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今日は「ねじの日」、ネジ業界最前線

高まる多品種少量のニーズ、課題の物流にも工夫
今日は「ねじの日」、ネジ業界最前線

ネジは多様な分野で活用され、社会に貢献する基礎部品

 きょう6月1日の「ねじの日」。ネジは産業分野をはじめ、日常生活に関わるところにも広く使われている基礎部品。暮らしやインフラの安全を支える重責も担い、社会に寄与している。ネジ業界の最前線を探る。

 ネジはサイズや形状などに応じて種類・品目が極めて多い。メーカーの製品開発に向けたモノづくりへの真摯(しんし)な姿勢とともに、メーカーとユーザーとをつなぐ流通においても、迅速な商品提供と、運用面での最適な仕組みづくりに余念がない。IT活用と創意工夫で、多品種少量の世界でニーズに沿った業務効率化を追求している。

 ネジに求められるニーズには用途に応じて高強度、高耐食、緩み止め、軽量化、小型化などが挙げられる。メーカーでは新規分野開拓と既存市場の需要創出に向け、先のネジへの要求を踏まえながら、さらに付加価値を高めた製品開発に挑んでいる。こうした中、流通分野でも提供サービスの付加価値を高めた取り組みが進む。

 ネジ商社のサンコーインダストリー(大阪市西区)。同社の東大阪物流センター(大阪府東大阪市)は、顧客である2次卸事業者や小売り事業者からの多様な発注に迅速に応える、その中核施設だ。

 ITを活用し、コンピューター登録で、商品の仕入れから受発注、配送までの流れを一元管理。備える自動倉庫(自動設備)とも連動して、効率的な運用を可能にしている。

 取扱アイテム数は安全靴やヘルメット、工具、マスクなど、ネジ以外の副資材も含め約82万点。このうち、約18万点を常時在庫している。また、継続的に1カ月約1000点のペースで点数を増やしている、という。取扱アイテム数は、2018年度で100万点にまで増やす方針だ。

 豊富な商品点数により、受注生産になりがちなモノでも、例えばネジサイズ(長さ)を細かくそろえて顧客からの要望に対応。これに重点をおくネジ1本からの注文にも応じる、ばら売りが利便性を提供し支持を得ている。

 顧客の2次卸などでは余分な在庫を持たずにすみ、商品到着後に数量を数える必要もなく、そのままユーザーに届けられるため、手間を省けるメリットも大きい。この“使い勝手の良さ"がネジ以外の副資材への注文にも相乗効果を発揮している。

 ばら売り(対象アイテム11万点)は注文件数の約4割を占め、扱う商品の拡大に比例し、その割合もさらに高まる見通しだ。

 商品の即納対応では、17時までの注文には基本的に当日発送し、翌日午前中に配送できる。ただ、扱い商品の拡大に伴う物流量の増大は、輸送事業者に託す発送時間に影響を与えかねない。

 そこで同社では、顧客からの注文特性を解析。締め切り時間後からの発注商品の荷合わせを、例えば解析結果をもとに通常16時までに注文を終える顧客であれば、その時間で作業に入る。追加の注文があった場合でもその時点で対処するため、解析結果の活用は、締め切り時間後の作業の前倒しによる出荷業務の分散に役立っている。

 また、物流センターの商品配置も工夫。各フロアに備える商品在庫のうち、発注頻度の高い商品についてはワンフロアに集約する構成にしている。これにより、商品取り出しの効率化と作業者の省力化につなげている。また発注に伴う梱包(こんぽう)では、封函機なども導入している。

 同社では今後、自動倉庫(数量の多い段ボール詰用)を18年に新設する予定。さらに一部で行う、海外への商品直送についてもシステム化を図り、実施していく方針だ。
自動倉庫と連動したばら売り対応のライン

ネジの街「大阪」


 大阪はそのネジ産業の一大集積地。関西ねじ協同組合の中江良一理事長(紀州ファスナー工業社長)に、市場環境やネジ業界の振興に向けて組合の各種事業にあたる思いなどを聞いた。

 ―ネジは広く社会に貢献しています。
 「自動車や住宅にはじまり、工業製品でない食品も加工には機械がいる。漁業にしても手漕(ルビ)ぎは別として、エンジンの付いた船で漁に出る。農業も鎌や鍬(くわ)だけの時代とは異なり、農業機械が欠かせないなど、今の時代、ネジが使われていない産業は考えられない」

 ―その多様な分野で使われているネジの需要動向は。
 「ネジのビッグユーザーは自動車。自動車産業全体では増えている。海外生産も確かに増えてはいるが、現地生産化といいながら、(進出先での調達事情もあって)ネジの海外向け生産が縮んでいるわけでもない」

 「住宅も伸びており、これまで悪かった建設機械にも動きが出ている。従来は水面上と水面下の産業が混沌(こんとん)としていたが、2016年秋ごろから水面下の産業はなくなってきたようだ。ネジ業界として17年度は前年実績を上回ると思う。20年の東京五輪・パラリンピック開催が迫り、18年の市場環境も良いだろう」

 ―関西ねじ協同組合は技術開発や人材開発、福利厚生、会員交流など、組合活動が活発です。
 「16年からは大阪鋲螺卸商協同組合との合同企画で、ゴルフコンぺなどを実施している。まずは、交流を深めて今後、ユーザーである最終顧客に対し、製販一体でビジネスメリットのあるものを作り上げるのがその狙いだ」

 「小さなところが集まってひとつの塊になり、大きな力を出せるのが組合の良さ。そのメリットを出していかないと、入っている意味もない。大学教授を招いて実施してきた(技術開発委員会が行うネジ研究の)講演会は大盛況で、熱心な聴講ぶりには先生も関心されるほど。17年度も別途、実施していく。大学工学部への訪問なども計画している」

 「ただ、(組合の事業は)アカデミックに偏ってもいけない。組合員が等しく受益を得られ、費用対効果の面で『組合に入っていて良かった』と喜ばれるようにしないといけない。その意味で事業内容のバランスを大切にしている」

 ―組合の対外発信にも重点をおいています。
 「16年、新たに『ねじ産業振興委員会』をつくった。組合とともにネジ産業の周知とイメージアップを図るためで、その具体策として10月には『ねじ川柳』を広く一般公募する予定だ。“サラリーマン川柳”のようなもので、例えば『緩む』とか、ネジにまつわる表現を織り込んで応募してもらう。こうした取り組みを通して、ネジ産業を広く知らしめていきたい」

 ―今後の課題は。
 「少子高齢化の進展で、若い人たちにいかにネジ産業に入ってきてもらうか、また入ってきた人たちが育っていけるような業界にしていく、ということだろう。機械化や自動化などによる作業の省力化などとともに、個々の企業がオリジナリティーを出し、(携わる人たちが自負を持てるような)自社のブランドイメージを作り上げる取り組みも必要と思う」
中江良一関西ねじ協同組合理事長

【関西ねじ協同組合メモ】
 2002年10月にネジ製造の在阪5団体(西部製線鋲螺工業協同組合、大阪鋲螺工業組合、近畿精密ネジ工業協同組合、日本ナット工業組合、大阪磨ナット工業協同組合)が統合して設立。会員企業は201社。「技術開発」「海外情報」「人材開発」「交流」などの7委員会と、「ドリルねじ」「ナット」「ボルト」「小ねじタッピング」など、9分科会を設けて会員企業の発展とネジ業界の活性化に向け、多彩な活動を行う。

 
日刊工業新聞電子版2017年6月1日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
「ねじの日」は業界団体の日本ねじ工業協会と日本ねじ商業協同組合連合会で組織した「ねじ商工連盟」が1975年に制定された。6月1日としたのは、1949年(昭24)のこの日に工業標準化法が制定され、日本工業規格(JIS)にネジ製品類が指定されたことに由来している。

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