離島の電気代は上がる?ハワイ、ガラパゴスにみるスマートグリッドの可能性
日本の技術が世界から求められている
世界の離島で、再生可能エネルギーを使いこなすスマートグリッド(次世代電力網)の導入が始まった。米ハワイ州マウイ島では、日立製作所が再生エネの大量活用を電気自動車(EV)で支えるシステムを確立した。南米ガラパゴス諸島では、富士電機の蓄電池制御技術が再生エネの安定供給を担う。離島は電力を火力発電に依存するため電気代が高く、燃料不要の再生エネの需要が高まっている。日本のスマートグリッドの出番がやってきた。
日立は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から事業委託を受け2011年―16年度にみずほ銀行、サイバーディフェンス研究所とともにマウイ島で実証事業を展開した。
島には9万キロワットの太陽光発電、7万キロワットの風力発電がある。島の電力消費は最大20万キロワット、少ないと9万キロワットまで落ち込む。需給のバランスによっては再生エネが作りすぎた電気が電力系統にあふれる恐れがある。
日立は気象による再生エネの発電の変動をEVの蓄電池で緩やかにし、電力需給を調整するスマートグリッドの確立を目指した。
遠隔操作でEVの充電と放電を指示できるICT(情報通信技術)を用意。再生エネの発電が増えるとEVを充電し、使い切れない余剰電力をEVの蓄電池にためる。逆に電気が足りなそうだと、EVが放電して不足分を補う。
小さな電源をIoT(モノのインターネット)で束ねて火力発電所のように扱う電力需給調整は「仮想発電所」と呼ばれ、各地で実験が始まっている。マウイはEVを発電所替わりに使う。住民がEV200台を保有して参加するなど規模が大きく、世界最先端の実証と言える。
住民に普段通りにEVを使ってもらったことで日立は、充電器に接続したEVがいつ、何台あるといった“生きたデータ”を取得。島の自動車の3割に当たる6万台がEVなら、島の電気全量を再生エネにできると導き出した。
長期間におよんだ社会実験から、新しい技術の普及に欠かせない住民行動も学習できた。日立グローバルプロジェクト推進本部第四部の平岡貢一部長は「技術を持ち込むだけで普及するのかが課題だったが、主婦の口コミでEVのメリットが伝わると分かった」と振り返る。島のEVは11年の8倍の800台に増えた。
ハワイは火力発電の燃料の輸送費が嵩み、電気代は米本土より高い。将来の原油価格の高騰を心配した州政府は再生エネの導入を進めており、45年に再生エネ100%が目標だ。
ガソリン代も高いため、EV利用の節約効果も実感しやすい。日立が実証したEVによる仮想発電所は離島に受け入れやすい。
マウイ島の成果はすでに生かされ、英シリー諸島への導入が予定されている。同本部新規事業開発部の笠井真一担当部長は「離島前提の技術と思っていたが、他にも展開できる」と手応えを語る。
世界の多くの離島がハワイと同じエネルギー問題を抱えており、すでに日本の技術が活躍している。南米エクアドル・ガラパゴス諸島の一つ、バルトラ島は風力発電機3基を使いこなせていなかった。発電の変動が電力系統を乱すため、あえて出力を落として運転していた。
この課題解決のため日本の政府開発援助(ODA)でリチウムイオン電池と鉛電池を組み合わせた蓄電池システムと太陽光発電が納入された。
再生エネの発電が変化すると蓄電池が充電と放電を切り替え、電気の質を整えて送電する。16年2月の稼働後、風力は出力を絞らずに発電した電気全量を送電できるようになった。
日常の運用では蓄電池の電池残量の設定が重要となる。満充電なら余剰電力を吸収できない。逆に残量が少ないと再生エネが急停止しても放電ができず、電力不足を招く。
蓄電池システムの設計・施工を担当した富士電機次世代配電プロジェクト部の小島武彦担当部長は「余力の配分はノウハウ。電池の特性も知り尽くしている」と胸を張る。
同社はトンガ王国の島でも国際協力機構(JICA)の援助を使い、リチウムイオンキャパシタ搭載の蓄電池システムと太陽光発電所を構築した。
再生エネの安定供給を支える蓄電池制御技術は確立したが、課題は蓄電池のコスト。補助金なしでも導入できるまで蓄電池の価格が下がれば、世界の島に普及できる。
新潟県の佐渡島では、「デジタルグリッドルーター」(DGR)と呼ぶ電力の融通技術を活用した再生エネの普及が検討されている。
DGRは情報を振り分けるインターネットのルーターと似た機能を持つ。電気のやりとりを仕切り、家庭で余った太陽光発電の電気を近隣の工場へ送ったり、安い電気を選んでEVに充電できたりする。「だれから、どれだけ買った」かも分かる。東京大学の阿部力也特任教授が開発した。
佐渡のDGR導入構想は三井共同建設コンサルタント(東京都品川区)、静岡ガス、立山科学工業(富山市)、佐渡ガス(新潟県佐渡市)、佐渡市が経済産業省の補助金を活用して検討し、日本総合研究所も支援した。
実現できれば、系統に負担をかけずに再生エネの活用を増やせる。離島の過疎地にDGRを使って系統から独立したマイクログリッドを構築できれば、停電時でも電力を自給自足ができるようになり、災害対策にもなる。
三井共同建設コンサルタント事業戦略室の江内谷義信チームリーダーは「雇用創出など地域活性化につながる事業モデルの検討も必要」と、事業化に向けた課題を語る。
燃料費の問題や災害対策を考えると島は、再生エネ導入の優先度が高い。一方で再生エネを受け入れる系統容量不足も島の共通課題となっており、スマートグリッドのニーズも高い。日本だけでも有人の離島は400あり、事業モデルを見いだせれば離島がスマートグリッドの市場となる。
(文=松木喬)
日立、発電の変動をEVで調整
日立は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から事業委託を受け2011年―16年度にみずほ銀行、サイバーディフェンス研究所とともにマウイ島で実証事業を展開した。
島には9万キロワットの太陽光発電、7万キロワットの風力発電がある。島の電力消費は最大20万キロワット、少ないと9万キロワットまで落ち込む。需給のバランスによっては再生エネが作りすぎた電気が電力系統にあふれる恐れがある。
日立は気象による再生エネの発電の変動をEVの蓄電池で緩やかにし、電力需給を調整するスマートグリッドの確立を目指した。
遠隔操作でEVの充電と放電を指示できるICT(情報通信技術)を用意。再生エネの発電が増えるとEVを充電し、使い切れない余剰電力をEVの蓄電池にためる。逆に電気が足りなそうだと、EVが放電して不足分を補う。
小さな電源をIoT(モノのインターネット)で束ねて火力発電所のように扱う電力需給調整は「仮想発電所」と呼ばれ、各地で実験が始まっている。マウイはEVを発電所替わりに使う。住民がEV200台を保有して参加するなど規模が大きく、世界最先端の実証と言える。
住民に普段通りにEVを使ってもらったことで日立は、充電器に接続したEVがいつ、何台あるといった“生きたデータ”を取得。島の自動車の3割に当たる6万台がEVなら、島の電気全量を再生エネにできると導き出した。
長期間におよんだ社会実験から、新しい技術の普及に欠かせない住民行動も学習できた。日立グローバルプロジェクト推進本部第四部の平岡貢一部長は「技術を持ち込むだけで普及するのかが課題だったが、主婦の口コミでEVのメリットが伝わると分かった」と振り返る。島のEVは11年の8倍の800台に増えた。
ハワイは火力発電の燃料の輸送費が嵩み、電気代は米本土より高い。将来の原油価格の高騰を心配した州政府は再生エネの導入を進めており、45年に再生エネ100%が目標だ。
ガソリン代も高いため、EV利用の節約効果も実感しやすい。日立が実証したEVによる仮想発電所は離島に受け入れやすい。
マウイ島の成果はすでに生かされ、英シリー諸島への導入が予定されている。同本部新規事業開発部の笠井真一担当部長は「離島前提の技術と思っていたが、他にも展開できる」と手応えを語る。
富士電機、蓄電池制御で安定供給
世界の多くの離島がハワイと同じエネルギー問題を抱えており、すでに日本の技術が活躍している。南米エクアドル・ガラパゴス諸島の一つ、バルトラ島は風力発電機3基を使いこなせていなかった。発電の変動が電力系統を乱すため、あえて出力を落として運転していた。
この課題解決のため日本の政府開発援助(ODA)でリチウムイオン電池と鉛電池を組み合わせた蓄電池システムと太陽光発電が納入された。
再生エネの発電が変化すると蓄電池が充電と放電を切り替え、電気の質を整えて送電する。16年2月の稼働後、風力は出力を絞らずに発電した電気全量を送電できるようになった。
日常の運用では蓄電池の電池残量の設定が重要となる。満充電なら余剰電力を吸収できない。逆に残量が少ないと再生エネが急停止しても放電ができず、電力不足を招く。
蓄電池システムの設計・施工を担当した富士電機次世代配電プロジェクト部の小島武彦担当部長は「余力の配分はノウハウ。電池の特性も知り尽くしている」と胸を張る。
同社はトンガ王国の島でも国際協力機構(JICA)の援助を使い、リチウムイオンキャパシタ搭載の蓄電池システムと太陽光発電所を構築した。
再生エネの安定供給を支える蓄電池制御技術は確立したが、課題は蓄電池のコスト。補助金なしでも導入できるまで蓄電池の価格が下がれば、世界の島に普及できる。
佐渡島、“ルーター”で電力融通
新潟県の佐渡島では、「デジタルグリッドルーター」(DGR)と呼ぶ電力の融通技術を活用した再生エネの普及が検討されている。
DGRは情報を振り分けるインターネットのルーターと似た機能を持つ。電気のやりとりを仕切り、家庭で余った太陽光発電の電気を近隣の工場へ送ったり、安い電気を選んでEVに充電できたりする。「だれから、どれだけ買った」かも分かる。東京大学の阿部力也特任教授が開発した。
佐渡のDGR導入構想は三井共同建設コンサルタント(東京都品川区)、静岡ガス、立山科学工業(富山市)、佐渡ガス(新潟県佐渡市)、佐渡市が経済産業省の補助金を活用して検討し、日本総合研究所も支援した。
実現できれば、系統に負担をかけずに再生エネの活用を増やせる。離島の過疎地にDGRを使って系統から独立したマイクログリッドを構築できれば、停電時でも電力を自給自足ができるようになり、災害対策にもなる。
三井共同建設コンサルタント事業戦略室の江内谷義信チームリーダーは「雇用創出など地域活性化につながる事業モデルの検討も必要」と、事業化に向けた課題を語る。
燃料費の問題や災害対策を考えると島は、再生エネ導入の優先度が高い。一方で再生エネを受け入れる系統容量不足も島の共通課題となっており、スマートグリッドのニーズも高い。日本だけでも有人の離島は400あり、事業モデルを見いだせれば離島がスマートグリッドの市場となる。
(文=松木喬)
日刊工業新聞2017年7月26日