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全固体電池研究ブーム!突破口を開いた研究者が語る最前線

連載「EVドミノ」バッテリー・インサイド①
全固体電池研究ブーム!突破口を開いた研究者が語る最前線

東京工業大学の菅野了次教授

高容量で、数分でフル充電・・・と、電気自動車(EV)にとって夢の電池のように語られる〈全固体電池〉。現在のリチウムイオン電池の電解液を固体電解質に置き換えたもので、実現すればEV市場拡大の後押しになる。15日には、23社もの民間企業が参加する産官学プロジェクトが発足した。大きなムーブメントのきっかけは、東京工業大学の菅野了次教授が2011年以降に発表した新しい固体電解質だ。研究はどこまで進んでいるのか、菅野教授に話を聞いた。

夢の電池へ


 -固体電解質には、酸化物系やポリマー系もあります。菅野教授が研究している硫化物系材料とどう違うのですか。
 「現時点で、リチウムイオン電池を上回る可能性を持つのは、硫化物系だけだ。硫化物系で、電解液並みや、電解液よりもリチウムイオンが動きやすい(イオン伝導率の高い)固体電解質が見つかり、高出力電池の可能性が見えた。酸化物系は、まだプロセス開発の段階に入れていない。ゲルポリマーは作りやすく、電解液より少し固体化するため安全になる利点がある。ただ、性能は従来のリチウムイオン電池とあまり変わらない。ドライポリマーはイオン伝導率が低く、60度C以上で使用する必要がある」

 -昨年来、企業だけでなく、慎重な印象のある研究者の方たちも、自動車向けの全固体電池について〈5年以内の実用化〉を言及しています。実現できますか。
 「世界を代表する自動車メーカー(※編集部注:トヨタ自動車)が実用化を宣言したのだから、全固体電池を搭載した車が出てくると思う。自動車メーカーらや新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)のプロジェクトも始まった。このプロジェクトで、生産プロセスの開発が進む。我々、材料研究の側は、さらに特性のいい電池を実現するための研究を続ける」
東京工業大学・菅野了次教授提供

【リチウムイオン電池と全固体電池の基礎知識】
 リチウムイオンが正極と負極の間を行き来することで充放電が行われる電池。リチウムイオン電池は電解液を介して、全固体電池は固体電解質を介してイオンが行き来する。全固体電池は以前から安全性が求められる限定された用途で使われていた。菅野教授の発見により、高容量で高速充放電の可能性が見い出された。

可能性を広げる


 -その時に、電解液以上にイオン伝導率の高い固体電解質も使われますか。
 「最初に量産化される車載電池にどんな材料が使われるかわからないが、電解液以上の材料は発見されて日が浅い。5年以内は難しいかもしれない。だが、イオンの動きやすさが電解液の10分の1や100分の1レベルの材料もある。100分の1の材料は、すでに大量供給できるメーカーがある。一旦、生産プロセスができて電池が量産化されれば、次の段階でより性能の高い固体電解質に置き換えながら進化できる。また、初期の固体電解質も電池性能を高められる可能性を持っている」

 -2011年以降、菅野教授は有望な固体電解質を相次ぎ発表し、16年には従来比3倍の出力特性を持つ全固体電池も作成しました。どの材料が車載電池の材料になりますか。
 「これまでを振り返ると、2011年にゲルマニウムや硫黄、リチウムなどで構成する材料(LGPS物質系材料)で、固体の中でもイオンがよく動く材料を見つけた。16年には、これに塩素を加えて、電解液の中よりもイオンがよく動く材料を発見した。17年には、イオン伝導性がそこそこ高く、高価なゲルマニウムや扱いの難しい塩素を使わない材料を見つけた。それぞれ特徴が違う。現段階では、どれが実用化されるかではなく、バリエーションを広く持つことで、電池の可能性が広がることに意義がある」
【次ページ:数分の充電や高容量化について】
                                
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
本当に夢の電池ができるのか。素朴な疑問に、菅野教授はとても丁寧に答えてくれました。このインタビューは5月下旬に行い、その後、NEDOの全固体電池プロジェクトの発表会が行われました。菅野教授の話していた〈会話〉の重要性とNEDOのプロジェクトを両方聞くと、なるほどと思えます。プロジェクトの詳しい内容を4回目の連載で取り上げます。

特集・連載情報

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電気自動車(EV)社会の実現のカギと期待される『全固体電池』開発の最前線を追う。

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