コスト削減だけではない、メガバンクが仕掛ける店舗改革の狙い
デジタル技術で顧客行動の変化に迅速対応
「リアルとバーチャルを組み合わせた顧客接点全体が、個々の顧客にとって最適であり自社にとっても高い生産性を実現できるよう再構築を図る」。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の平野信行社長は、今後の銀行と顧客の接点についてこう説明する。
主要都市の駅前一等地に大きく構えた銀行店舗の存在意義は薄れつつある。三菱UFJ銀行と三井住友銀行の来店数は過去10年でそれぞれ4割、3割減少した。インターネットバンキングなどの台頭が理由だ。各行は顧客行動の変化をくみ取り、インターネットやスマートフォンなどによる“非対面チャネル”のサービス拡充やデジタル技術を導入した新たな店舗の整備に乗り出している。
三菱UFJ銀が開発中のデジタル通貨「MUFGコイン」。実証実験のまっただ中だが、ここで得られるノウハウや技術は店舗改革を形づくる要素の一つになりうる。現在、米アマゾン・ドット・コムの顔認証技術を用い、レジを通さずに商品を決済する取り組みを実施中。顔認証技術を銀行の店舗で活用すれば、接客の効率化につながる可能性がある。
同行は2023年度までに国内約515店舗のうち70―100店舗を「機械化店舗」に転換する方針。テレビ電話や新型現金自動預払機(ATM)を導入し少人数で運営できる体制に転換する。非対面チャネルを拡充する一方、“対面チャネル”はデジタル技術で業務運営の効率化につなげる。
三井住友フィナンシャルグループ(FG)は、19年度までに全国430店をペーパーレス化などを導入した「次世代店舗」に移行する。業務効率化で事務スペースを削減し、顧客対応スペースを拡張する。同社は店舗数を維持する方針で、国部毅三井住友FG社長は「本質は店舗の数より効率性だ」と強調。17年度からの3年間でリテール店舗改革により、200億円のコスト削減を目指す。
三井住友銀行は3月に常駐する行員が5人と同行の支店では最小で、面積も小さい“軽量型”の店舗を東京都港区に開設した。麻布十番支店は個人客専用で予約制。窓口はなく、四つの個室と待合室を設けた。資産形成や資産運用の相談に応じる。)
同行の支店の平均の広さは660平方メートル。同支店は170平方メートル強だが、個人客向けの機能は他支店と同等にした。山下剛史常務執行役員は「当行初の取り組みで今後のモデルになる」と強調。新たな形態の店舗として、他の空白地域でも新設を検討している。
みずほフィナンシャルグループ(FG)は24年度までに、傘下の銀行・信託・証券の共同店舗数を17年9月末時点から30拠点増やし220拠点にする。同時期までに全拠点数を500拠点から400拠点に削減する方針だが、全体の拠点数を減らしつつ、共同店舗を増やして幅広い金融ニーズに対応する。
みずほ銀行の吉祥寺支店(東京都武蔵野市)は昨夏、銀行・信託・証券のサービスをワンフロアで提供できるように改装した。有資格者のコンシェルジュを配置。コンサルティングを強化して、来店する顧客の資産形成を後押しする。
清水英嗣執行役員は「みずほが進めるグループの一体化を体感してもらいたい」と力を込める。改装前と比べ銀行利用の顧客が証券口座を開設するなど共同化の効果を確認。今後共同化する拠点も、物理的制約がない限りワンフロアですべてのサービスが提供できるようにする。
りそなホールディングスはIT化と対面営業を融合する「オムニチャネル戦略」を推進している。実店舗は人員を大幅に削減し、少人数運営店舗を柔軟に展開。店舗をコンサルティングの場ととらえ信託などの相談業務に軸足を移している。17年には個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」などの加入・運用の相談を担う新型店舗「つみたてプラザ」を大阪府枚方市と東京・八重洲に開設した。
20―30代を中心とした会社員がターゲット層で、通勤客が立ち寄りやすい立地にしたのが特徴だ。東和浩社長は「資産の積み立てに関心があってもどう相談すればいいか分からない顧客が、気軽に入ることができる店にしていきたい」としている。年中無休(年末年始・ゴールデンウイークは除く)対応で営業時間でも間口を広げている。こうした相談特化型の軽量店舗を17年度からの3年で全国に30拠点設ける計画だ。
(文=長塚崇寛)
主要都市の駅前一等地に大きく構えた銀行店舗の存在意義は薄れつつある。三菱UFJ銀行と三井住友銀行の来店数は過去10年でそれぞれ4割、3割減少した。インターネットバンキングなどの台頭が理由だ。各行は顧客行動の変化をくみ取り、インターネットやスマートフォンなどによる“非対面チャネル”のサービス拡充やデジタル技術を導入した新たな店舗の整備に乗り出している。
三菱UFJ銀が開発中のデジタル通貨「MUFGコイン」。実証実験のまっただ中だが、ここで得られるノウハウや技術は店舗改革を形づくる要素の一つになりうる。現在、米アマゾン・ドット・コムの顔認証技術を用い、レジを通さずに商品を決済する取り組みを実施中。顔認証技術を銀行の店舗で活用すれば、接客の効率化につながる可能性がある。
同行は2023年度までに国内約515店舗のうち70―100店舗を「機械化店舗」に転換する方針。テレビ電話や新型現金自動預払機(ATM)を導入し少人数で運営できる体制に転換する。非対面チャネルを拡充する一方、“対面チャネル”はデジタル技術で業務運営の効率化につなげる。
三井住友フィナンシャルグループ(FG)は、19年度までに全国430店をペーパーレス化などを導入した「次世代店舗」に移行する。業務効率化で事務スペースを削減し、顧客対応スペースを拡張する。同社は店舗数を維持する方針で、国部毅三井住友FG社長は「本質は店舗の数より効率性だ」と強調。17年度からの3年間でリテール店舗改革により、200億円のコスト削減を目指す。
三井住友銀行は3月に常駐する行員が5人と同行の支店では最小で、面積も小さい“軽量型”の店舗を東京都港区に開設した。麻布十番支店は個人客専用で予約制。窓口はなく、四つの個室と待合室を設けた。資産形成や資産運用の相談に応じる。)
同行の支店の平均の広さは660平方メートル。同支店は170平方メートル強だが、個人客向けの機能は他支店と同等にした。山下剛史常務執行役員は「当行初の取り組みで今後のモデルになる」と強調。新たな形態の店舗として、他の空白地域でも新設を検討している。
みずほフィナンシャルグループ(FG)は24年度までに、傘下の銀行・信託・証券の共同店舗数を17年9月末時点から30拠点増やし220拠点にする。同時期までに全拠点数を500拠点から400拠点に削減する方針だが、全体の拠点数を減らしつつ、共同店舗を増やして幅広い金融ニーズに対応する。
みずほ銀行の吉祥寺支店(東京都武蔵野市)は昨夏、銀行・信託・証券のサービスをワンフロアで提供できるように改装した。有資格者のコンシェルジュを配置。コンサルティングを強化して、来店する顧客の資産形成を後押しする。
清水英嗣執行役員は「みずほが進めるグループの一体化を体感してもらいたい」と力を込める。改装前と比べ銀行利用の顧客が証券口座を開設するなど共同化の効果を確認。今後共同化する拠点も、物理的制約がない限りワンフロアですべてのサービスが提供できるようにする。
りそなホールディングスはIT化と対面営業を融合する「オムニチャネル戦略」を推進している。実店舗は人員を大幅に削減し、少人数運営店舗を柔軟に展開。店舗をコンサルティングの場ととらえ信託などの相談業務に軸足を移している。17年には個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」などの加入・運用の相談を担う新型店舗「つみたてプラザ」を大阪府枚方市と東京・八重洲に開設した。
20―30代を中心とした会社員がターゲット層で、通勤客が立ち寄りやすい立地にしたのが特徴だ。東和浩社長は「資産の積み立てに関心があってもどう相談すればいいか分からない顧客が、気軽に入ることができる店にしていきたい」としている。年中無休(年末年始・ゴールデンウイークは除く)対応で営業時間でも間口を広げている。こうした相談特化型の軽量店舗を17年度からの3年で全国に30拠点設ける計画だ。
(文=長塚崇寛)
日刊工業新聞2018年5月1日