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女性の活躍拡大へ、日本の課題は“親の意識”と“固定概念”

SOMPO企業保険金サポート 陶山さなえ社長の「卓見異見」
**尾を引く教育の女性差別
日本、過去最低の114位
 「ジェンダー・ギャップ指数」という言葉を聞いたことがあるだろうか。これは世界各国の男女間の不均衡を表す指数だ。2006年から世界経済フォーラム(ダボス会議)が公開しており、各国のスコアをランキングしている。では、約140カ国程度のうち日本は何位だろうか。残念ながらここ数年100位前後にとどまっており、17年は過去最低の114位に沈んだ。

 このジェンダー・ギャップ指数を通じて、日本の弱点が分かる。それは日本の女性の経済と政治への参画が少ないことだ。これは、日本では男性が対価を得る労働に就き、女性は出産や育児という母性に関わる無償の家事労働に縛られた習慣や歴史の結果である。だが、日本の将来を憂う必要はない。なぜなら経済と政治の両面で、女性の参画を後押しする仕組みができ、取り組みが強化されているからだ。楽天的だと思われるかもしれないが、これらの環境整備が今の速度で進めば、間違いなく近い将来に解決できるだろう。

 しかし我々は環境が好転する中でも、日本のジェンダー・ギャップ指数から見えてくる二つの「真の課題」に目を向けなくてはならない。一つ目は、これからの人材・次世代の若者たちへの教育であり、人材を育てる親の意識と危機感の薄さだ。私はこれを最も深刻な課題と捉えている。

親の意識は昭和のまま
 私が小学生の頃、出席番号は男子から始まり、その後に女子が続いた。運動会での役目といえば力仕事は男子、女子はけが人の救護や運営のサポートが中心だ。中学、高校時代も、生徒会長は男子、勉強ができて気が利く女子はその補佐役というのが暗黙のルールだった。これらは無意識に、常識として私たちに刷り込まれているようだ。

 今の教育現場では、出席番号は男女混合の並びとなり、運動会の徒競走も体力差が出るまでは男女混合で行われていることが多い。このように「ジェンダーフリー」が進む側面もあるが、いまだに女子の大学の選択に関しては、現役合格か親元に近い地元の大学を進学の条件としている家庭が多い実態もある。

 私は勉強したい女子が自分の持てる能力に最大限まで挑戦する機会を「女子だから」という理由で制限されない時代になってほしいと考えている。しかし一部の親は、女性が将来、家計を支えるとか一家の大黒柱になるという発想がなく、女子を教育投資の対象と見ていない。

 97年以降、共稼ぎ家庭が全体の半数以上となり、10年には妻に専業主婦を望む家庭は全体の10%以下に低下した。これは若者の意識が変わった結果だ。ところが親の意識は「昭和の常識」のまま。このギャップを早期に埋めるべきだが、刷り込みによる影響は想像以上に手ごわい。

職業や経済力、格差なお
 二つ目の課題は、女子の職業選択の自由と理系女子の不足に関するものだ。私が子どもの頃、大人になったら何になりたいと問われた時、男子は野球選手、医師、警察官と答え、女子は幼稚園の先生、お花屋さん、ケーキ屋さんというのが定番だった。「女子には医師や警察官は大変だ」「子どもが生まれたら続けられないだろう」という無意識のバイアスにより、男子の職業、女子の職業が常識として決められていた。

 しかし、女性も自由に職業を選択することが当たり前になれば、女性だけではなく男性も生き方がもっと自由に、楽しくなるのではないか。固定概念を捨て、夫婦が互いの環境や得手不得手で、役割や責任を分担することが自然にできる時代になると、自然体で豊かな人生が送れる。

 「奥さんが自分より経済力があることが恥ずかしい」とか「男だから大黒柱にならないと」なんて古くさい。女性が外で活躍して、男性が子育てしてもよい。そうすれば男女ともに働きやすく、安定した人生が送れるようになるのではないか。こうした側面を踏まえ、日本における女性活躍の推進やジェンダー・ギャップを深く検証するのも面白い。

【略歴】すやま・さなえ 79年(昭54)白百合女子大文卒、同年安田火災(現損保ジャパン日本興亜)入社、医療保険サービスセンター部長などを経て13年執行役員。17年から現職。61歳。

SOMPO企業保険金サポート 陶山さなえ社長
日刊工業新聞2018年11月19日

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