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九州北部豪雨から1カ月。経済復興へ支援模索

九州北部豪雨から1カ月。経済復興へ支援模索

被災地では復旧作業が急ピッチで進む(福岡県東峰村)

 福岡県や大分県を襲った7月の九州北部豪雨から1カ月が経過した。被害が甚大な福岡県朝倉市や大分県日田市などでは住民の生活再建やインフラ復旧が急ピッチで進む。一方で地元経済の復興に向けた本格的な動きはこれから。再生に向け長い道のりが待ち受ける中、地域の実態に合った支援も求められている。

企業 従業員対応に悩み


 「原状回復が第一だ」と言い切るのは酒類メーカーの篠崎(朝倉市)の篠崎博之社長。自動製麹装置など製造設備が浸水して生産がストップした。甘酒の売れ行きが好調で増産に向けて5月に導入したばかりの設備だった。

 現在は在庫の出荷を準備しつつ、9月の生産再開を目標に工場内の清掃や設備復旧を従業員総出で進める。

 同社は豪雨前から計画していた新工場の建設を2018年の完成に向けて本格化していく考え。少しずつではあるが再生に向けて踏み出している。

 被災地域では水や土砂の流入など直接の被害があった企業が存在する。一方で全くなかった企業もあり、被害には濃淡がある。ただ従業員への対応を課題とする声は少なくない。

 金型メーカーのシバタ精機(同)は操業に支障はないが避難所から通う従業員がいる。柴田實社長は「社員が普通に通勤できる状況に戻ってほしい」と訴える。関連会社の工場が朝倉市内にあるアサヒシューズ(福岡県久留米市)の谷川晃一管理本部長は「自宅が被災している状況で無理に出勤するようには言えない」と苦悩する。

 復旧に伴い、事業者には運転資金や設備復旧などの資金需要が増す。銀行は対応に動きだしている。被災地域を含む福岡県南部が営業基盤の筑邦銀行は担保原則不要の災害特別融資を設けた。久冨勇営業統括部次長は「融資の本格化には時間がかかるが、運転資金などへの問い合わせが来ている」と語る。福岡銀行や西日本シティ銀行なども被災企業を支援する融資の取り扱いを始めた。

 被害が大きかった鉄道でも復旧への取り組みが続く。JR九州はメンテナンスのため運休中の豪華寝台列車「ななつ星in九州」について22日からルートを一部変更し運行する。青柳俊彦社長は「九州を元気にする」と観光列車の再開を決めた。

 日田市にある鉄道橋「花月川橋りょう」が流失するなどした久大本線は18年夏を目指し作業を進める。当初、同規模の橋の再建は工事ができない時期を考慮して約3年かかると予想されていた。逆に、63カ所に被害があった日田彦山線の復旧時期は未定。現在はバスによる代行輸送が行われている。

BCP策定に政府支援を


 今後、災害の備えとして改めて注目されるのが事業継続計画(BCP)だ。帝国データバンク福岡支店が7月に公表した調査によると、九州・沖縄のBCP策定済み企業は9・1%。全国平均と比べ5・2ポイント低く地域別では最低水準だった。東京や大阪など都市圏に比べ中小企業の比率が高いことも一因とされ浸透には至ってない。

 16年の熊本地震後では、被災地からの部品調達が滞ったことなどで倒産した配電盤メーカーの例もある。災害時の資材調達に対応するBCP策定も復興の中で課題となりそうだ。帝国データバンクの担当者はBCP浸透のためには「ものづくり補助金などのように政府の積極的な支援も必要ではないか」とみる。

 今回の被災地でBCPを実践した企業もある。精密スプリング製造の中央発条工業(日田市)は自社で策定した規定に基づき災害発生直後から機械設備や建屋、輸送経路、外注先などの状況確認を管理職を中心に行った。竹内康晃社長は「情報が交錯する中、熊本地震などの教訓を生かして情報を集約することができた」と振り返る。

 復旧支援を政府などに求める声は大きくなっている。小川洋福岡県知事は政府に中小企業組合等共同施設等災害復旧事業(グループ補助金)の創設を求めている。創設への具体的な動きは見えないが、グループ補助金が適用された熊本地震では、補助率の高さもあって事業者が再建の道筋を整えるきっかけとなった。「廃業や倒産の抑止力となり得る」(帝国データバンク担当者)と、地方経済の衰退と絡む問題に一時的な歯止めをかける作用が期待される。

 また、風水害が年々激しくなる中で他地域の企業にとってもBCPの策定は喫緊の課題だ。地震対策などを含めて「備えあれば憂いなし」といえる対応が求められている。

インタビュー/朝倉商工会議所会頭・大隈晴明氏「オーダーメード型の個社支援補助金を要望」


 ―会員企業の被災状況は。
 「復旧作業に追われて、なかなか連絡が取れない所もあり、全容を把握できない状況にある。各事業所を回り、情報収集にあたっている段階だ」

 ―どのような声が挙がっていますか。
 「地域的に小規模な事業者が多く資金的な余裕がない企業が多い。融資による支援を求める声もあるが、融資を受けると返済の負担が生じる。既に一時解雇や廃業なども聞かれ、早急な資金需要の声がある。その上で融資とは別に何らかの補助金によるサポートを求める声が増えている」

 ―求められる具体的な補助は。
 「熊本地震の時のようにグループ補助金のようなやり方もあるが小規模事業者が中心の地域でグループがまとまるか分からない。地域の実態に合わせるためにも事業者へのオーダーメード型の個社支援補助金の創設を求めているところだ」

 ―被災地でも企業によって被害の状況はさまざまです。
 「自分たちでできるいろんな策を講じなければならない。だが既に観光業や飲食業などは風評被害の影響を受けている。商工業についていえば農業などと比べると国や自治体の支援の幅が狭いように感じる。中長期的な地域経済の衰退に拍車がかからないように早急な施策の実施を国や自治体に働きかけなければならない」

(文=西部・高田圭介、同・増重直樹)
日刊工業新聞2017年8月7日
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
BCP(事業継続計画)が必要な一方、中小企業や小規模事業者にとっては時間もコストもかかりハードルが高い。ただ、計画策定まで至らなくとも、まず前段となるリスクを見える化し危機管理を行うことで、おのずと対応が進む部分もあるのでは。またBCPをつくるにしても、中小企業が持つ自社のネットワークだけで、調達や物流などの面でしっかり事業継続できる有効な計画ができるとも思えない。ここは地域金融機関が支援をがんばるところなのでは。

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