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竹中平蔵氏が提案のベーシックインカムが少子化対策になる理由

先ごろ竹中平蔵氏が「国民全員に毎月7万円支給」というベーシック・インカム論を紹介したところ、SNS上で広がり炎上したというニュースが話題になった。まあ、制度化するとなればいろいろ問題はあるのだろうが、ぼくは近い将来かなり現実味のある話だと思っている。

ユヴァル・ノア・ハラリが言うように、AIや産業用ロボットによって人類の大半は無用階級(Useless Class)になる。それ以前にコロナ禍による企業倒産が増えることによって、大量の失業者が生み出されるだろう。今後は全国民に一律に10万円の定額給付金を支払うといったことが恒常化してくるのは避けられない。この流れでベーシック・インカムのようなものが制度化されてくるだろう。

為政者からすれば、国際競争に打ち勝つために経済活動の集約化は必須である。気の毒だが効率の悪い中小企業には潰れてもらわなければならない。当然、大量の失業者が生まれる。彼らを宥めて暴動や反乱を起こさせないためには、なんらかのケアが必要である。そんなふうに考えると、竹中氏が言っている「月7万円」のベーシック・インカムは、SNSでは炎上しても現実味がある。制度を施行するにあたって、つまり給付額を7万円にするか10万円にするによって、消費税は30%から50%くらいの幅で引き上げられる。効率よく稼いだものを効率よく配分し、再び効率よく吸い上げて、国の経済をまわしていくことで、グローバル化した世界を生き抜く道が模索されてくるはずだ。

たとえば文章を書いて生活したいと思っている人が、生活費のすべてを文筆で賄うことは難しいだろう。とくに小説の場合は、ほとんどお金にならないと思っておいたほうがいい。だが月7万円の給付金があれば、あと5万円くらいをアルバイトで稼げば、自分の好きなことをしながら、なんとか暮らしていけるのではないか。

うちの次男はCGでイラストを描いたり動画を作ったりしているけれど、ほとんど収入にはなってないようだ。それでパートタイムのアルバイトなどをして稼ぎ、足りない分は親元に同居というかたちで補っている。仮に月7万円の給付があれば、親の家を出て仲間とアパートをシェアするなどして、小さな制作会社を作ったりもできるだろう。

田舎で農業をしたいと思っている人がいるとする。いまは過疎対策で農地や住居を無料で提供している自治体も多い。国土交通省は「空き家バンク」というものを作り、農地付きの空き家の提供を行っているようだ。ベーシック・インカムのような制度があれば、地方への移住はさらに容易になるに違いない。コロナの問題もあり、人の少ない田舎で子どもを育てたいと思っている人も多いはずだ。自分で米や野菜をつくり、半分自給自足みたいな生活をすれば給付金だけで暮らしていけるかもしれない。

 

もっと簡単な方法は子どもをつくることだ。子どもが5人いれば、一家7人で49万円。それだけで暮らしていけるのではないか。将来の生活不安から結婚や出産をためらっているカップルには、二人で14万円の給付金は大きな安心感をもたらすだろう。ベーシック・インカムは間違いなく少子化対策になるはずだ。

こんなふうにベーシック・インカムの導入によって、暮らしのスタイルや選択肢はずいぶん広がると思う。フィンランドやカナダでの実証実験でも、一定の効果があることは証明されているようだ。ただ貧困者の救済という面からベーシック・インカムを考えると、あまりいい結果はもたらさないのではないか。基本的には国の経済を効率よくまわしていくための仕組みだから、それに頼って生活することは、資本主義経済と国の施策のなかに巻き込まれることでもある。国の財源を確保するために消費税率などが引き上げられるわけだから、給付金に頼って生活することで、ぼくたちはますます貧乏になっていくとも言える。

生存の問題はとりあえず解決する、という点でベーシック・インカムは悪い制度ではない。しかし人が生きることは、生存とはまったく別の次元の問題である。ベーシック・インカムの導入とともに、「いかに生きるか」があらためて問われてくるだろう。「生きることの発明」がなされねばならない。「人間」が発明されなければならない、と言ってもいいと思う。(作家・片山恭一)

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