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東芝とWDの係争は「仲裁裁」へ。結局、どっちが有利になったの?

対立構造変わらずも、東芝関係者には安心感!?
東芝とWDの係争は「仲裁裁」へ。結局、どっちが有利になったの?

WDのミリガンCEO(左)と東芝の綱川社長

 東芝の半導体子会社「東芝メモリ」売却の予備的差し止めを米ウエスタンデジタル(WD)が求めた訴訟で、米カリフォルニア州上級裁判所が判断を示さなかったことを受け、東芝は売却契約の締結を急ぐ考えを示した。ただ売却に反対するWDの主張は変わっておらず、差し止めリスクは残る。秋までには法廷対決の本番と位置付ける国際仲裁裁判所での審議が始まる。そこでの対応が東芝の命運を左右する。

 「(東芝メモリ売却計画の)関係者は“14日”を気にしていた。安心感を与えられたと思う」―。米カリフォルニア州上級裁判所が示した審問結果について東芝関係者はこう評価する。

 2017年度中の売却完了という時間的制約の中で、東芝が恐れていたのは、WDの主張が全面的に認められ売却手続きが止まってしまうことだった。最悪の事態を回避でき、関係者は「(優先交渉先の日米韓連合と)7月中に基本合意できるよう努める」と話した。

 ただ、同上級裁は差し止め判断を棚上げした一方、「東芝が売却を完了する2週間前にWDに通告する」ことを両社に提案し、28日の再審問までに詳細を詰めるよう求めた。

 WDは2週間前に通告を受ければ、対抗措置のための十分な時間をとれる。同上級裁の判断について、仲裁裁に詳しい早川吉尚弁護士は「WDに売却阻止の“ボタン”を持たせた状態で、東芝にWDと協議する機会を与えた」と指摘する。売却手続きを揺さぶるWD、守る東芝という構図は変わらないとみる。

 WDは東芝がメモリー事業を売却するには、合弁相手であるWDの同意が必要と主張してきた。当初、WDはこの同意権の対象を合弁会社の東芝側の持ち分としていたが、今は同事業の資産全体に及ぶと主張している。

 東芝は全面反論しており、同上級裁の訴訟でも同意権の問題は争点の一つとなったが、見解は示されなかった。

 WDは先行して5月、仲裁裁に売却差し止めを申し立てた。同上級裁への訴えは予備的措置を求めたもので、本番である仲裁裁での審理は秋にはスタートする見込み。

 最終判断には1年はかかるとみられ、WDは仲裁裁でも予備的に売却を差し止める暫定保全措置を求めるとみられる。

 その裁定では同上級裁から持ち越された同意権問題に焦点が当たる可能性が高い。仮に仲裁裁が同意権を広範囲に認め、暫定保全対象を事業全体に設定すれば、売却手続きの継続は難しくなる。

 反対に東芝の主張が認められ暫定保全措置が取られなければ、WDの立場は弱くなる。
                    

(文=後藤信之)
日刊工業新聞2017年7月17日
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
端的に言えば、東芝とWDの対立構造は、そのまま仲裁裁に持ち越されたということ。困難な状態はまだ続く。

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