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JR貨物「本業」2期連続の黒字も、上場までの課題山積み

財務強化急ぐ
JR貨物「本業」2期連続の黒字も、上場までの課題山積み

青函トンネルを走り抜ける貨物列車

 JR貨物が2018年3月期の鉄道ロジスティクス事業で2期連続の営業黒字確保をほぼ確実にしている。経営改革が功を奏し、モーダルシフトの追い風も受けて、貨物鉄道事業の再生に、ようやくめどがつきつつある。念願の株式上場にも視界が開けたが、ガバナンス強化や一層の収益改善、最先端技術を活用した業務刷新、安全性向上の投資など課題は山積み。上場に向けて社内の各種改革も正念場を迎えている。

 JR貨物単体の鉄道事業は、17年3月期に営業損益で5億円の黒字を計上した。バブル崩壊以後、初となる黒字転換。18年3月期は収支トントンで若干の黒字、19年3月期は4億円の黒字を目指す。

 不動産や子会社を含む連結では17年3月期に100億円程度の経常利益を確保したが、本業は苦戦が続いた。田村修二社長は「苦労したが黒字化で(貨物鉄道の)存在が認められるようになった」と喜ぶ。

 貨物鉄道は旧国鉄の慢性的な赤字要因の一つとされ、廃止論もあった。事業再生はJR発足以来、長年の悲願であるとともに上場の必要条件だった。

基本運賃10%増


 とはいえ、黒字は修繕費などを安全運行に必要不可欠な部分に極力抑え「薄氷を踏む思いで」(永田浩一取締役)達成したものだ。機関車の約3割は、いまだ国鉄から継承した車両を使っている。安定して収益を確保するには、老朽設備の更新や技術革新投資が欠かせない。

 このため「次世代に備える」(田村社長)とし、10月から発足以来初めて基本運賃(賃率)10%引き上げに踏み切る。JR貨物の運賃は許可や届け出が必要ない公示運賃だ。実態は荷主や通運事業者との相対交渉で決めており、物流各社の値上げ状況をにらみながら「(10%は)交渉できる範囲であろう」(犬飼新取締役)と見て、理解を求めていく。

 JR貨物が上場を目指す上で、利益面以外にも「財務をどう強化していくか」(田村社長)は課題だ。上場基準に合わせるため会計レベルの向上も急務。3月には経営自立計画に基づく、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)からの700億円の無利子貸し付けが終了し、協調融資で借り換えを実施した。持続的な成長を支えるためにも、資金政策は重要だ。

 19年3月期は経営自立計画の最終年度を迎える。鉄道を含めて安定的に利益を計上できるようになり、リスク管理や法令順守、財務など必要な組織体制を整えた先に、JRグループで5社目の上場が現実となる。
日刊工業新聞社2018年4月17日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
その期その期の数字も大事ですが、「安全に関わる設備の更新」や「より効率的な収益構造の確保」など、これからの業績に関わる施策がうまく 機能していって欲しいです。

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