関西の電機メーカー、AI狂騒曲で“東奔西走”
拠点づくりで人材確保は可能?実際のビジネスへの落とし込みは?
関西の電機メーカーが東京などの首都圏や米国の西海岸にあるシリコンバレーで拠点の新設・拡大を進めている。IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)を使ったサービスの実現が求められる中、専門人材の確保、大学や他社との連携を加速させるには国内外に活動領域を広げる必要がある。ただIoT・AI分野の人材は少なく、奪い合いとなっており、獲得は困難を極めている。人材確保には独自の工夫も求められている。
オムロンの「モバイルロボット」。独自AIを搭載し、人を回避しながら最適なルートを自ら考える。同社はこうしたAIやロボット技術を重点開発している
オムロンは2017年度内にも東京とシリコンバレーに研究開発拠点を設ける。東京の拠点はオープンイノベーションの研究を束ね、先進AI技術のハブとして機能させる。
一方、米国ではロボット制御、ヘルスケア、自動運転支援技術などを対象にAI技術を用いたアルゴリズムを開発する。「シリコンバレーには連携先企業が集中している」(宮田喜一郎執行役員専務最高技術責任者〈CTO〉)と判断し、現地の知見を活用する。
村田製作所は20年をめどに、横浜市のみなとみらい21地区に研究開発拠点を開業する。京都府や滋賀県に主力の研究開発拠点を構えていることから、首都圏で強化してグローバル人材を確保するのが狙い。
外資系企業も多く進出する地域特性を生かし、自動車やエネルギー、ヘルスケア、IoTなどの分野で研究開発を進める。最終的に1000人超の大規模拠点にする構想だ。
一方、パナソニックは10月、工場や物流の管理システム、監視カメラシステムといったIoT商材を手がける社内カンパニーの本社機能を大阪府門真市から東京・汐留へ移転する。
同カンパニーを率いる樋口泰行専務執行役員は「当社に必要なことは顧客企業が教えてくれる。このため(顧客企業が集積する)東京に出て(ニーズを集め)顧客に食らいつく」と狙いを明かす。
また、パナソニックはシリコンバレーに拠点を構える。主な活動は現地調査だが、今後は100人規模の技術者を集めた開発拠点にできないか検討に入った。
このほかダイキン工業も17年内、シリコンバレーにIoTとAIを中心とした研究施設の設置を目指している。人材確保や大学とのネットワーク形成も狙う。
パナソニックのエアコン「ゼフィ」シリーズ。次世代冷媒を採用するなど環境対応に加え、空調の運転データなどをスマホで確認し、メンテナンスに役立てている
各社とも研究開発の主要拠点は関西圏にある。ただIoT・AI分野は異業種との連携が重要であり、幅広い知見が求められる。
鹿児島県内に総合研究所、京都府内に中央研究所を持つ京セラは、月内に「ソフトウェアラボ」を東京都品川区から横浜市緑区に移転し、ハードウエアとソフトウエアの融合を目的にした活動を強化する。
この拠点は仮想発電所(バーチャルパワープラント)の実証で活躍しており、AIや統計学を活用して社内の生産工程の見直しを進めるなど収益改善にも貢献している。
ダイキンやパナソニックが手がける空調も「冷やす」「暖める」以外の機能が求められつつあり、多様な技術が必要になっている。ダイキンの十河政則社長は「次に来るものは健康と快適性。活気あるオフィスや深く眠れる寝室、疲れにくい工場の実現に取り組みたい」と話す。
こうした取り組みは、照明や高性能センサーといった多彩な技術の組み合わせが必須。パナソニックでも部門間の連携がいっそう求められており、樋口専務執行役員は「顧客に力を借りて、縦割りの壁を打ち破る」と宣言する。顧客に近い東京事務所の活動がカギを握りそうだ。
各社が日本の首都圏とシリコンバレーに拠点を置く理由の一つが、専門人材の確保だ。経済産業省が16年夏に発表した推計では、情報セキュリティー人材の不足人数は20年に約19万人、IoTやAIの活用に携わる先端IT人材の不足は5万人弱に達する。
限られた人的資源をめぐって世界中の企業が人材の囲い込みに走った結果、特にシリコンバレーでは専門人材の給与が高騰。しかも「給与水準だけで人は集まらない。会社のビジョンに共感してもらう必要がある」(十河ダイキン社長)という敷居の高さだ。
そこでダイキンは、自社の機械や化学系などの技術者から、数学が得意といった「素養がある人」(同)を対象に、全体の3分の1をIoT・IT関連の技術者に育成する考え。6月に大阪大学と情報科学分野の包括提携を交わした。またAI研究の第一人者である東京大学の松尾豊特任准教授の研究室に社員を送り込んでいる。
パナソニックも阪大とAI講座を設置し、自社の技術者が毎年数百人規模で受講するようにした。企業買収による人材獲得も含め、今後5年程度でAI人材を1000人規模に増やす計画だ。
オムロンは新たな制度を検討中だ。高度な技術人材は「特定のテーマに関心を持つ」(山田義仁社長)。このため「研究テーマや雇用期間を限定した雇用制度、複数の企業を兼業して同じテーマに取り組める仕組みがあっても良いのではないか」(同)と持論を語る。
首都圏に設置した拠点が地元の関西にも刺激を与え、新しい取り組みを促す例も出てきた。日本電産は川崎市幸区の研究所で、外部の研究者や技術者との交流の場を積極的に増やしている。
その動きはグループ全体に広まりつつあり、関西では18年に完成予定の生産技術研究所(京都府精華町)で、中小企業との技術連携を加速する考えだ。すでに関西の中小企業24社から技術提案を受け、8社との取引開始を検討しているという。
(文=大阪・平岡乾、京都・水田武詞、同・園尾雅之)
オムロンの「モバイルロボット」。独自AIを搭載し、人を回避しながら最適なルートを自ら考える。同社はこうしたAIやロボット技術を重点開発している
オムロンは2017年度内にも東京とシリコンバレーに研究開発拠点を設ける。東京の拠点はオープンイノベーションの研究を束ね、先進AI技術のハブとして機能させる。
一方、米国ではロボット制御、ヘルスケア、自動運転支援技術などを対象にAI技術を用いたアルゴリズムを開発する。「シリコンバレーには連携先企業が集中している」(宮田喜一郎執行役員専務最高技術責任者〈CTO〉)と判断し、現地の知見を活用する。
村田製作所は20年をめどに、横浜市のみなとみらい21地区に研究開発拠点を開業する。京都府や滋賀県に主力の研究開発拠点を構えていることから、首都圏で強化してグローバル人材を確保するのが狙い。
外資系企業も多く進出する地域特性を生かし、自動車やエネルギー、ヘルスケア、IoTなどの分野で研究開発を進める。最終的に1000人超の大規模拠点にする構想だ。
一方、パナソニックは10月、工場や物流の管理システム、監視カメラシステムといったIoT商材を手がける社内カンパニーの本社機能を大阪府門真市から東京・汐留へ移転する。
同カンパニーを率いる樋口泰行専務執行役員は「当社に必要なことは顧客企業が教えてくれる。このため(顧客企業が集積する)東京に出て(ニーズを集め)顧客に食らいつく」と狙いを明かす。
また、パナソニックはシリコンバレーに拠点を構える。主な活動は現地調査だが、今後は100人規模の技術者を集めた開発拠点にできないか検討に入った。
このほかダイキン工業も17年内、シリコンバレーにIoTとAIを中心とした研究施設の設置を目指している。人材確保や大学とのネットワーク形成も狙う。
パナソニックのエアコン「ゼフィ」シリーズ。次世代冷媒を採用するなど環境対応に加え、空調の運転データなどをスマホで確認し、メンテナンスに役立てている
各社とも研究開発の主要拠点は関西圏にある。ただIoT・AI分野は異業種との連携が重要であり、幅広い知見が求められる。
鹿児島県内に総合研究所、京都府内に中央研究所を持つ京セラは、月内に「ソフトウェアラボ」を東京都品川区から横浜市緑区に移転し、ハードウエアとソフトウエアの融合を目的にした活動を強化する。
この拠点は仮想発電所(バーチャルパワープラント)の実証で活躍しており、AIや統計学を活用して社内の生産工程の見直しを進めるなど収益改善にも貢献している。
ダイキンやパナソニックが手がける空調も「冷やす」「暖める」以外の機能が求められつつあり、多様な技術が必要になっている。ダイキンの十河政則社長は「次に来るものは健康と快適性。活気あるオフィスや深く眠れる寝室、疲れにくい工場の実現に取り組みたい」と話す。
こうした取り組みは、照明や高性能センサーといった多彩な技術の組み合わせが必須。パナソニックでも部門間の連携がいっそう求められており、樋口専務執行役員は「顧客に力を借りて、縦割りの壁を打ち破る」と宣言する。顧客に近い東京事務所の活動がカギを握りそうだ。
大学・中小とも連携加速
各社が日本の首都圏とシリコンバレーに拠点を置く理由の一つが、専門人材の確保だ。経済産業省が16年夏に発表した推計では、情報セキュリティー人材の不足人数は20年に約19万人、IoTやAIの活用に携わる先端IT人材の不足は5万人弱に達する。
限られた人的資源をめぐって世界中の企業が人材の囲い込みに走った結果、特にシリコンバレーでは専門人材の給与が高騰。しかも「給与水準だけで人は集まらない。会社のビジョンに共感してもらう必要がある」(十河ダイキン社長)という敷居の高さだ。
そこでダイキンは、自社の機械や化学系などの技術者から、数学が得意といった「素養がある人」(同)を対象に、全体の3分の1をIoT・IT関連の技術者に育成する考え。6月に大阪大学と情報科学分野の包括提携を交わした。またAI研究の第一人者である東京大学の松尾豊特任准教授の研究室に社員を送り込んでいる。
パナソニックも阪大とAI講座を設置し、自社の技術者が毎年数百人規模で受講するようにした。企業買収による人材獲得も含め、今後5年程度でAI人材を1000人規模に増やす計画だ。
オムロンは新たな制度を検討中だ。高度な技術人材は「特定のテーマに関心を持つ」(山田義仁社長)。このため「研究テーマや雇用期間を限定した雇用制度、複数の企業を兼業して同じテーマに取り組める仕組みがあっても良いのではないか」(同)と持論を語る。
首都圏に設置した拠点が地元の関西にも刺激を与え、新しい取り組みを促す例も出てきた。日本電産は川崎市幸区の研究所で、外部の研究者や技術者との交流の場を積極的に増やしている。
その動きはグループ全体に広まりつつあり、関西では18年に完成予定の生産技術研究所(京都府精華町)で、中小企業との技術連携を加速する考えだ。すでに関西の中小企業24社から技術提案を受け、8社との取引開始を検討しているという。
(文=大阪・平岡乾、京都・水田武詞、同・園尾雅之)
日刊工業新聞2017年8月16日