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コバルト、リチウム・・・資源不足の事実と誤解
連載「EVドミノ」バッテリー・インサイド③
リチウムイオン電池の原料であるコバルトやリチウムの価格が高まっている。電気自動車(EV)の普及を見込み、流通量の少ない資源の価値が上昇するという投資家の動きが影響しているようだ。しかし、資源の流通量は複数の要因が関係し、あまり知られていない事実もある。
電池材料の中で、最も調達が不安定な資源はコバルトだ。コバルトは、採れる地域に偏りがあり、量も少ない。米地質調査所の報告によると、2017年時点の〈埋蔵量〉は710万トンで、実際に採掘された生産量は11万トン。この数値から単純計算すると、残っているコバルトは約66年分となる。このため、大型電池を搭載するEVが増えればもっと早く枯渇するということになる。
だが、「埋蔵量は増えることもある」と、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査部の関本真紀金属資源調査課長は説明する。埋蔵量は〈経済的に採掘できる量〉で、地球上に存在する全ての量ではない。地質調査が進み、採掘できるとわかれば、その分が加算される。実際に、16年の米地質調査所の調査によると、コバルトの埋蔵量は700万トン。17年は、11万トンを掘り出したにも関わらず埋蔵量は710万トンに増えていた。
「事実以上に『足りない』というイメージが一人歩きし、投機的に価格が高騰し、本当に必要な人が買えなくなることが一番困る」と、関本課長は危機感を募らせる。埋蔵量が増えるのは、リチウムなどの他の金属資源や原油も同じ。特に、コバルトと並んで話題となるリチウムは地球上に多く存在しており、「需要が急増した時に一時的に不足しても、長期的には困ることはない」(同)と見ている。
ただ、埋蔵量は増えると言っても、コバルトは簡単に採掘を拡大できない特別な事情がある。理由の一つは、「コバルトは銅やニッケルを掘った時についでに微量に採れる」(関本課長)こと。コバルトを得るためだけに鉱山が開発されることはない。銅などの主に採れる資源で利益を出せるかどうか次第で、鉱山開発が決まる。
現在、銅の価格は1トン当たり7000ドル程度で推移している。長年金属資源に携わるJOGMECの馬場洋三氏は、「鉱山の収支はトントンといったところだろう。どんどんコバルトの採掘が増える条件ではない」と解説する。
また、コバルトは埋蔵量も生産量も、紛争地域であるコンゴが最も多い。現地の鉱山開発が武装勢力の資金となる可能性を否定できず、投資を難しくしている。そこで、治安などの安定したカナダやオーストラリアでの調査や、ザンビアで採掘された鉱物の残りの残さから取り出す方法が調査されている。コバルトがそれほど必要でなかった時、他の鉱物を取り出した後の残りからごく少量のコバルトを取り出すような面倒な作業は行われていなかった。経済的に見合うと判断されれば、この残り物を利用できる。
電池の正極材料を生産するメーカー各社は、できるだけコバルト使用比率の低い材料を開発することで、資源価格高騰に挑んでいる。全固体電池では電極材料の選択肢が広がるため、コバルトフリーの材料も可能性はある。現在、全固体電池は電解質や電極の最適な組み合わせが探求されている。全固体電池の材料が資源の都合だけで決まるとは限らないものの、どんな電池でも調達不安の解消されない原料を使い続けることは経済的に考えにくい。
「適切な危機感を持ち、考えられる対策を全てやっていくことが重要だ」と関本課長は話す。
一方、馬場氏は別角度からの見方として、「本当に資源を必要とする企業がリスクを取って投資することが、資源問題の一つの側面を解決できるのではないか」と語る。というのも、日本では不要な在庫を持たない「ジャスト・イン・タイム(JIT)」の生産方式が自動車メーカーなどの大手企業に採用されている。これは部品や材料を供給する企業が在庫を抱えることと表裏一体だ。だが、こうした企業には中小企業も少なくなく、価格の大きく変動する希少資源を多く保有する体力はない。
そこで、「大手企業が(資源会社などに)購入を事前に約束するなど応分のリスクを取る必要があるのではないか」と馬場氏は話す。安定した購入を見込めれば、資源会社も鉱山開発を進めやすくなる可能性がある。また、どうしてもコバルトが必要であれば、銅の価格が多少弱くても鉱山を開発できる契約や取引も考えられるかもしれない。
こうしたことを踏まえて、JOGMECの関本課長は、「EVに必要な資源はある」と語る。足元の価格変動だけを見るのではなく、「なぜ高いのか」、「なぜ少ないのか」という基本に立ち戻って、掘り下げて考えれば、これまでと違う資源の姿が見えてくる。
①全固体電池研究ブームをつくった研究者が語る最前線/東京工業大学・菅野了次教授
②電池を左右する1ナノメートルの世界を解明へ
③コバルト、リチウム・・・資源不足の事実と誤解
④EV後続距離を2倍に?!巨大プロジェクトの全貌
埋蔵量が増える?
電池材料の中で、最も調達が不安定な資源はコバルトだ。コバルトは、採れる地域に偏りがあり、量も少ない。米地質調査所の報告によると、2017年時点の〈埋蔵量〉は710万トンで、実際に採掘された生産量は11万トン。この数値から単純計算すると、残っているコバルトは約66年分となる。このため、大型電池を搭載するEVが増えればもっと早く枯渇するということになる。
だが、「埋蔵量は増えることもある」と、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査部の関本真紀金属資源調査課長は説明する。埋蔵量は〈経済的に採掘できる量〉で、地球上に存在する全ての量ではない。地質調査が進み、採掘できるとわかれば、その分が加算される。実際に、16年の米地質調査所の調査によると、コバルトの埋蔵量は700万トン。17年は、11万トンを掘り出したにも関わらず埋蔵量は710万トンに増えていた。
「事実以上に『足りない』というイメージが一人歩きし、投機的に価格が高騰し、本当に必要な人が買えなくなることが一番困る」と、関本課長は危機感を募らせる。埋蔵量が増えるのは、リチウムなどの他の金属資源や原油も同じ。特に、コバルトと並んで話題となるリチウムは地球上に多く存在しており、「需要が急増した時に一時的に不足しても、長期的には困ることはない」(同)と見ている。
コバルトはおまけ、だから難しい
ただ、埋蔵量は増えると言っても、コバルトは簡単に採掘を拡大できない特別な事情がある。理由の一つは、「コバルトは銅やニッケルを掘った時についでに微量に採れる」(関本課長)こと。コバルトを得るためだけに鉱山が開発されることはない。銅などの主に採れる資源で利益を出せるかどうか次第で、鉱山開発が決まる。
現在、銅の価格は1トン当たり7000ドル程度で推移している。長年金属資源に携わるJOGMECの馬場洋三氏は、「鉱山の収支はトントンといったところだろう。どんどんコバルトの採掘が増える条件ではない」と解説する。
また、コバルトは埋蔵量も生産量も、紛争地域であるコンゴが最も多い。現地の鉱山開発が武装勢力の資金となる可能性を否定できず、投資を難しくしている。そこで、治安などの安定したカナダやオーストラリアでの調査や、ザンビアで採掘された鉱物の残りの残さから取り出す方法が調査されている。コバルトがそれほど必要でなかった時、他の鉱物を取り出した後の残りからごく少量のコバルトを取り出すような面倒な作業は行われていなかった。経済的に見合うと判断されれば、この残り物を利用できる。
電池の正極材料を生産するメーカー各社は、できるだけコバルト使用比率の低い材料を開発することで、資源価格高騰に挑んでいる。全固体電池では電極材料の選択肢が広がるため、コバルトフリーの材料も可能性はある。現在、全固体電池は電解質や電極の最適な組み合わせが探求されている。全固体電池の材料が資源の都合だけで決まるとは限らないものの、どんな電池でも調達不安の解消されない原料を使い続けることは経済的に考えにくい。
「適切な危機感を持ち、考えられる対策を全てやっていくことが重要だ」と関本課長は話す。
視点を変える
一方、馬場氏は別角度からの見方として、「本当に資源を必要とする企業がリスクを取って投資することが、資源問題の一つの側面を解決できるのではないか」と語る。というのも、日本では不要な在庫を持たない「ジャスト・イン・タイム(JIT)」の生産方式が自動車メーカーなどの大手企業に採用されている。これは部品や材料を供給する企業が在庫を抱えることと表裏一体だ。だが、こうした企業には中小企業も少なくなく、価格の大きく変動する希少資源を多く保有する体力はない。
そこで、「大手企業が(資源会社などに)購入を事前に約束するなど応分のリスクを取る必要があるのではないか」と馬場氏は話す。安定した購入を見込めれば、資源会社も鉱山開発を進めやすくなる可能性がある。また、どうしてもコバルトが必要であれば、銅の価格が多少弱くても鉱山を開発できる契約や取引も考えられるかもしれない。
こうしたことを踏まえて、JOGMECの関本課長は、「EVに必要な資源はある」と語る。足元の価格変動だけを見るのではなく、「なぜ高いのか」、「なぜ少ないのか」という基本に立ち戻って、掘り下げて考えれば、これまでと違う資源の姿が見えてくる。
連載「EVドミノ」掲載記事
①全固体電池研究ブームをつくった研究者が語る最前線/東京工業大学・菅野了次教授
②電池を左右する1ナノメートルの世界を解明へ
③コバルト、リチウム・・・資源不足の事実と誤解
④EV後続距離を2倍に?!巨大プロジェクトの全貌
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電気自動車(EV)社会の実現のカギと期待される『全固体電池』開発の最前線を追う。