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トップランナーの日産ですらEVの収益化は難しい

新世代でもコストの戦いは続く
トップランナーの日産ですらEVの収益化は難しい

新型リーフ

 日産自動車が、世界的に需要が高まる電気自動車(EV)市場に挑む。EV「リーフ」を全面改良し、10月以降に日本と北米、欧州に順次投入する。

 「2021年までにEVがテークオフする環境ができ、25年ころまでにはどのメーカーがどれだけ積極的に取り組んだかが現れてくる。その中で我々は、ポートフォリオを変えながら先を走って行く」。日産の西川広人社長は6日、EV事業拡大に向けた意気込みを示した。

 10年に発売した初代リーフは累計販売台数が28万3000台に上り、世界で最も売れたEVだ。日産には「EVの世界を構築してきた先駆者としての自負がある」(西川社長)だけに、車種の拡充などを通じて今後もEV市場をリードしたいところだ。

 新型リーフは、航続距離を初代と比べて倍増の400キロメートルに伸ばし、EVの課題である長距離走行への不安を払拭(ふっしょく)。さらに自動運転や自動駐車機能なども備えるなど、日産の先進技術の“結晶”とも言える商品。自動運転などの先進技術をEVの“プラスアルファ”の要素として訴求し、拡販につなげる構えだ。

 日産はリーフを18年1月から欧米でも販売するほか、18年以降に中国にも投入する計画。また中国では現地メーカーの東風汽車と小型EVを共同開発し、19年から生産を始める。

 トヨタ自動車はEVの量産車種の開発を本格化している。8月4日にマツダとの資本提携を発表したが、協業の柱の一つがEVの基盤技術の開発。16年12月にトヨタがデンソーなどと発足したEVの企画・開発組織「EV事業企画室」にマツダも迎え、EVの普及期に備える。

 トヨタは長年培ってきたハイブリッド車(HV)の電動化技術をEVなどに応用する方針で「本格的な戦いになる20年以降に向けてアドバンテージはある」(トヨタ幹部)と先を見据える。

 ホンダも中国で専用のEVを開発し、18年に販売する予定。八郷隆弘社長は「ホンダらしいスポーティーな車にしたい」と、独自性を打ち出すことを強調する。

 海外メーカーも攻勢を掛けている。EVメーカーの米テスラは低価格車種「モデル3」を開発し、7月から納車を開始した。既に40万台程度を受注したとされる。

 独フォルクスワーゲン(VW)は、中国で複数の現地メーカーとの提携を通じてEVの車種を拡充。中国で20年までに40万台、25年までに150万台の販売を目指す。
                
日刊工業新聞2017年9月7日「深層断面」から抜粋
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
 個人的には自動車メーカーらしい正常進化を新型リーフは目指し、大衆ブランドでもビジネスとしてEVを一般化させたいとする日産の真摯な取り組みを感じさせる。とかくテスラの「Model3」と比較されがちだが、高級ブランドを築いたIT業界の考えるEVと、100年クルマを進化させてきた自動車メーカーとでは思想もアプローチも違う。  バッテリーのコスト下落ばかりに目がいくが、搭載量を増やさなければレンジは伸びず、EVのコストとの戦いは新世代でもかなり厳しいと言う印象がある。内装の質感、エクステリアのシンプルさ、見えない所の部品流用など、最大の規模を誇るトップランナーの日産ですら、EVのビジネス化、収益化が未だ難しいということを感じさせる。

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