パナソニック大胆人事を読む。今後6年間「津賀CEOー樋口COO」の布石?
文=大河原克行(ジャーナリスト)100周年に向け今後1年に実績が試される
パナソニックが、2月28日に発表した役員人事は、津賀体制の大きな転換を意味するものになりそうだ。
津賀一宏社長にとっては、2012年の社長就任から、5年目を終えたところでの新たな体制への移行。創業者である松下幸之助氏が社長を退いた66歳が、社長定年という不文律があるパナソニックにおいて、その定年まで津賀社長が続投すると考えれば、あと6年という、まさに折り返し点に差し掛かるのが今年だからだ。
今回の役員人事では、これから6年の津賀体制の「後半戦」に向けた最初の役員人事と受け取れなくもない。
体制見直しでは、取締役を17人から12人に削減。さらに、従来は専務取締役以上の役員全員を代表取締役としていた長年の考え方を見直し、代表取締役を11人から4人に削減することになる。
代表取締役会長の長榮周作氏、代表取締役副会長の松下正幸氏からも、代表権が外れることになるが、会長、副会長に代表権が無くなるというのは、これまでのパナソニックの歴史のなかでも異例だと言わざるを得ない。
役員人事も大胆だ。日本地域を担当していた高見和徳代表取締役副社長、経理・財務担当の河井英明代表取締役専務、エコソリューションズ社社長の吉岡民夫代表取締役専務、米国市場を統括していたジョセフ・テーラー常務役員がそれぞれ顧問に就任。AVCネットワークス社社長の榎戸康二代表取締役専務が同社社長および取締役を担任する。
4つのカンパニーのうち、エコソリューションズ社およびAVCネットワークス社の2つのカンパニー社長が入れ替わるという刷新ぶりだ。
オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社社長の伊藤好生代表取締役専務は、同社社長のまま、代表取締役副社長に昇任。顧問に退いた各役員よりも年長者の伊藤氏が代表取締役副社長に就任することは、テスラ・モーターズとの提携などを推進するオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の好調ぶりを示すものといっていい。
また、次期社長候補の一人とされるアプライアンス社社長の本間哲朗代表取締役専務は代表権が外れたが、パナソニックの「顔」となる家電事業の舵取りは本間氏に委ねられたままだ。
だが、一連の人事のなかでも、本間氏とともに、もう一人の次期社長候補と目されていた榎戸代表取締役が退任し、特命担当となったことは社内でも驚きを持って捉えられた。
理由は定かではないが、これまでAVCネットワークス社の稼ぎ頭であり、自らが事業トップを務めたことがあるアビオニクス事業の不振が大きく影響しているとの見方が強い。
アビオニクス事業は、航空機のエンターテイメントシステムなどを担当。全世界1000機以上への導入実績を持つなど、パナソニックのbツーb(企業間)事業を牽引する役割を担っていた。また、米国に本社機能を有している点でも、パナソニックの新たな経営体制を象徴するものだったといえる。
2016年年初までは、津賀社長自らも、「事業部基軸の経営のなかで、事業部を代表し、象徴し、他の事業部を引っ張る存在がアビオニクス事業。収益性の高さに加えて、全世界200社以上の航空会社をサポートし、顧客に深く突き刺さっていることが特徴」と手放しで評価していた。
だが、2016年度に入って予想以上に業績が落ち込み、減収減益の見通しになったばかりか、2018年度までは成長が見込めないこと、さらに、米国司法省(DOJ)および米国証券取引委員会(SEC)から、連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)および米国証券関連法に基づく調査を受けていることが明らかになったことも見逃せない。アビオニクス事業は一転して課題事業の一角にさえなろうとしている。
そうした今回の役員人事のなかでの最大の目玉は、日本マイクロソフトの執行役員会長の樋口泰行氏が、4月1日付でパナソニックの専務役員に就任することだろう。
「今回は注目点の多い役員人事であったが、すべての話題をここに持っていかれた」(同社関係者)というほど、社内でもこの話題で持ちきりだった。
樋口氏が担当するのは、4月1日付けで、AVCネットワークス社から名称変更する社内カンパニーのコネクテッドソリューションズ社。カンパニー社長として陣頭指揮を執ることになるのに加えて、6月29日付で代表権を持つ取締役にも就き、4人の代表取締役の一角を占める。
また、これまでコーポレート戦略本部経営企画部長として約2年間、津賀社長をサポートしてきた原田秀昭氏が、4月1日付で、コネクテッドソリューションズの事業戦略担当兼経営企画担当に就き、樋口氏をサポートすることも見逃せない動きだ。
原田氏はレッツノートなどを担当するITプロダクツ事業部の事業部長を務め、日本マイクロソフト社長時代の樋口氏の経営手法を、パナソニックのなかで、最も間近で見てきた人物でもある。
IT業界を熟知し、樋口氏と共通の認識も多いだろう。パナソニックの社内事情を熟知した原田氏は、樋口氏の経営をサポートするには最適な人材といえ、パナソニックが万全の体制で樋口氏を迎えていることが伺われる。
コネクテッドソリューションズ社は、先に触れたアビオニクス事業のほか、レッツノートやタフブック、POSを担当するモバイルソリューション事業部、監視カメラなどを担当するセキュリティシステム事業部、スタジアムやテーマパーク向けの映像ソリューションなどを担当するメディアエンターテイメント事業部などで構成する。
さらに、4月1日付けでは、オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社から、プロセスオートメーション事業部が移管されることになる。
実は、樋口氏は、1980年に大阪大学工学部を卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社。12年間を同社で過ごしており、最初に配属されたのが溶接機事業部だった。この事業を担当しているのが、プロセスオートメーション事業部。樋口氏にとっては、社会人のスタートを切った事業を自らの傘下に置くことになる。
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66歳「社長定年」の不文律
津賀一宏社長にとっては、2012年の社長就任から、5年目を終えたところでの新たな体制への移行。創業者である松下幸之助氏が社長を退いた66歳が、社長定年という不文律があるパナソニックにおいて、その定年まで津賀社長が続投すると考えれば、あと6年という、まさに折り返し点に差し掛かるのが今年だからだ。
今回の役員人事では、これから6年の津賀体制の「後半戦」に向けた最初の役員人事と受け取れなくもない。
体制見直しでは、取締役を17人から12人に削減。さらに、従来は専務取締役以上の役員全員を代表取締役としていた長年の考え方を見直し、代表取締役を11人から4人に削減することになる。
会長、副会長も代表権なし
代表取締役会長の長榮周作氏、代表取締役副会長の松下正幸氏からも、代表権が外れることになるが、会長、副会長に代表権が無くなるというのは、これまでのパナソニックの歴史のなかでも異例だと言わざるを得ない。
役員人事も大胆だ。日本地域を担当していた高見和徳代表取締役副社長、経理・財務担当の河井英明代表取締役専務、エコソリューションズ社社長の吉岡民夫代表取締役専務、米国市場を統括していたジョセフ・テーラー常務役員がそれぞれ顧問に就任。AVCネットワークス社社長の榎戸康二代表取締役専務が同社社長および取締役を担任する。
4つのカンパニーのうち、エコソリューションズ社およびAVCネットワークス社の2つのカンパニー社長が入れ替わるという刷新ぶりだ。
オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社社長の伊藤好生代表取締役専務は、同社社長のまま、代表取締役副社長に昇任。顧問に退いた各役員よりも年長者の伊藤氏が代表取締役副社長に就任することは、テスラ・モーターズとの提携などを推進するオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の好調ぶりを示すものといっていい。
アビオニクス不振の余波
また、次期社長候補の一人とされるアプライアンス社社長の本間哲朗代表取締役専務は代表権が外れたが、パナソニックの「顔」となる家電事業の舵取りは本間氏に委ねられたままだ。
だが、一連の人事のなかでも、本間氏とともに、もう一人の次期社長候補と目されていた榎戸代表取締役が退任し、特命担当となったことは社内でも驚きを持って捉えられた。
理由は定かではないが、これまでAVCネットワークス社の稼ぎ頭であり、自らが事業トップを務めたことがあるアビオニクス事業の不振が大きく影響しているとの見方が強い。
アビオニクス事業は、航空機のエンターテイメントシステムなどを担当。全世界1000機以上への導入実績を持つなど、パナソニックのbツーb(企業間)事業を牽引する役割を担っていた。また、米国に本社機能を有している点でも、パナソニックの新たな経営体制を象徴するものだったといえる。
全社を象徴する事業が…
2016年年初までは、津賀社長自らも、「事業部基軸の経営のなかで、事業部を代表し、象徴し、他の事業部を引っ張る存在がアビオニクス事業。収益性の高さに加えて、全世界200社以上の航空会社をサポートし、顧客に深く突き刺さっていることが特徴」と手放しで評価していた。
だが、2016年度に入って予想以上に業績が落ち込み、減収減益の見通しになったばかりか、2018年度までは成長が見込めないこと、さらに、米国司法省(DOJ)および米国証券取引委員会(SEC)から、連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)および米国証券関連法に基づく調査を受けていることが明らかになったことも見逃せない。アビオニクス事業は一転して課題事業の一角にさえなろうとしている。
すべての話題が樋口人事に
そうした今回の役員人事のなかでの最大の目玉は、日本マイクロソフトの執行役員会長の樋口泰行氏が、4月1日付でパナソニックの専務役員に就任することだろう。
「今回は注目点の多い役員人事であったが、すべての話題をここに持っていかれた」(同社関係者)というほど、社内でもこの話題で持ちきりだった。
樋口氏が担当するのは、4月1日付けで、AVCネットワークス社から名称変更する社内カンパニーのコネクテッドソリューションズ社。カンパニー社長として陣頭指揮を執ることになるのに加えて、6月29日付で代表権を持つ取締役にも就き、4人の代表取締役の一角を占める。
手腕を間近で見てきた人物がサポート
また、これまでコーポレート戦略本部経営企画部長として約2年間、津賀社長をサポートしてきた原田秀昭氏が、4月1日付で、コネクテッドソリューションズの事業戦略担当兼経営企画担当に就き、樋口氏をサポートすることも見逃せない動きだ。
原田氏はレッツノートなどを担当するITプロダクツ事業部の事業部長を務め、日本マイクロソフト社長時代の樋口氏の経営手法を、パナソニックのなかで、最も間近で見てきた人物でもある。
IT業界を熟知し、樋口氏と共通の認識も多いだろう。パナソニックの社内事情を熟知した原田氏は、樋口氏の経営をサポートするには最適な人材といえ、パナソニックが万全の体制で樋口氏を迎えていることが伺われる。
コネクテッドソリューションズ社は、先に触れたアビオニクス事業のほか、レッツノートやタフブック、POSを担当するモバイルソリューション事業部、監視カメラなどを担当するセキュリティシステム事業部、スタジアムやテーマパーク向けの映像ソリューションなどを担当するメディアエンターテイメント事業部などで構成する。
さらに、4月1日付けでは、オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社から、プロセスオートメーション事業部が移管されることになる。
実は、樋口氏は、1980年に大阪大学工学部を卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社。12年間を同社で過ごしており、最初に配属されたのが溶接機事業部だった。この事業を担当しているのが、プロセスオートメーション事業部。樋口氏にとっては、社会人のスタートを切った事業を自らの傘下に置くことになる。
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