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東芝、「日米韓連合」に半導体売却で最終調整

米WDとの対立硬直化、着地点も見えない中で見切り発車
東芝、「日米韓連合」に半導体売却で最終調整

東芝の綱川智社長(右)と東芝メモリの成毛康雄社長

 東芝は半導体メモリー子会社「東芝メモリ」の売却先について産業革新機構や米ファンド、韓国SKハイニックスなどで構成する「日米韓連合」を軸に最終調整に入った。米ブロードコムが有力とされていたが、売却後のリストラの懸念がぬぐえない。日米韓連合の提案が固まり、東芝は日本が主導権を握れる同連合を評価しているもようだ。東芝は21日に開催予定の取締役会での決定を目指し、詰めの協議を進める。

 日米韓連合は革新機構のほか、日本政策投資銀行や銀行、米ファンドのベインキャピタル、4―5社程度の日本の事業会社で構成する。SKハイニックスはメモリーを手がける同業だが、経営権を持たず融資する形で参画することで、独占禁止法への抵触を回避する考えだ。

 米ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)も加わるとされている。ただKKRは東芝メモリの売却に反対する米ウエスタンデジタル(WD)と組む方針を示していた。さらに「民間ファンドは一つでいいのでは」(関係者)との声もあり、陣営に加わるかは流動的だ。

 日米韓連合は2兆円超と、優勢とされていた2兆2000億円を提示するブロードコムと遜色ない金額を提示したようだ。これまでブロードコムはM&A(合併・買収)とリストラによる事業拡大を続けてきたほか、全額出資を望んでいる。一方、日米韓連合は東芝が一部出資する方向で調整を進めている。

ぬぐえぬ訴訟リスク


 東芝の半導体子会社「東芝メモリ」の売却を巡り、協業先のウエスタンデジタル(WD)との対立関係が硬直化している。有力な売り手候補に浮上した「日米韓連合」にWDを加え関係改善を図る案が検討されたが、実現性は乏しい。東芝は21日にも取締役会を開き売却先を決める方針だが、WDに関するリスクは残る。日米韓連合の一部からは、売却完了までにWDによる訴訟が取り下げられなければ、落札した場合の契約を撤回する「停止条件」の設定を検討する声も上がる。

 「WDが日米韓連合に加わる可能性は低い。両者の関係は泥沼から抜け出せないだろう」―。日米韓連合の中心を担う産業革新機構関係者は指摘する。

 東芝とWDは合弁会社をつくりメモリー事業を展開する。WDは東芝メモリ売却は合弁契約違反として5月に売却差し止めを国際仲裁裁判所に申し立てた。

 さらに6月には米カリフォルニア州上級裁判所にも訴えを起こした。「これが両者の対立を決定的なものにした」(革新機構関係者)。

 東芝メモリの入札は最終局面を迎え売却先候補は、革新機構のほか、米ファンド、韓国SKハイニックスなどで構成する日米韓連合と、米ブロードコムの2陣営に絞られた。

 東芝は日本企業が主導権を握れる日米韓連合を有力視し、最後の詰めの協議が進む。WDの訴えについて、革新機構の意思決定機関である産業革新委員会の委員の一人は「入札が停止してもおかしくなかったが、そうはなっていない」と指摘し、事実上黙殺する姿勢を示す。

 一方、同連合に参加する金融機関幹部は「WDが矛を収めてくれないと訴訟リスクがぬぐえない」とし「(売買契約に)停止条件を付加することもあり得る」と指摘する。

 東芝は17年度内に東芝メモリを売却したい意向。時間的余裕のない中、訴訟関連で売却手続きが停滞するリスクは排除したい考え。

 カリフォルニア州上級裁判所は7月中旬ぐらいまでには売却の暫定差し止めの判断を下すとみられ、「一つの節目になるかもしれない」(東芝関係者)。少なくともそれまでは、東芝とWDの対立は膠着状態から抜け出せない可能性が高い。
                   

(文=後藤信之)
日刊工業新聞2017年6月21日
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
21日に開く取締役会に諮り、決定次第、適時開示を行う見通し。今後は提案内容などについて詰めの協議を進め、28日に開く株主総会までの正式契約を目指す方針だ。ただ日米韓連合に加わる予定の日本の事業会社の調整は続いており、WDとの対立の着地点も見えていない。株主総会を開く28日までに正式契約を結べるかは流動的だ。

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