先駆者マルイと出遅れファミマ、小売り業界「ダイバーシティー」への模索
全員が納得する「多様性」は難しい!?
東京五輪・パラリンピックを前に、ダイバーシティーへの関心が高まっている。小売業でも、働く女性や訪日外国人の増加といった変化に対応するため、性的少数者(LGBT)向けの取り組みや、女性活用に踏み込む動きが目立つ。この分野でリードする丸井グループと、取り組みを本格化するファミリーマートを取材した。
丸井グループは多様性を目指す「ダイバーシティ&インクルージョン」を掲げ、障がい者や外国人、LGBTなどに向けたビジネスで、フロントランナーを目指す方針を示している。井上道博サステナビリティ部マルイミライプロジェクト担当課長は「誰も取り残さない」と説明する。
2017年にはLGBTの就活生や社会人に向け、スーツ選びのイベントを店舗で開始。「ジャケットはメンズ、パンツはレディスの商品から選びたい」といったニーズに応えた。
10年に発売した婦人靴のプライベートブランド「ラクチンきれいシューズ」は19・5センチ―27センチメートルの16サイズを展開している。業界標準のシューズサイズは22・5センチ―24・5センチメートルだとされており、少数派向けの商品やサービスはコストが掛かるようにも見える。だが、山崎美樹子人事部多様性推進課長は「今はお客さまを区別する時代ではない」と話す。
ラクチンきれいシューズについては店舗にサンプルを置き、購入者には商品を無料配送するといった工夫で、在庫などの課題をカバーした。大きなサイズはトランスジェンダーの女性にも人気だという。ニッチに着目したことが、市場開拓にもつながっており、ラクチンきれいシューズの累計販売足数は400万足を超えた。
顧客向けサービスに続き、着目したのが社内の制度だ。18年4月には配偶者向けの手当や福利厚生などを、事実婚や同性パートナー婚にも拡大した。
女性管理職比率は、21年3月期に17%にする方針(18年3月期は11%)で、男性の育児休職も促進する。山崎課長は「多様性を推進することで、イノベーションも起こりやすくなる」と説明する。
ただ社内には、変化に違和感を覚える人もいる。井上課長は「そうした考えも間違っていない。全員が納得する取り組みは難しい」と話す。山崎課長も「『時短社員を迷惑』と感じるのもダメなことではない」と考え方の多様性を説く。
誰かに不利益になるのでなければ、まずやってみて、出てきた意見をもとに、さらに調整するというのが、現状の丸井のやり方。フロントランナーとして、失敗を恐れず、チャレンジする。
「出遅れ感がすごくある。バイアスをぶっ壊していかないといけない」。ファミリーマートの沢田貴司社長は自社のダイバーシティに関する危機感をあらわにする。同社の管理職に占める女性の割合は3・3%、SV(店舗指導員)では5・4%と、競合に比べてもかなり低い状態だ。
ファミマはここ10年間「エーエムピーエム」「ココストア」「サークルKサンクス」といったブランドの転換を進めており、運営する店舗数は2・5倍以上になった。規模を追う中、「“男社会”になっていた」(沢田社長)との反省がある。
コンビニエンスストアの顧客は従来、若年男性が主だったが、女性やシニアが増えている。対応できる商品やサービスを出すためにも、多様な立場や意見を受け入れる環境は重要になっている。
2019年4月入社の定期採用では、近年3割強だった女性の比率を、5割に引き上げる方針だ。6月末には店舗建設に関わる女性社員の意見を反映し、キッズルームなどがある店舗を北陸地方に設けた。
ファミマは17年度を「ダイバーシティ推進元年」とし、主なテーマに女性の活躍推進を掲げた。子どもを社用車で保育園に送迎できるようにしたり、保育園に入園できない場合にベビーシッター代を補助する制度を設けたりした。
5月下旬に開いた子育て中の社員らを集めた座談会では「通勤時間が短い場所で働きたい」といった声が出た。「“職住接近”はやる」「時代は変わった」と沢田社長も応じた。
子育て中の社員らが働きやすい環境づくりをすすめる一方、フォロー体制についてはどう捉えるか。特にコンビニの場合、店舗は基本的に年中無休で営業しており、対応せざるを得ない場面もでてくる。ある社員は「自分がやっていることを、いつでも誰でもできる体制を整えたい」と話す。
「社会全体から見ると、遅れているかもしれない」と中村幸恵管理本部ダイバーシティ推進部長は自社の取り組みを説明する。研修などを通じ、一部の女性だけでなく、すべての社員がダイバーシティについて考える環境を作るのが、次の課題だ。
(文=江上佑美子)
丸井グループは多様性を目指す「ダイバーシティ&インクルージョン」を掲げ、障がい者や外国人、LGBTなどに向けたビジネスで、フロントランナーを目指す方針を示している。井上道博サステナビリティ部マルイミライプロジェクト担当課長は「誰も取り残さない」と説明する。
2017年にはLGBTの就活生や社会人に向け、スーツ選びのイベントを店舗で開始。「ジャケットはメンズ、パンツはレディスの商品から選びたい」といったニーズに応えた。
10年に発売した婦人靴のプライベートブランド「ラクチンきれいシューズ」は19・5センチ―27センチメートルの16サイズを展開している。業界標準のシューズサイズは22・5センチ―24・5センチメートルだとされており、少数派向けの商品やサービスはコストが掛かるようにも見える。だが、山崎美樹子人事部多様性推進課長は「今はお客さまを区別する時代ではない」と話す。
ラクチンきれいシューズについては店舗にサンプルを置き、購入者には商品を無料配送するといった工夫で、在庫などの課題をカバーした。大きなサイズはトランスジェンダーの女性にも人気だという。ニッチに着目したことが、市場開拓にもつながっており、ラクチンきれいシューズの累計販売足数は400万足を超えた。
顧客向けサービスに続き、着目したのが社内の制度だ。18年4月には配偶者向けの手当や福利厚生などを、事実婚や同性パートナー婚にも拡大した。
女性管理職比率は、21年3月期に17%にする方針(18年3月期は11%)で、男性の育児休職も促進する。山崎課長は「多様性を推進することで、イノベーションも起こりやすくなる」と説明する。
ただ社内には、変化に違和感を覚える人もいる。井上課長は「そうした考えも間違っていない。全員が納得する取り組みは難しい」と話す。山崎課長も「『時短社員を迷惑』と感じるのもダメなことではない」と考え方の多様性を説く。
誰かに不利益になるのでなければ、まずやってみて、出てきた意見をもとに、さらに調整するというのが、現状の丸井のやり方。フロントランナーとして、失敗を恐れず、チャレンジする。
危機感あらわに
「出遅れ感がすごくある。バイアスをぶっ壊していかないといけない」。ファミリーマートの沢田貴司社長は自社のダイバーシティに関する危機感をあらわにする。同社の管理職に占める女性の割合は3・3%、SV(店舗指導員)では5・4%と、競合に比べてもかなり低い状態だ。
ファミマはここ10年間「エーエムピーエム」「ココストア」「サークルKサンクス」といったブランドの転換を進めており、運営する店舗数は2・5倍以上になった。規模を追う中、「“男社会”になっていた」(沢田社長)との反省がある。
コンビニエンスストアの顧客は従来、若年男性が主だったが、女性やシニアが増えている。対応できる商品やサービスを出すためにも、多様な立場や意見を受け入れる環境は重要になっている。
2019年4月入社の定期採用では、近年3割強だった女性の比率を、5割に引き上げる方針だ。6月末には店舗建設に関わる女性社員の意見を反映し、キッズルームなどがある店舗を北陸地方に設けた。
ファミマは17年度を「ダイバーシティ推進元年」とし、主なテーマに女性の活躍推進を掲げた。子どもを社用車で保育園に送迎できるようにしたり、保育園に入園できない場合にベビーシッター代を補助する制度を設けたりした。
5月下旬に開いた子育て中の社員らを集めた座談会では「通勤時間が短い場所で働きたい」といった声が出た。「“職住接近”はやる」「時代は変わった」と沢田社長も応じた。
子育て中の社員らが働きやすい環境づくりをすすめる一方、フォロー体制についてはどう捉えるか。特にコンビニの場合、店舗は基本的に年中無休で営業しており、対応せざるを得ない場面もでてくる。ある社員は「自分がやっていることを、いつでも誰でもできる体制を整えたい」と話す。
「社会全体から見ると、遅れているかもしれない」と中村幸恵管理本部ダイバーシティ推進部長は自社の取り組みを説明する。研修などを通じ、一部の女性だけでなく、すべての社員がダイバーシティについて考える環境を作るのが、次の課題だ。
(文=江上佑美子)
日刊工業新聞2018年7月13日/16日