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CASE旗印に合従連衡、商用車の“最適解”はどこ

開発進むも費用増加が負担に
CASE旗印に合従連衡、商用車の“最適解”はどこ

1台目の車線変更に応じて2台目も自動で車線変更する(日野自動車)

**CASE旗印に合従連衡
 商用車で合従連衡の動きが活発になってきた。キーワードはCASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)。物流の効率化要請や環境対応といった背景から、トラックは乗用車よりCASEになじみやすい。日野自動車といすゞ自動車といった国内商用車メーカーが外資系メーカーを巻き込み、激動の時代に“最適解”を見つけ出そうと難問に挑んでいる。

 「これまでと同じ価値の提供では、お客さまのニーズに応えられない。強い危機感を共有している」。下義生日野自社長は4月の独フォルクスワーゲン(VW)と商用車分野の包括提携に関する会見で、商用車業界を取り巻く環境変化に単独では立ち向かえない現状を強調した。

 自動運転ではVW傘下のスカニアやMANが隊列走行のテストを実施。VWは自社で全固体電池の生産をしようとしている。KPMG FASの井口耕一パートナーは「技術の融通や電池調達コスト削減のメリットが日野自にはある」とVWとの提携の利点を説く。

 商用車各社はグループ化により先進技術開発の分担や技術情報を共有して、開発費などの負担軽減を図っている。三菱ふそうは04年に独ダイムラー、UDトラックスは07年にスウェーデン・ボルボの傘下に入った。石井源一郎三菱ふそうパワートレーン開発統括部統括部長は「(17年投入の小型電気トラックは)ダイムラーの乗用車部品を使っている。グローバルでいかに効率良く開発できるかがキーになる」と話す。

 各社が提携に動く一方で、いすゞは8月にはトヨタ自動車と資本関係を解消した。瀬戸貢一いすゞ常務執行役員は「トヨタとの協業が、資本関係に見合う大きさになり得なかった」と説明する。自動運転技術などで協業する日野自がVWと提携協議を発表したことも、トヨタとの資本関係を整理するきっかけの一つとなったようだ。

 いすゞは21年3月期までの3年間で設備投資や先進技術などの戦略投資に3500億円を投じる方針。自動運転など先進技術開発費は今後さらに膨らむ。このため多岐にわたる開発案件がある中、誰とも手を組まない道を進むのは困難との見方が業界では多い。

 ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表アナリストは「グループの枠を超えた提携は世界の流れ。孤立状態では生き残れない。幅広く提携を模索していくべきだ」と指摘する。いすゞはトヨタ、マツダ、デンソーが設立した電気自動車(EV)の基礎技術会社への参加を決め、次世代技術分野での協議に動き出した。いすゞがこれからどのような提携戦略を描くのか、商用車業界の再編の大きな要素になりそうだ。

開発費 膨れ上がる負担


 商用車業界で企業グループの枠を超えた提携が広がるのは、トラックの電動化や自動運転といった次世代技術の開発費が単独では賄いきれないほど膨れ上がることが理由の一つだ。いすゞ自動車は2019年3月期に設備投資と研究開発費の合計で、前期比10・0%増の1910億円を投じる。日野自動車は同21・9%増の1470億円を計画する。商用車メーカー各社の成長投資額は今後さらに増していく。

 成長投資の中でも各社の頭を悩ませるのがパワートレーンだ。一度にたくさんの荷物を遠くまで運ぶことが優先される“働く車”のトラックは、トルクや燃費の関係からディーゼルエンジンが主流。だが乗用車と同様に、商用車にも電気トラック化の潮流が激しさを増している。

 17年に量産小型電気トラックを業界で初めて発売した三菱ふそうトラック・バスに続き、いすゞは18年内にモニター販売で小型電気トラックを投入する方針。UDトラックスも同年内に大型電気トラックの試作車両を開発し、19年に実証実験を始める。日野自は小型電気トラックで「技術的には20年過ぎにしっかり使ってもらえる車両が出せる」(下義生社長)とし、投入する電気トラックは「試験販売ではなく、量産モデルとなる」(遠藤真副社長)という。

 もっとも、電気トラックの台数が飛躍的に伸びることについては懐疑的な傾向が強い。KPMG FASの井口耕一パートナーは充電インフラや電池コストの問題から「30年程度までは大型トラックはハイブリッド車(HV)が進む。電気トラックが主流になるのは50年くらいだろう」とする。コンサルティング会社EYの川勝将人自動車セクター日本エリアリーダーも「長距離輸送を中心に、ディーゼルの足元の需要は当面続く」とみる。

 このため、各社は電動車両の開発と既存エンジンの進化を同時並行で進めなければならない。既存エンジンの改良で各社が共通して取り組むのが、エンジンの小型化(ダウンサイズ)だ。小排気量化することで燃費と積載率を向上させることができる。エンジンの小型化はHVトラックにも有用だ。実際、日野自は17年発売の大型トラック「プロフィア」に搭載した排気量9リットルの新型ダウンサイズエンジンを19年夏に発売する大型HVトラック「プロフィア・ハイブリッド」に搭載する。

 日野自は50年までにディーゼルエンジンだけで駆動する商用車の販売を停止する方針を示した。ただ、他の国内商用車メーカーは将来的なパワートレーンの方向性を示せずにいる。自動運転やコネクテッドなどの次世代技術開発に経営資源を割かなければならず、パワートレーンを全方位で開発することは難しい。何に注力し、何を捨てるか、各社は決断を迫られている。

ソフト技術が新たな争点


 電気トラックなどの車両以外の競争軸として、自動運転やコネクテッドといったソフト的な技術が脚光を浴びている。自動運転では三菱ふそうトラック・バスとUDトラックスの外資系2社が先行する。三菱ふそうは2019年末にハンドルの操作や加減速をシステムが担う「レベル2」の自動運転が可能な大型トラックを投入する。UDトラックスは18年内に自動運転車両を開発して19年に実験を開始。20年にも特定用途での実用化を目指す。

 「(親会社の)スウェーデン・ボルボの先端的な技術やシステムにアクセスできる」。UDトラックスのヨアキム・ローゼンバーグ会長は、企業グループで基幹技術を開発できる点に利点があることを強調する。三菱ふそうも親会社の独ダイムラーと自動運転技術などを共有し、迅速な開発ができる体制を整えている。

 三菱ふそうはレベル4の車両を「ライバルよりも先んじて開発する」(ハートムット・シック社長)計画を持つ。UDトラックスも30年までに完全自動運転の大型トラックを量産する方針を18年4月に打ち出した。

 いすゞ自動車と日野自動車は、自動運転システムの基本技術となる高度道路交通システム(ITS)などを共同開発し、18年度以降に投入する車両に搭載する。日野自は、独フォルクスワーゲン(VW)との商用車分野での協業で自動運転技術についても協力するとみられる。

 各社が自動運転技術の開発以上に力を入れるのが、コネクテッド技術だ。トラックなどの商用車は「働く車」という性格上、稼働率が重要となる。そのため、遠隔で車両の運行情報を収集・解析できるシステム開発に傾注している。

 いすゞは大型トラック「ギガ」に搭載するテレマティクス・サービスを中小型トラックにも拡大する方針。片山正則社長は「中小型で25万台分の情報が入る。収集した情報をいろいろな形で使ってソリューション開発に生かせる」と力を込める。三菱ふそうも、独ダイムラーのインド生産子会社が協業する組織「DTA」を通じ、20年までに10万台のトラックをコネクテッド化する計画を立てる。

 各社は高品質な先進国モデル以外に、価格を抑えた新興国モデルを製品群に持つ。先進国で需要が高い自動運転などの先進技術を求める顧客は、新興国には多くない。それよりも「自社の車両が盗まれないか、車両管理の関心が高い」(業界関係者)という。コネクテッド技術は自動運転などと異なり、新興国モデルにも横展開しやすい。そのため、各社とも早期に利益を生む技術と見る。

(文=尾内淳憲)
          

日刊工業新聞2018年9月6・11・12日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
製品の差別化は電動車両などのハード的な面以上に、自動運転やコネクテッドなどのソフト的な面の充実がカギになる。(尾内淳憲)

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