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パナソニックはAI技術者1500人体制をどう構築するのか

阪大の共同講座で育成した人材を先導役に
パナソニックはAI技術者1500人体制をどう構築するのか

さまざまな製品にAIを導入する(メガホン型の翻訳機「メガホンヤク」)

 パナソニックは人工知能(AI)分野の技術者を、現在の約100人から5年以内に1000―1500人へ増員する。ロボット家電をはじめ、幅広い製品群へのAI導入を加速する狙い。新卒採用にAI専用枠を設けたほか、映像関連などのデジタル技術者を転身させる。AIは電機業界だけでなく、自動車やインフラなど幅広く活用される。このため技術者は、業界の枠を超えた争奪戦となっている。

 大阪大学との共同講座などで2018年度までに育成する約300人が指導役になり、その後2―3年内に1000―1500人に増やす。同社には万単位の技術者が在籍し、このうち20%がデジタル専門。情報処理では博士や世界トップレベルの技術者がおり、こうした技術者にAIの知見を深めてもらう。

 16年度に始めたAI人材育成プログラムで、技術者を教育する。AI分野は技術進展が速く、習った先端技術は1年で古くなる。プログラムを通じて、自分で先端技術を開発できる水準まで高める。社内の能力引き上げによって、企業の魅力を高め、海外から優秀な人材も獲得する。

 新卒採用では、AIコースで年間30人程度の採用を続ける。4月に第1弾の新入社員が入社する。技術開発の幹部クラスが大学の各研究室を直接訪問し、採用活動を強化した。

 AI分野では研究開発と人材獲得で競争が激化している。東芝NEC富士通の3社はそれぞれ、理化学研究所の革新知能統合研究センターと連携したAI研究の拠点を4月に開設する。ホンダは4月にロボット技術などの研究開発組織を新設。米スタンフォード大名誉教授らをアドバイザーに招いた。

IT技術者をAI人材に。1対1の教育重視


Panasonic Ai Hubの研修

 パナソニックが2016年度から開始した「AI人材育成プログラム」の全体像が見えてきた。5年以内に人工知能(AI)人材を1000―1500人に増員するため、デジタル技術者の転身を施策の中心に据える。AI分野は業界の垣根を越え、世界で人材争奪戦が起きている。日本企業はAI分野での知名度は大きくなく、同社も例外ではない。課題を乗り越えるカギを探った。

 16年度は大阪大学と共同講座を実施し、延べ100人以上の技術者が受講した。AI強化推進室の道山淳児室長は「1年目の手応えは良い」と力を込めて語る。講座では講義に加え、演習や1対1の教育、議論などを重視しており、先生を上回ろうとする受講者も出てきた。

 それもそのはずで、受講者は情報処理の専門家ばかり。AIが必要な開発テーマを抱える技術者も受講しており、講座内には切迫感が漂う。

 情報処理の技術はAIと親和性があり「スキルチェンジすれば、先生と(議論で)戦える」(道山室長)というようなレベルの人材を集めた。

 18年度までに300人という当初の増員計画から、5年以内に1000―1500人という目標にしたのも手応えの表れと言えそうだ。

 16年度は基礎講座の機械学習やデータマイニング、ディープラーニング基礎の3コースを実施した。17年度以降は映像や音声、自然言語といった分野別講座や、受講者がテーマを持ち込む実践コースを開始する。さらに少数ではあるが、世界トップクラスの技術者育成も視野に入れる。

 1対1の教育にこだわり、1講座当たりの受講者数は20―30人を限度とする。講義中には受講者も先生もタフな体力と精神力がいる。AIが発展途上にあるほか、最新技術が実用化されるまでの時間が短く、習う以上のことをできなければならないからだ。

 一方、新卒者の採用活動は、技術開発部門の幹部クラスを巻き込んだことが奏功した。4月には、AIコース採用の第1弾が入社する。

 国内のAI専門の研究室を選び出し「幹部クラスが少なくとも40―50の研究室を直接訪問した。半分以上が初訪問の研究室だった」(同)。AIの専門ではない学生も意欲が高ければ入社後に育成プログラムに参加でき、能力を高めることが可能だ。

 国内のAI人材育成は、海外人材の獲得にもつながるとみる。海外の優秀な人材は1社に定着せず、自分にとって魅力的な企業や研究機関を渡り歩く。魅力のポイントは、研究テーマと社内の技術レベルの高さという。自社のレベルが上がれば、海外人材を呼び込みやすくなる。
(文=梶原洵子)

 
日刊工業新聞2017年3月21日/28日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
AIが社会や生活にどれだけ浸透するか、確実な予測はない。ただ、過去のAIブームに比べコンピューターの能力が向上し、高度なAIのアルゴリズムを動かせるようになったのは間違いない。AI時代への備えを急ぐ必要がある。 (日刊工業新聞第一産業部・梶原洵子)

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