全く新しい発想のロボットは、常に「基本的な問い」から生まれる
シリーズインタビュー「企画」#6
ロボット研究者・石黒浩さんは、著名人そっくりのアンドロイドや、接客が上手なコミュニケーションロボット、ちょっと“キモチワルイ” テレノイドなど、斬新でインパクトが大きなロボットを次々と手がける。
今回、石黒さんに新しいモノを生み出す時に大切にしていることを聞いた。ただ単に、精巧さ、新奇さを追求しているのではない。ロボット研究の根底には、「人間とは何か?」という基本的な問いがある。実は、基本的なことへの問いかけに、新しさや斬新さのカギがあった。(文、写真・平川 透)
—新しいことを始める時に大切にしていることは何ですか?
常に「基本問題」から考えること。例えば「人間って何か」。基本問題が一番重要なんだよね。
でも、基本問題ばかりを考えていても、ゴールに到達する道が見えない。ゴールを見るためには、ありとあらゆることに興味を持つこと。色々なものを見て「どうしてそうなるんだろう?」とか「人間の中で何が起こっているんだろう?」と疑問を抱く。湧いてきた疑問の全てに対して説明しようとする。その中で、自分が説明できるものから順番に取り組んでいく。
—色々なものに対し疑問を抱いて、できるところから解決していくのですね。
そうやって形になったロボットや技術において重要なことは、「使ってみる」ということなんだよね。作ったら、必ずどこかで使ってみること。研究室で作って終わりじゃなくてね。世の中で使ってみた時に、どうなるのかを見る。デパートで接客させてみるとかね。そういうのを実証実験って言うんだけど、実証しないと作ったものが持っている本当の意味がわからない。基本問題や解くべき問題は世の中にあるわけで、研究室にあるわけではない。それに、実証実験をやっていると新しい問題がどんどん出てくるので、研究のネタで困ることがまずない。
ただし、全く新しいものを生み出そうとする時には、実証実験の繰り返しだけじゃ足りない。自分を追い詰めないとダメなんだよ。でも、追い詰めることはなかなか難しい。
—「追い詰める」とはどういうことですか?
説明がすごく難しいんだけど、何かを思いついたり発見したりするためには、右脳と左脳がガーンとつながらないといけないというか。他のことを全部忘れて、物事を深く考えられる脳の状態があると思う。そういう状態を作らないといけない。
—「ゾーンに入る」というような表現がありますよね。
ある問題を解くために集中して「ゾーンに入る」っていうのはあるでしょう。でも僕はそうじゃないと思っている。例えば、「ものすごく生きたい!」とか「感動した!」というような、ある種の興奮状態になっていたり、何かに夢中になっている状態が大事。そういう時ってアイデアが出やすくなる。
—そういう状態を意識的にたくさん作れたら生産的ですね。
とにかく色々なことをしていないと、そういう場面に出会わないよね。色々なものに興味を持っていないと、何が自分をそうさせてくれるのかわからない。
例えば、最近ふとしたきっかけでモデルガンにハマっていて。モデルガンが持っている「生命性」「生命感」ってあるでしょ。
—モデルガンの生命感…ちょっとわかりません。
人の命を握っている感じがするでしょ。モデルガンを握るだけで「何でこんなにドキドキするんだろう?」って。箸やコップを握る感覚とは全然違う。モデルガンに触れた途端に、「モデルガンの持っている生命感」と「アンドロイドの生命感」とではどちらが強いのか?異質なのか?それとも同じなのか?っという感じで疑問が溢れてくる。で、モデルガンをいっぱい買っちゃって。気がついたら6丁くらいあった。どれが一番「生命感」があるのかを触って比べた。
—モデルガンとアンドロイドをつなげて考えるんですね。
基本問題が深いから全ての問題がつながる。もし僕が人間に興味がなかったら、多分こんな風な興味をモデルガンに対して持たなかったと思う。
「何だこれ!」って思った瞬間に、関係あること無いこと全てを考えちゃう。その時の興奮が、色々なものを結びつけるわけ。常に「人間とは何だ?」という基本問題に向き合っているので、全てがリンクしてくる。
このように、新しいモノやコンセプトを生み出す時に大切なのは、まずは基本的な問題を持つこと。ものすごく基本的なものを抱いて、ある種の興奮状態になって色々なものがつながった時の準備をしておかないといけない。
「つながる」という、なかなかできない体験をするには、色々な物事に興味を持たないといけない。ありとあらゆることをやっておかないといけない。興奮状態になることが少ない時は、色々な物事に対する興味が薄れていたり、問題を追求しようという状態がちゃんとできていなかったりするのかな。
—もともと好奇心が強いのですか?
めちゃくちゃ強い方だと思う。特に自分に対する好奇心が強い。
—新しいモノを生み出すためには、対象や内容が自分の関心に沿っている方が良いのでしょうか?
自分を犠牲にして、「人のために何かしよう」といったような思いで本当にクリエィティブになれるのだろうか? 自分が抱く基本問題の探求のため以外に、心底のめり込むことができるものはあるのだろうか? 結果的に世の中のためになれば、それはそれで良いのだけれど。「自分がどれだけ満足して、そして、その自分を次の自分が追い越せるかってことが一番大事なんじゃないのか?」と思っている。
こういったことは当たり前のことなんだけど、毎日、常にやっていられるかどうかなんだよね。基本問題をずっと考えることが大事。
【略歴】いしぐろ・ひろし
1963年、滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。大阪大学大学院基礎工学研究科教授。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。人間酷似型ロボット(アンドロイド)研究を通じ、「人間とは何か?」という基本問題を探求する。
著書は、「ロボットとは何か」(講談社)、「人と芸術とアンドロイド」(日本評論社)、「“糞袋”の内と外」(朝日新聞出版)、「アンドロイドは人間になれるか」(文藝春秋)、「枠を壊して自分を生きる。」(三笠書房)、「人間とロボットの法則」(日刊工業新聞社)、「僕がロボットをつくる理由」(世界思想社)など多数。
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#6 ロボット研究者・石黒浩さん
全く新しい発想のロボットは、常に「基本的な問い」から生まれる
きかく【企画】…新しい事業・イベントなどを計画すること。(新明解国語辞典第七版より)
辞書の説明にふんわりと沿う形で、色々な業界の方に「アイデアを生み出し、形にするために大切にしていること」「仕事で成果を出すために大切にしていること」などをインタビューしていきます。>
今回、石黒さんに新しいモノを生み出す時に大切にしていることを聞いた。ただ単に、精巧さ、新奇さを追求しているのではない。ロボット研究の根底には、「人間とは何か?」という基本的な問いがある。実は、基本的なことへの問いかけに、新しさや斬新さのカギがあった。(文、写真・平川 透)
モデルガンとアンドロイド
—新しいことを始める時に大切にしていることは何ですか?
常に「基本問題」から考えること。例えば「人間って何か」。基本問題が一番重要なんだよね。
でも、基本問題ばかりを考えていても、ゴールに到達する道が見えない。ゴールを見るためには、ありとあらゆることに興味を持つこと。色々なものを見て「どうしてそうなるんだろう?」とか「人間の中で何が起こっているんだろう?」と疑問を抱く。湧いてきた疑問の全てに対して説明しようとする。その中で、自分が説明できるものから順番に取り組んでいく。
—色々なものに対し疑問を抱いて、できるところから解決していくのですね。
そうやって形になったロボットや技術において重要なことは、「使ってみる」ということなんだよね。作ったら、必ずどこかで使ってみること。研究室で作って終わりじゃなくてね。世の中で使ってみた時に、どうなるのかを見る。デパートで接客させてみるとかね。そういうのを実証実験って言うんだけど、実証しないと作ったものが持っている本当の意味がわからない。基本問題や解くべき問題は世の中にあるわけで、研究室にあるわけではない。それに、実証実験をやっていると新しい問題がどんどん出てくるので、研究のネタで困ることがまずない。
ただし、全く新しいものを生み出そうとする時には、実証実験の繰り返しだけじゃ足りない。自分を追い詰めないとダメなんだよ。でも、追い詰めることはなかなか難しい。
—「追い詰める」とはどういうことですか?
説明がすごく難しいんだけど、何かを思いついたり発見したりするためには、右脳と左脳がガーンとつながらないといけないというか。他のことを全部忘れて、物事を深く考えられる脳の状態があると思う。そういう状態を作らないといけない。
—「ゾーンに入る」というような表現がありますよね。
ある問題を解くために集中して「ゾーンに入る」っていうのはあるでしょう。でも僕はそうじゃないと思っている。例えば、「ものすごく生きたい!」とか「感動した!」というような、ある種の興奮状態になっていたり、何かに夢中になっている状態が大事。そういう時ってアイデアが出やすくなる。
—そういう状態を意識的にたくさん作れたら生産的ですね。
とにかく色々なことをしていないと、そういう場面に出会わないよね。色々なものに興味を持っていないと、何が自分をそうさせてくれるのかわからない。
例えば、最近ふとしたきっかけでモデルガンにハマっていて。モデルガンが持っている「生命性」「生命感」ってあるでしょ。
—モデルガンの生命感…ちょっとわかりません。
人の命を握っている感じがするでしょ。モデルガンを握るだけで「何でこんなにドキドキするんだろう?」って。箸やコップを握る感覚とは全然違う。モデルガンに触れた途端に、「モデルガンの持っている生命感」と「アンドロイドの生命感」とではどちらが強いのか?異質なのか?それとも同じなのか?っという感じで疑問が溢れてくる。で、モデルガンをいっぱい買っちゃって。気がついたら6丁くらいあった。どれが一番「生命感」があるのかを触って比べた。
—モデルガンとアンドロイドをつなげて考えるんですね。
基本問題が深いから全ての問題がつながる。もし僕が人間に興味がなかったら、多分こんな風な興味をモデルガンに対して持たなかったと思う。
「何だこれ!」って思った瞬間に、関係あること無いこと全てを考えちゃう。その時の興奮が、色々なものを結びつけるわけ。常に「人間とは何だ?」という基本問題に向き合っているので、全てがリンクしてくる。
今の自分を自ら追い越せ
このように、新しいモノやコンセプトを生み出す時に大切なのは、まずは基本的な問題を持つこと。ものすごく基本的なものを抱いて、ある種の興奮状態になって色々なものがつながった時の準備をしておかないといけない。
「つながる」という、なかなかできない体験をするには、色々な物事に興味を持たないといけない。ありとあらゆることをやっておかないといけない。興奮状態になることが少ない時は、色々な物事に対する興味が薄れていたり、問題を追求しようという状態がちゃんとできていなかったりするのかな。
—もともと好奇心が強いのですか?
めちゃくちゃ強い方だと思う。特に自分に対する好奇心が強い。
—新しいモノを生み出すためには、対象や内容が自分の関心に沿っている方が良いのでしょうか?
自分を犠牲にして、「人のために何かしよう」といったような思いで本当にクリエィティブになれるのだろうか? 自分が抱く基本問題の探求のため以外に、心底のめり込むことができるものはあるのだろうか? 結果的に世の中のためになれば、それはそれで良いのだけれど。「自分がどれだけ満足して、そして、その自分を次の自分が追い越せるかってことが一番大事なんじゃないのか?」と思っている。
こういったことは当たり前のことなんだけど、毎日、常にやっていられるかどうかなんだよね。基本問題をずっと考えることが大事。
1963年、滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。大阪大学大学院基礎工学研究科教授。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。人間酷似型ロボット(アンドロイド)研究を通じ、「人間とは何か?」という基本問題を探求する。
著書は、「ロボットとは何か」(講談社)、「人と芸術とアンドロイド」(日本評論社)、「“糞袋”の内と外」(朝日新聞出版)、「アンドロイドは人間になれるか」(文藝春秋)、「枠を壊して自分を生きる。」(三笠書房)、「人間とロボットの法則」(日刊工業新聞社)、「僕がロボットをつくる理由」(世界思想社)など多数。
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#6 ロボット研究者・石黒浩さん
全く新しい発想のロボットは、常に「基本的な問い」から生まれる
きかく【企画】…新しい事業・イベントなどを計画すること。(新明解国語辞典第七版より)
辞書の説明にふんわりと沿う形で、色々な業界の方に「アイデアを生み出し、形にするために大切にしていること」「仕事で成果を出すために大切にしていること」などをインタビューしていきます。>
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