パルコが必要としたアップリンクの「カルチャー」と「ビジネスプラン」
シリーズインタビュー「企画」#5
今年12月に、東京に新しい映画館ができる。
吉祥寺パルコに入る「アップリンク吉祥寺」。29席から98席までの5スクリーンのミニシアターだ。
アップリンクの始まりは、浅井隆さんが1987年に立ち上げた映画配給会社。現在の主な拠点「アップリンク渋谷」は、ギャラリー、物販コーナー、カフェが併設されたミニシアターとして、様々なカルチャーを発信している。
ミニシアターのビジネスモデルは興味深い。シネコンとはキャパシティや上映作品が大きく異なるため、当然、ビジネスを行なっていく上での考え方や上映作品を選ぶ時に重要視するポイントが異なる。また、アップリンク吉祥寺の共同経営を行うパルコは、すでに自社の映画館があるにもかかわらず、なぜアップリンクと組むのか?
その辺りを解き明かすため、今回、浅井さんに「吉祥寺に新しい映画館をつくる理由」「パルコに力説した収支計画書」「クラウドファンディングによる資金調達法」「上映する作品を選ぶときに重要視すること」などを聞いた。今回は後編。
(文・平川 透、写真・北山哲也)
ーパルコと共同経営ですね。パルコと組むことの何か特別な意味はありますか?
パルコって公園通りの文化を牽引していた。オープンするにあたって今一緒にやっているパルコスタッフの中では、僕が一番パルコ文化を知っているんだよね。パルコって60歳で定年なんだよ。僕は63歳。そうすると、パルコのメンバーってみんな俺より年下なんだよね。
今、建て直している渋谷のパルコには「シネクイント」って映画館がある。シネクイントの前は「スペース・パート3」だった。スペース・パート3って何だったかと言うと、多目的ホールだったんだよね。そこで僕も演劇をやったこともあるし、ライブを観に行ったこともあるし、展覧会にも行ったし、映画もやっていた。
バウスシアター(吉祥寺、2014年閉館)でアップリンク初の配給作品「エンジェリック・カンヴァセーション」(監督・デレク・ジャーマン)をやった後、スペース・パート3でデレク・ジャーマンの短編特集を上映してすごく成功したし。
8、90年代のパルコのカルチャーを体験してきたんだよね。その頃のパルコは広告にしても一斉を風靡していたし、ファンションやカルチャーの発信力があった。パルコのスタッフの中に、僕がこういったことを体験してきたということを知っている人がいて、その辺りを役員会でプッシュしてくれたというのは聞いた。パルコとしたら、外の面白い力を入れたかったんじゃないの?と、良い方に理解している。
ー浅井さんやアップリンクに対しての期待感があるわけですね。
もちろんちゃんとした収支計画書を出している。
(1スクリーン当たり席をより確保できる)3スクリーンよりも、5スクリーンの方がいい成績を出せるということは力説した。小さく割って5スクリーンが良いと。その方が、売り上げを上げられることを収支計画書に書いていた。伝え聞いたことによると、色々なカルチャーを発信しているアップリンクへの評価に加え、どれだけ稼働率を上げて、お客さんを集められるかを示した収支計画書を評価してくれた。
ーアップリンクでは、配給作品や上映作品を選ぶ時に何を大切にしていますか?
一番は、お客さんが入るかどうかだよね。新作を上映するにあたっては、内容と同じようにパブリシティも大事だし、監督や俳優がどれだけ宣伝するのかが大きい。「このテーマは素晴らしいし、いい作品だけど、宣伝面などでちょっと厳しんじゃない?」という作品の上映は難しい。
アップリンクでは、オスカーにノミネートされた作品や「万引き家族」のようなパルムドール作品と一緒に、「カランコエの花」のような超インディーズの新作がかかっている。「万引き家族」の配給はGAGAだし、宣伝もロードショー当時にきっちりされている。一方で、インディーズの作品は宣伝力が弱かったりする。
でも、例えば、「カランコエの花」の場合は、アップリンクよりも先に上映したケイズシネマ(新宿)では満員になったと。それに監督や俳優が連日舞台挨拶しているので、彼らの映画を「推す」「応援する」というファンが湧き上がってきている。ツイッターなどのSNSを見ているとファンは2回、3回と観ている。そうなるとビジネスとして成り立つ。
また、うちの場合は「二番館」(ロードショーでの上映が終わったもの)の作品を上映しているケースが多い。二番館の場合は、ロードショーでお客さんが入った作品を選ぶ。シネコンで意外と早く上映が終わっちゃったな、とか、まだ見たい人がいると思うものを選ぶ。それはSNSも見ていればわかる。それに僕らは、試写じゃなくてロードショーに足を運んで、「入りはどうか」「お客さんの反応はどうか」って見ている。その中で、アップリンクのファンに喜ばれそうなものや、アップリンクらしい作品を選ぶ。つまり、ある程度作家性があったり、作品の内容が評価されているというところがもう一つの選ぶ基準。むっちゃくちゃなエンターテインメントは、シネコンの大きなスクリーンで観たい人が多いでしょうと。だから、アップリンクにそういう作品を引っ張ってきても、難しいかなと。
ーご自身の中の感覚はどうですか?
優先順位は一番下じゃないかな。自分ではいいなと思うけれど、お客さんは入らないんじゃないかといったところは、経験を積んで来てわかっている。自分の好みなどを優先してしまうと、客が入るとは限らなくなりビジネスを継続できなくなるので。
ーその他に、ミニシアターがビジネスとして継続するために大事なことは何ですか?
僕が(アップリンクが)選んだのは、「サイズ」。
アップリンクの規模感の映画館は、ほぼない。もちろん地方にはいくつかあるだろうけど、東京で40~60席の規模感で3スクリーンある映画館はほとんどない。サイズ的にはミニシアターよりもさらに小さいんだよね。ミニシアターって言われている映画館も100席、200席はある。渋谷で映画館を始めた時も、ミニシアターより小さいから、自称「マイクロミニシアター」と言っていた。40、41、58席だからマイクロをつけた。オープン予定の吉祥寺も100席で3スクリーンとせず、29席から98席まである5スクリーンにした(少ない席数のスクリーンをなぜあえて作るのか?理由は前編で語られています)。
ところで、データを見れば配給本数ってすごく増えてきてるよね。世界に目を向けても、映画祭とかマーケットに行っても作品が増えている。なぜなら、デジタルで映画を作れるようになったから。一眼レフでもiPhoneでも撮れる。フィルムで作っていたひと昔前よりも、圧倒的に安く、簡単に映画を作れるようになった。そうなってくると、ハリウッドサイズのすごい観客数を動員しないとペイしないような作品とは全く別世界の作品作りが可能。
ただ、そういった作品の受け皿となるミニシアターの大きさが100、200席だと多いんだよ。50人とか60人くらいがちょうどいい。それに1回の上映に入る人数は少なくても、推してくれる人たちが何度も足を運んできてくれるなら何週でも上映できる。
ー最初からそういった意図で小さな映画館を作ったのですか?
いや、最初は単純にお金がなかったから(笑)80とか100席くらいのものを作れる体力があればそうしたかった。
とにかく、かつてのミニシアターと言われていた映画館は100人、200人規模で、アップリンクはそれより小さいマイクロミニシアターで5、60人。今は世界中でたくさんの作品が生まれている。でも全ての作品がハリウッド規模の動員数を目指しているわけではなく、小さいサイズの映画も多い。そういった規模感の映画の受け皿にアップリンクがなっているということ。小さい作品の受け皿として、小さい映画館も必要とされている。だからこそビジネスとして成り立っている。(終)
前編はこちら「ビジネスの勝算は小ささと立地にある? ミニシアター・アップリンク吉祥寺12月完成」
↓新しく作る映画館『アップリンク吉祥寺』を応援する↓
http://plango.uplink.co.jp/project/s/project_id/74
【略歴】浅井隆(あさい・たかし)
アップリンク代表(http://www.uplink.co.jp/) 、webDICE編集長(http://www.webdice.jp/)。
1955年、大阪生まれ。74年、寺山修司氏が主宰する劇団「天井桟敷」に参加、舞台監督を務める。87年、アップリンクを設立。
アップリンク渋谷は、映画館に加え、ギャラリー、物販コーナー、カフェがあるカルチャースポット。2018年12月に吉祥寺パルコにアップリンク吉祥寺がオープン予定。>
シリーズインタビュー「企画」
きかく【企画】…新しい事業・イベントなどを計画すること。(新明解国語辞典第七版より)
辞書の説明にふんわりと沿う形で、色々な業界の方に「アイデアを生み出し、形にするために大切にしていること」「仕事で成果を出すために大切にしていること」などをインタビューしていきます。
#1 クリエイティブディレクター・小霜和也さん
『急所』を捉えた企画が、数字を作る
#2 クリエイティブディレクター・小霜和也さん
【実物掲載】図表は使わない。企画書は、気持ち伝わる○○形式
#3 青山ブックセンター書店員・山下優さん
青山ブックセンター書店員 山下優さんに聞く、本が売れる店作り
#4 アップリンク代表・浅井隆さん
ビジネスの勝算は小ささと立地にある? ミニシアター・アップリンク吉祥寺12月完成
#5 アップリンク代表・浅井隆さん
パルコが必要としたアップリンクの「カルチャー」と「ビジネスプラン」>
吉祥寺パルコに入る「アップリンク吉祥寺」。29席から98席までの5スクリーンのミニシアターだ。
アップリンクの始まりは、浅井隆さんが1987年に立ち上げた映画配給会社。現在の主な拠点「アップリンク渋谷」は、ギャラリー、物販コーナー、カフェが併設されたミニシアターとして、様々なカルチャーを発信している。
ミニシアターのビジネスモデルは興味深い。シネコンとはキャパシティや上映作品が大きく異なるため、当然、ビジネスを行なっていく上での考え方や上映作品を選ぶ時に重要視するポイントが異なる。また、アップリンク吉祥寺の共同経営を行うパルコは、すでに自社の映画館があるにもかかわらず、なぜアップリンクと組むのか?
その辺りを解き明かすため、今回、浅井さんに「吉祥寺に新しい映画館をつくる理由」「パルコに力説した収支計画書」「クラウドファンディングによる資金調達法」「上映する作品を選ぶときに重要視すること」などを聞いた。今回は後編。
(文・平川 透、写真・北山哲也)
パルコに力説「売り上げを出せるスクリーン数、座席数」
ーパルコと共同経営ですね。パルコと組むことの何か特別な意味はありますか?
パルコって公園通りの文化を牽引していた。オープンするにあたって今一緒にやっているパルコスタッフの中では、僕が一番パルコ文化を知っているんだよね。パルコって60歳で定年なんだよ。僕は63歳。そうすると、パルコのメンバーってみんな俺より年下なんだよね。
今、建て直している渋谷のパルコには「シネクイント」って映画館がある。シネクイントの前は「スペース・パート3」だった。スペース・パート3って何だったかと言うと、多目的ホールだったんだよね。そこで僕も演劇をやったこともあるし、ライブを観に行ったこともあるし、展覧会にも行ったし、映画もやっていた。
バウスシアター(吉祥寺、2014年閉館)でアップリンク初の配給作品「エンジェリック・カンヴァセーション」(監督・デレク・ジャーマン)をやった後、スペース・パート3でデレク・ジャーマンの短編特集を上映してすごく成功したし。
8、90年代のパルコのカルチャーを体験してきたんだよね。その頃のパルコは広告にしても一斉を風靡していたし、ファンションやカルチャーの発信力があった。パルコのスタッフの中に、僕がこういったことを体験してきたということを知っている人がいて、その辺りを役員会でプッシュしてくれたというのは聞いた。パルコとしたら、外の面白い力を入れたかったんじゃないの?と、良い方に理解している。
ー浅井さんやアップリンクに対しての期待感があるわけですね。
もちろんちゃんとした収支計画書を出している。
(1スクリーン当たり席をより確保できる)3スクリーンよりも、5スクリーンの方がいい成績を出せるということは力説した。小さく割って5スクリーンが良いと。その方が、売り上げを上げられることを収支計画書に書いていた。伝え聞いたことによると、色々なカルチャーを発信しているアップリンクへの評価に加え、どれだけ稼働率を上げて、お客さんを集められるかを示した収支計画書を評価してくれた。
上映作品をどうやって選ぶか
ーアップリンクでは、配給作品や上映作品を選ぶ時に何を大切にしていますか?
一番は、お客さんが入るかどうかだよね。新作を上映するにあたっては、内容と同じようにパブリシティも大事だし、監督や俳優がどれだけ宣伝するのかが大きい。「このテーマは素晴らしいし、いい作品だけど、宣伝面などでちょっと厳しんじゃない?」という作品の上映は難しい。
アップリンクでは、オスカーにノミネートされた作品や「万引き家族」のようなパルムドール作品と一緒に、「カランコエの花」のような超インディーズの新作がかかっている。「万引き家族」の配給はGAGAだし、宣伝もロードショー当時にきっちりされている。一方で、インディーズの作品は宣伝力が弱かったりする。
でも、例えば、「カランコエの花」の場合は、アップリンクよりも先に上映したケイズシネマ(新宿)では満員になったと。それに監督や俳優が連日舞台挨拶しているので、彼らの映画を「推す」「応援する」というファンが湧き上がってきている。ツイッターなどのSNSを見ているとファンは2回、3回と観ている。そうなるとビジネスとして成り立つ。
また、うちの場合は「二番館」(ロードショーでの上映が終わったもの)の作品を上映しているケースが多い。二番館の場合は、ロードショーでお客さんが入った作品を選ぶ。シネコンで意外と早く上映が終わっちゃったな、とか、まだ見たい人がいると思うものを選ぶ。それはSNSも見ていればわかる。それに僕らは、試写じゃなくてロードショーに足を運んで、「入りはどうか」「お客さんの反応はどうか」って見ている。その中で、アップリンクのファンに喜ばれそうなものや、アップリンクらしい作品を選ぶ。つまり、ある程度作家性があったり、作品の内容が評価されているというところがもう一つの選ぶ基準。むっちゃくちゃなエンターテインメントは、シネコンの大きなスクリーンで観たい人が多いでしょうと。だから、アップリンクにそういう作品を引っ張ってきても、難しいかなと。
ーご自身の中の感覚はどうですか?
優先順位は一番下じゃないかな。自分ではいいなと思うけれど、お客さんは入らないんじゃないかといったところは、経験を積んで来てわかっている。自分の好みなどを優先してしまうと、客が入るとは限らなくなりビジネスを継続できなくなるので。
ミニシアターがビジネスとして成立する理由
ーその他に、ミニシアターがビジネスとして継続するために大事なことは何ですか?
僕が(アップリンクが)選んだのは、「サイズ」。
アップリンクの規模感の映画館は、ほぼない。もちろん地方にはいくつかあるだろうけど、東京で40~60席の規模感で3スクリーンある映画館はほとんどない。サイズ的にはミニシアターよりもさらに小さいんだよね。ミニシアターって言われている映画館も100席、200席はある。渋谷で映画館を始めた時も、ミニシアターより小さいから、自称「マイクロミニシアター」と言っていた。40、41、58席だからマイクロをつけた。オープン予定の吉祥寺も100席で3スクリーンとせず、29席から98席まである5スクリーンにした(少ない席数のスクリーンをなぜあえて作るのか?理由は前編で語られています)。
ところで、データを見れば配給本数ってすごく増えてきてるよね。世界に目を向けても、映画祭とかマーケットに行っても作品が増えている。なぜなら、デジタルで映画を作れるようになったから。一眼レフでもiPhoneでも撮れる。フィルムで作っていたひと昔前よりも、圧倒的に安く、簡単に映画を作れるようになった。そうなってくると、ハリウッドサイズのすごい観客数を動員しないとペイしないような作品とは全く別世界の作品作りが可能。
ただ、そういった作品の受け皿となるミニシアターの大きさが100、200席だと多いんだよ。50人とか60人くらいがちょうどいい。それに1回の上映に入る人数は少なくても、推してくれる人たちが何度も足を運んできてくれるなら何週でも上映できる。
ー最初からそういった意図で小さな映画館を作ったのですか?
いや、最初は単純にお金がなかったから(笑)80とか100席くらいのものを作れる体力があればそうしたかった。
とにかく、かつてのミニシアターと言われていた映画館は100人、200人規模で、アップリンクはそれより小さいマイクロミニシアターで5、60人。今は世界中でたくさんの作品が生まれている。でも全ての作品がハリウッド規模の動員数を目指しているわけではなく、小さいサイズの映画も多い。そういった規模感の映画の受け皿にアップリンクがなっているということ。小さい作品の受け皿として、小さい映画館も必要とされている。だからこそビジネスとして成り立っている。(終)
前編はこちら「ビジネスの勝算は小ささと立地にある? ミニシアター・アップリンク吉祥寺12月完成」
↓新しく作る映画館『アップリンク吉祥寺』を応援する↓
http://plango.uplink.co.jp/project/s/project_id/74
アップリンク代表(http://www.uplink.co.jp/) 、webDICE編集長(http://www.webdice.jp/)。
1955年、大阪生まれ。74年、寺山修司氏が主宰する劇団「天井桟敷」に参加、舞台監督を務める。87年、アップリンクを設立。
アップリンク渋谷は、映画館に加え、ギャラリー、物販コーナー、カフェがあるカルチャースポット。2018年12月に吉祥寺パルコにアップリンク吉祥寺がオープン予定。>
取材に臨むにあたり、映画やサブカルチャー本の編集に長年携わっておられる編集者・河田周平さん( Twitter: @shukawa )に貴重なアドバイスをいただきました。感謝申し上げます。
きかく【企画】…新しい事業・イベントなどを計画すること。(新明解国語辞典第七版より)
辞書の説明にふんわりと沿う形で、色々な業界の方に「アイデアを生み出し、形にするために大切にしていること」「仕事で成果を出すために大切にしていること」などをインタビューしていきます。
#1 クリエイティブディレクター・小霜和也さん
『急所』を捉えた企画が、数字を作る
#2 クリエイティブディレクター・小霜和也さん
【実物掲載】図表は使わない。企画書は、気持ち伝わる○○形式
#3 青山ブックセンター書店員・山下優さん
青山ブックセンター書店員 山下優さんに聞く、本が売れる店作り
#4 アップリンク代表・浅井隆さん
ビジネスの勝算は小ささと立地にある? ミニシアター・アップリンク吉祥寺12月完成
#5 アップリンク代表・浅井隆さん
パルコが必要としたアップリンクの「カルチャー」と「ビジネスプラン」>
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