大阪に進出する中国企業が増えている理由
製造業の進出も
中国から大阪に進出する企業が増えている。大阪外国企業誘致センター(O―BIC)によると、海外から大阪へ進出した企業数は2007年度が36件。このうち、中国企業は約2割の8件。17年度は42件中、20件が中国企業。10年強で2倍以上に増えた。訪日外国人旅行者(インバウンド)向けに、貿易業や旅行業などが増えたことが要因。その一方で、15年度から製造業の進出がみられるなど、新たな動きが出てきた。
O―BICは01年4月に大阪府、大阪市、大阪商工会議所が協力して設立した。大阪へ海外から企業を誘致したり、進出した後は成長を支援したりする。誘致した外資系企業数は、17年度までの累計が506件。
中国企業に変化が表れたのは「越境EC(電子商取引)」と呼ばれる、海外商品のインターネット通信販売に関連し、買い付けや物流代行サービスなどの進出が11件あった15年度ごろから。同年度は、日本を拠点に生産や研究開発を狙う進出が2件あった。同様に16、17年度にも2件ずつ続いている。
慎興ブラシ(大阪市生野区)は16年5月から、八尾市の協力工場に委託して歯ブラシを生産している。慎興ブラシの汪霖(ワン・リン)社長は大阪へ進出した理由を、「本当によいモノを作りたいから」と話す。大阪の優れたモノづくり基盤を見抜いた、熱心な中国人の経営者が現れている。
中国コンデンサー用アルミニウム箔(はく)メーカーの日本法人として、企業などとの技術連携を目指すハイスタージャパン(大阪市平野区)は17年12月設立。同社の呉瓊(ウー・チョン)副社長も大阪の中小製造業に期待を寄せる。「中国国内での需要増や環境規制に対応するため、技術力の高い大阪の中小企業と連携したい」と語る。狙いは電池関連産業が集積する大阪で、次世代電池の研究開発動向をつかむこと。将来の事業の柱を探すのが使命だ。
中国はかつて、「世界の工場」といわれた。その時代を経験し多くの中国企業は、モノづくりの面白さに目覚めたとも受け取れる。それを裏付けるように呉副社長は「中国でモノづくりが好きな経営者は一般的になっている」とも話す。中国の製造業に意識の変化が現れているようだ。
大阪外国企業誘致センター(O―BIC)のマネージャーを務める大阪商工会議所の梁瑜国際部課長に、大阪へ進出する中国企業の動向などを聞いた。
―大阪へ進出する外資系企業の傾向は。
「2008年度から担当しているが、誘致件数は年々上昇傾向にある。大阪に進出した企業の中で、アジアの割合は、07年度が50%だった。16年度は95%、17年度も93%と高くなっている。特に中国からの進出が年々増えており、全体に占める割合は、07年度の22%が、17年度は48%に高まった」
―中国企業が大阪に関心を持つ理由は何でしょう。
「東京に比べ、産業集積が同程度なのに家賃が安い点もあるが、最大の理由は人だ。関西人に親しみやすさを感じるのかも知れない。彼らは特定の日本市場を熟知し、幅広い人脈を持つ日本人をパートナーとして求めて来る。中国語が話せるかはその次。O―BICへの問い合わせは年間100件程度あり、有望案件はその約半分。さらにその半分の25―30件に、そのような人材が求められている」
―生産や研究が目的の進出が出ています。
「15年度から進出傾向が明らかに変わってきた。中国の製造業に、従来のOEM(相手先ブランド)生産から自社ブランドを持つ動きが出始めている。そこで、今後の技術や業界の動向を探るため、日本に拠点設置を考えているようだ。彼らの将来展望や自社製品に対する思いは熱いが、現段階は生産や研究拠点といっても小規模。展望のどのあたりを目指しているか、よく分からないのが実情だ。しばらくは様子を見ていく必要がある」
星源日本大阪研究院総務部長・周弢(ジョー・タオ)氏
2017年8月に設立したわが社は、広東省深センでリチウムイオン電池向けセパレーターを生産する星源材質科技の研究所の役割を担う。今後、次世代電池と期待される全固体電池の開発や実用化が進めば、現在のリチウムイオン電池の需要が減少する恐れがある。
そこで電池全般やエネルギーに関する技術を探りながら、新製品を研究開発していく。自社開発した直径500ナノメートル(ナノは10億分の1)の穴空きシートの用途開発にも取り組む。
日本製品には長年積み重ねてきた「安心と信頼」がある。中国でも1990―00年に生まれた世代から、偽物を嫌い“高くてもいいモノを”という意識に変わっている。今の日本の姿は、中国の10―15年後の将来。日本の技術を取り入れ早くキャッチアップしたい。
これからの企業は社会貢献も重要。中国企業も、さまざまな形で日本に貢献できるはず。将来、生産拠点の設置も考えたい。
ハイスタージャパン副社長・呉瓊(ウー・チョン)氏
進出先に大阪を選んだのは、人工衛星を作ることができる“すご技”を持つ企業があること。親会社の南通海星電子は、江蘇省南通市の大型コンデンサー用アルミニウム箔メーカー。全固体電池など次世代電池関連で、5―10年後に経営の柱となる材料や技術を探したい。日本の高度な生産や環境の技術を導入し、高品位で高効率な生産により中国国内の需要増に対応したい。強化された環境基準へも適合していきたい。
中国では数年前まで、モノづくりが好きな経営者は少なかったが、今は一般的だ。この仕事を継続するためには、新しい事業のネタ探しや生産・環境対策が最重要課題だ。
かといって強引なM&A(合併・買収)などを進めれば、次に続かないことはよく理解している。日本企業が抱える人手不足、事業承継、資金などの課題で協力できるパートナーとして共存共栄したい。将来、一緒に技術や製品を開発し、中国やアジアに広げていきたい。
(文=青木俊次)
O―BICは01年4月に大阪府、大阪市、大阪商工会議所が協力して設立した。大阪へ海外から企業を誘致したり、進出した後は成長を支援したりする。誘致した外資系企業数は、17年度までの累計が506件。
中国企業に変化が表れたのは「越境EC(電子商取引)」と呼ばれる、海外商品のインターネット通信販売に関連し、買い付けや物流代行サービスなどの進出が11件あった15年度ごろから。同年度は、日本を拠点に生産や研究開発を狙う進出が2件あった。同様に16、17年度にも2件ずつ続いている。
慎興ブラシ(大阪市生野区)は16年5月から、八尾市の協力工場に委託して歯ブラシを生産している。慎興ブラシの汪霖(ワン・リン)社長は大阪へ進出した理由を、「本当によいモノを作りたいから」と話す。大阪の優れたモノづくり基盤を見抜いた、熱心な中国人の経営者が現れている。
中国コンデンサー用アルミニウム箔(はく)メーカーの日本法人として、企業などとの技術連携を目指すハイスタージャパン(大阪市平野区)は17年12月設立。同社の呉瓊(ウー・チョン)副社長も大阪の中小製造業に期待を寄せる。「中国国内での需要増や環境規制に対応するため、技術力の高い大阪の中小企業と連携したい」と語る。狙いは電池関連産業が集積する大阪で、次世代電池の研究開発動向をつかむこと。将来の事業の柱を探すのが使命だ。
中国はかつて、「世界の工場」といわれた。その時代を経験し多くの中国企業は、モノづくりの面白さに目覚めたとも受け取れる。それを裏付けるように呉副社長は「中国でモノづくりが好きな経営者は一般的になっている」とも話す。中国の製造業に意識の変化が現れているようだ。
大阪外国企業誘致センター(O―BIC)マネージャー・梁瑜(リャン・ユー)氏に聞く
大阪外国企業誘致センター(O―BIC)のマネージャーを務める大阪商工会議所の梁瑜国際部課長に、大阪へ進出する中国企業の動向などを聞いた。
―大阪へ進出する外資系企業の傾向は。
「2008年度から担当しているが、誘致件数は年々上昇傾向にある。大阪に進出した企業の中で、アジアの割合は、07年度が50%だった。16年度は95%、17年度も93%と高くなっている。特に中国からの進出が年々増えており、全体に占める割合は、07年度の22%が、17年度は48%に高まった」
―中国企業が大阪に関心を持つ理由は何でしょう。
「東京に比べ、産業集積が同程度なのに家賃が安い点もあるが、最大の理由は人だ。関西人に親しみやすさを感じるのかも知れない。彼らは特定の日本市場を熟知し、幅広い人脈を持つ日本人をパートナーとして求めて来る。中国語が話せるかはその次。O―BICへの問い合わせは年間100件程度あり、有望案件はその約半分。さらにその半分の25―30件に、そのような人材が求められている」
―生産や研究が目的の進出が出ています。
「15年度から進出傾向が明らかに変わってきた。中国の製造業に、従来のOEM(相手先ブランド)生産から自社ブランドを持つ動きが出始めている。そこで、今後の技術や業界の動向を探るため、日本に拠点設置を考えているようだ。彼らの将来展望や自社製品に対する思いは熱いが、現段階は生産や研究拠点といっても小規模。展望のどのあたりを目指しているか、よく分からないのが実情だ。しばらくは様子を見ていく必要がある」
進出企業の声
星源日本大阪研究院総務部長・周弢(ジョー・タオ)氏
2017年8月に設立したわが社は、広東省深センでリチウムイオン電池向けセパレーターを生産する星源材質科技の研究所の役割を担う。今後、次世代電池と期待される全固体電池の開発や実用化が進めば、現在のリチウムイオン電池の需要が減少する恐れがある。
そこで電池全般やエネルギーに関する技術を探りながら、新製品を研究開発していく。自社開発した直径500ナノメートル(ナノは10億分の1)の穴空きシートの用途開発にも取り組む。
日本製品には長年積み重ねてきた「安心と信頼」がある。中国でも1990―00年に生まれた世代から、偽物を嫌い“高くてもいいモノを”という意識に変わっている。今の日本の姿は、中国の10―15年後の将来。日本の技術を取り入れ早くキャッチアップしたい。
これからの企業は社会貢献も重要。中国企業も、さまざまな形で日本に貢献できるはず。将来、生産拠点の設置も考えたい。
ハイスタージャパン副社長・呉瓊(ウー・チョン)氏
進出先に大阪を選んだのは、人工衛星を作ることができる“すご技”を持つ企業があること。親会社の南通海星電子は、江蘇省南通市の大型コンデンサー用アルミニウム箔メーカー。全固体電池など次世代電池関連で、5―10年後に経営の柱となる材料や技術を探したい。日本の高度な生産や環境の技術を導入し、高品位で高効率な生産により中国国内の需要増に対応したい。強化された環境基準へも適合していきたい。
中国では数年前まで、モノづくりが好きな経営者は少なかったが、今は一般的だ。この仕事を継続するためには、新しい事業のネタ探しや生産・環境対策が最重要課題だ。
かといって強引なM&A(合併・買収)などを進めれば、次に続かないことはよく理解している。日本企業が抱える人手不足、事業承継、資金などの課題で協力できるパートナーとして共存共栄したい。将来、一緒に技術や製品を開発し、中国やアジアに広げていきたい。
(文=青木俊次)
日刊工業新聞2018年9月17日