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格安スマホ、サービスのトラブル急増

相談件数3倍に。不信感が市場拡大に水を差す
 格安スマートフォン市場で、サービスの提供体制などをめぐるトラブルが急増している。格安スマホはインターネットを通じた契約が主流だ。店舗での対面販売が基本の大手キャリアと異なり、免許証など身分証明書の画像データを送信して本人確認を行う。格安スマホ事業者は店舗の展開を抑えることで低価格を維持している側面がある。一方、こうした本人確認の仕組みを逆手に取り、身分証明書を偽って契約し、格安スマホを悪用する事例が増えている。

 「不明点などを問い合わせる窓口が電話しかなく、つながりにくい」(60代男性)、「メールアドレスの提供がない」(50代女性)、「修理期間中の代替機の貸し出しがない」(30代男性)―。

 格安スマホについて全国の消費生活センターなどに消費者から寄せられた相談だ。16年度の相談件数は前年度比2・8倍の1045件に急増した。低廉な料金を実現する体制を敷く格安スマホ事業者と、携帯大手と同等のサービスを期待する消費者の間にギャップが生じている。

 2016年1月、通信関連事業者などが加盟するテレコムサービス協会(テレサ協、東京都中央区)の事務所に、警察庁の関係者が訪ねて忠告した。「格安スマホが『おれおれ詐欺』などの特殊詐欺に使われるケースが増えている」―。

 特殊詐欺はそれまでレンタル携帯が使われる事例が多かった。レンタル携帯業者の取り締まりが強化され、代替手段として悪用され始めたのが格安スマホだった。

 「(格安スマホは)店舗で対面せずにインターネット上で簡単に契約できると犯罪グループに認識され、目を付けられたようだ」(テレサ協)という。

 こうした状況を踏まえ、テレサ協MVNO委員会は対策に乗り出した。身分証明者を偽って不正に契約し、詐欺などに使われた格安スマホと警察が特定した場合、警察の要請を受けて格安スマホ事業者がサービスを停止する協力関係を構築した。16年9月に運用を始めた結果、同12月までのわずか4カ月の間に警察からの要請は335件に上った。

 さらに踏み込んだ対策を取る構えだ。不正契約に使われた契約者情報に関し、事業者間で共有するシステムを構築する方向で検討に入った。

 具体的には、警察の要請を受けてサービスを停止した事業者が、その格安スマホの契約者情報をシステムに登録する。他の事業者は契約の本人確認時に、その情報を参照できるようにする。

 偽造された身分証は使い回して複数の事業者と契約することがあるため、事業者間で情報を共有することで不正契約の拡大に歯止めをかける。

 格安スマホは利用料の安さが注目され、市場が拡大している。ただ低価格のサービスが持つ特徴も含めて消費者の理解が得られなければ不信感が生まれかねない。市場のさらなる成長を実現するには各事業者による丁寧な説明が求められる。
              

(文=葭本隆太)
日刊工業新聞2017年5月24日の記事を加筆・修正
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 格安スマートフォン市場に転換期が近づいている。異業種の新規参入などで急速に成長してきた同市場だが、すでにシェアは上位に集中しており、生き残りの展望が描けずに撤退する事業者も出てきた。今後は認知度などで優位に立つ少数の勝ち組業者を軸にした再編・淘汰(とうた)が進むとの見方もある。  格安スマホ事業者を含む仮想移動体通信事業者(MVNO)は16年12月時点で668社に上る一方、格安スマホサービスのシェアの6割は上位6社が占め、事業者数は飽和状態だ。こうした中でのNTTぷららの撤退は業界に淘汰の波が押し寄せる前触れとも捉えられる。  業界では今後、市場がさらに拡大する過程では、大規模な広告宣伝や実店舗の展開に加えて、知人や友人からの「口コミ」が顧客の獲得競争を左右すると指摘されている。よい口コミの醸成には丁寧な顧客対応の積み重ねや通信品質の安定を実現する不断の努力が必要。広告宣伝や実店舗の展開なども含めて先行投資が欠かせない。体力のない事業者は、撤退などの判断を迫られそうだ。 (日刊工業新聞第一産業部・葭本隆太)

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