ニュースイッチ

トヨタのEV戦略はそれでもまだ余裕なのか

「本格的な戦いになる2020年以降に向けてアドバンテージはある」
トヨタのEV戦略はそれでもまだ余裕なのか

トヨタの豊田章男社長(左)とマツダの小飼雅道社長

 電気自動車(EV)への対応は?―。近頃、トヨタ自動車の幹部が公の場に出ると、同じ趣旨の質問が飛ぶ。「EVだけとか決めつけることはいま考えていない」。トヨタの豊田章男社長は冷静に答える。

 世界初の量産ハイブリッド車(HV)「プリウス」の発売から今年で20年。トヨタはHVで電動化の核となる基盤技術を培った。この技術を用いて、燃料電池車(FCV)やプラグインハイブリッド車(PHV)を他社に先行して発売した。

 「EVの投入自体は後れを取っているが、本格的な戦いになる2020年以降に向けてアドバンテージはある」。トヨタ幹部の発言には余裕すら漂う。

 トヨタはEV市場がある程度形成されるのを待っている節がある。充電設備の不足や航続距離の短さ、電池価格の高さなどEVには課題がまだ多い。EV市場をけん引する米テスラでも当期損失が続く。これらの課題が解決する頃を見計らってEVを本格投入するのではとみられている。

 トヨタ自身の課題もある。年間数十万台以上の大量生産車は得意だが生産見込み台数の少ない車種は苦手。年産10万台以下では固定費が重くのしかかる。

 こうした現状を打開する方策の一つが、マツダとの資本提携だ。複数クラスの車種群について、プラットフォーム(車台)やユニットといった基本構造を一括企画する。トヨタの新設計思想「TNGA」も応用し、効率的に多くの種類のEVの基盤技術を開発する。

 9月末にはマツダ、デンソーと共同で新会社「EV C・A・スピリット」(名古屋市中村区)を設立した。軽自動車から小型トラックまでの技術開発が対象。スズキやSUBARU(スバル)などの参画も視野に入る。

 「東京五輪までにはなんらかのものを」(トヨタ幹部)と20年が成果刈り取りの目安。開発した車台などを組み込む車種の台数を増やし、開発費や開発期間も抑えてEV事業で利益を生みやすくする。

 トヨタは中国の規制強化を受けて、19年にも既存車種をEV仕様で投入する。ただ「専用プラットフォームでないと25年以降は戦えない」(同)。新会社はトヨタのEV事業拡大のカギを握る。

 車台以外の切り札もある。20年代前半の実用化を目指す全固体電池だ。エネルギー密度や安全性が高く、航続距離の不足や充電時間の長さなどEVの課題を一気に解決する可能性がある。当面は規制に追随する形でEVを展開しつつ、普及期に向けて“本命”である全固体電池の開発を進める戦略だ。

 ただ、FCVが究極のエコカーという認識は変わらない。地球温暖化や資源の乏しい日本の状況などを鑑み、数十年以上先を見据えてFCVの普及に力を入れる。

 豊田社長は言う。「お客さまと市場の動向に合わせて現実的な解を探していく」。
 
日刊工業新聞2017年10月6日
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
余裕をこいているようでは如何なものか。ハイブリッドでの成功体験がトヨタを自信過剰に陥れていると感じる。実際、欧州では、ディーゼル不正の影響を受けてハイブリッドは絶好調であり、余計にトヨタの余裕を生み出す。ちなみに、EV C.A.スピリットに、日本の主要会社が参画することを歓迎する風潮が強いが、技術者のエゴの中でEV開発が混乱するリスクを認識する。結果を出す前から、余裕を召せるのはおごりの証ではないか。

編集部のおすすめ