープンするなど小売りにも力を入れていったが、卸売りの売り上げが著しく低下し、17年12月期にはついに営業損益段階から赤字に転落した。この間、店舗閉鎖を進めてきたが、資金繰り悪化から決済資金が調達できず、民事再生法を申し立てることとなった。

 さしたる事前のシグナルがなく、いわば突然の幕引きとなった今回の倒産劇。だが、業績の悪化、店舗閉鎖などの流れは倒産過程において見られる最もスタンダードな傾向であった。同社の倒産は、不振企業が早期の法的手続きに踏み切り、予期せぬ倒産が発生するリスクを改めて債権者などに思い知らせるケースになったのではないだろうか。
(文=帝国データバンク情報部)
<企業概要>
(株)吉安
住所:東京都足立区千住関屋町8―12
代表:佐藤和成氏
資本金:5766万円
年売上高:約36億5700万円(17年12月期)
負債:約16億2500万円
日刊工業新聞2018年11月27日

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