ローソンの“サラダ推し”を支える地方での農業創生
小売業界で取り組み進むも、コストと失敗に向き合う
ローソンは2018年2月期のサラダの売上高を、前期比25%増の250億円に引き上げる。一食で食事が完結できるパスタサラダなどを中心に、品目数を同6割増の26品目に増やした。専用農場で生産した野菜の利用比率を上げ、健康や地産地消の取り組みを訴求する。
竹増貞信社長は「グリーンスムージーなどと組み合わせるなど、健康を意識した買い合わせも多い」と説明する。共働き家庭の増加などで、コンビニエンスストアのサラダ需要は伸びている。
一部店舗で陳列スペースを拡大したところ、サラダの売上高は従来比5割増になったという。販売拡大に向け、工場では仕分けロボットを導入するなど、生産の効率化も進める。
ローソンが農業分野に力を入れている。このほど岩手県八幡平市で、地熱温水を使ったビニールハウスで栽培したピーマンの出荷を始めた。当面は近郊の店舗のみだが、4―5月には関東の一部店舗でも販売する予定だ。同社は全国に農業法人「ローソンファーム」の設立も進めており、農業者減少や高齢化が進む中、地方創生と農作物の安定調達の両立を目指して事業の確立に取り組んでいる。
「クリーンエネルギーの活用とともに、地方創生を目指したい」。前田淳ローソン執行役員は事業の狙いをこう説明する。市内の地熱発電所が供給した温水をビニールハウスに引き、ピーマンを周年で生産する計画だ。栽培は八幡平市で馬ふん由来の堆肥を使った農業に取り組んでいる企業組合が担っている。
八幡平市は1月の平均気温がマイナス3度Cの寒冷地で、積雪量も多い。約30年前に地熱温水を使ったビニールハウスで花卉(かき)などの栽培が始まったが、後継者不足や販路確保が難しくなり、農作放棄状態のビニールハウスが増えていた。
ピーマンの栽培にあたり、市が約1100万円を負担してビニールハウスを改装した。温水のコストは重油の5分の1以下で、二酸化炭素(CO2)の排出量も抑えられる。
田村正彦市長は「ローソンの商品開発力や販売力と組み合わせることで、地熱発電の素晴らしさを全国に発信したい」と期待する。
ローソンは20代、30代の若手農業者との共同出資で農業生産法人「ローソンファーム」を全国に設立し、収穫したキャベツやコメなどを店舗で販売している。
現在のローソンファームの数は23で、八幡平を含め、2017年2月期中に30カ所で稼働予定だ。前田執行役員は「『農業をやっている』と旗揚げする小売りは見受けられるが、簡単ではない。当社は相当なコストを割いており、東日本大震災や台風などの天災と向き合い、失敗もしている」と難しさを語る。
それでも取り組むのは、農業者の減少で「若手を育てなければ、調達できる野菜がなくなる」(前田執行役員)との危機感がある。
同社はスーパーマーケットの代替ニーズや健康への関心をつかむため、生鮮や総菜を強化する方針だ。ローソンファームで収穫した農産物は土壌に配慮して栽培し、生産履歴を管理している点を訴求している。規格外品は総菜などに加工して販売できる、コンビニの強みも生かす。
小売業界では各社が農業分野への取り組みを加速。イオン傘下のイオンアグリ創造(千葉市美浜区)は全国20カ所で農場を運営し、4月には徳島県阿波市で四国初の直営農場を開く。セブン&アイ・ホールディングス(HD)は販売期限切れなどの野菜を堆肥にして野菜を育てる、「循環型農業」を進めている。
(文=江上佑美子)
※内容、肩書は当時のもの
カット野菜やパッケージングサラダの国内最大手、サラダクラブ(東京都調布市、萩芳彰社長)が、契約農家と信頼関係を築く取り組みに力を入れている。その一つとして、複数の契約農家を「優良契約産地」として表彰している。年間を通じて一定価格を強みとするカット野菜は、原料の供給が生命線。台風や猛暑などで産地が打撃を受ければ、スーパーなどで欠品や品薄の事態を招き、取引関係を見直されかねない。同社の取り組みは、業務用野菜を手がける同業他社にも参考になりそうだ。
「昨年10月、気象災害で野菜相場が高騰したときも、(契約農家の)皆さんの協力で切り抜けられた」。このほどサラダクラブが都内で開いた優良契約産地の表彰式の席上、萩社長は契約農家への感謝の気持ちをこう強調した。
スーパーとの懇談会で「『御社は欠品しないですごいね』と口々に言われた」ことも披露。「ひとえに皆さんのおかげだ」と、絶賛した。
実際、2016年は地震や台風、記録的な大雨が頻発。それだけに、同社が欠品や品薄を起こさなかったことを評価する声は多い。
同社の原料に欠かせないキャベツやレタスなどの葉物野菜は、長雨や猛暑などの天候状態によって、相場が大きく変動する。スーパー店頭で1個の値段が、80円から400円にはね上がることもざらだ。
価格に敏感な消費者は、こうした相場に左右されにくいカット野菜に注目。カット野菜市場は毎年2ケタ近い高成長が続いている。
サラダクラブが契約する農家の産地は、北は北海道から南は沖縄県まで、全国480カ所に及ぶ。レタスの場合、気候が暖かくなる順に従って沖縄、熊本、香川、長野、群馬、茨城、北海道などと“産地リレー”を組む。年間でレタスの栽培・収穫時期は限られるが、バトンを受け渡すように産地がリレーし、安定供給を確保する。
天候不順や気象災害がもたらす影響は、これだけではない。日照不足や長雨だとレタスが小玉になったり、水浸しで腐ったりする。商品価値のある野菜はますます品薄になる。こうした場合に、農家との長年の信頼関係がものをいう。
レタスで表彰された熊本県玉名市の北部農園は「これからもサラダクラブをもり立てて頑張っていきたい」と話す。農家にとっても契約取引は、安定した収入を確保できることにつながり、規模拡大や設備投資の判断が容易になる。“豊作貧乏”で野菜の買い取り価格が暴落していたら、落ち着いた機械投資などできない。
表彰は使用量の多いキャベツ、レタス、ロメインレタス、サニーレタス、グリーンリーフレタスの5種が対象。加工する工場の評価で品位を算出し、高得点を得た産地や農業法人を表彰する。
農林水産省も農家に、収入安定につながる加工・業務用野菜への作付け転換を促している。土壌改良やマルチ資材の購入費用などを援助する「加工・業務用野菜生産基盤強化事業」で後押しする。
働く女性増加や高齢化で、必要な量を手軽に使えるカット野菜の需要は今後も増える見通し。供給能力の重要性は高まるばかりだ。
(文=嶋田歩)
2017/4/25
竹増貞信社長は「グリーンスムージーなどと組み合わせるなど、健康を意識した買い合わせも多い」と説明する。共働き家庭の増加などで、コンビニエンスストアのサラダ需要は伸びている。
一部店舗で陳列スペースを拡大したところ、サラダの売上高は従来比5割増になったという。販売拡大に向け、工場では仕分けロボットを導入するなど、生産の効率化も進める。
日刊工業新聞2017年5月17日
「若手を育てなければ、調達できる野菜がなくなる」
ローソンが農業分野に力を入れている。このほど岩手県八幡平市で、地熱温水を使ったビニールハウスで栽培したピーマンの出荷を始めた。当面は近郊の店舗のみだが、4―5月には関東の一部店舗でも販売する予定だ。同社は全国に農業法人「ローソンファーム」の設立も進めており、農業者減少や高齢化が進む中、地方創生と農作物の安定調達の両立を目指して事業の確立に取り組んでいる。
「クリーンエネルギーの活用とともに、地方創生を目指したい」。前田淳ローソン執行役員は事業の狙いをこう説明する。市内の地熱発電所が供給した温水をビニールハウスに引き、ピーマンを周年で生産する計画だ。栽培は八幡平市で馬ふん由来の堆肥を使った農業に取り組んでいる企業組合が担っている。
八幡平市は1月の平均気温がマイナス3度Cの寒冷地で、積雪量も多い。約30年前に地熱温水を使ったビニールハウスで花卉(かき)などの栽培が始まったが、後継者不足や販路確保が難しくなり、農作放棄状態のビニールハウスが増えていた。
ピーマンの栽培にあたり、市が約1100万円を負担してビニールハウスを改装した。温水のコストは重油の5分の1以下で、二酸化炭素(CO2)の排出量も抑えられる。
田村正彦市長は「ローソンの商品開発力や販売力と組み合わせることで、地熱発電の素晴らしさを全国に発信したい」と期待する。
ローソンは20代、30代の若手農業者との共同出資で農業生産法人「ローソンファーム」を全国に設立し、収穫したキャベツやコメなどを店舗で販売している。
現在のローソンファームの数は23で、八幡平を含め、2017年2月期中に30カ所で稼働予定だ。前田執行役員は「『農業をやっている』と旗揚げする小売りは見受けられるが、簡単ではない。当社は相当なコストを割いており、東日本大震災や台風などの天災と向き合い、失敗もしている」と難しさを語る。
それでも取り組むのは、農業者の減少で「若手を育てなければ、調達できる野菜がなくなる」(前田執行役員)との危機感がある。
同社はスーパーマーケットの代替ニーズや健康への関心をつかむため、生鮮や総菜を強化する方針だ。ローソンファームで収穫した農産物は土壌に配慮して栽培し、生産履歴を管理している点を訴求している。規格外品は総菜などに加工して販売できる、コンビニの強みも生かす。
小売業界では各社が農業分野への取り組みを加速。イオン傘下のイオンアグリ創造(千葉市美浜区)は全国20カ所で農場を運営し、4月には徳島県阿波市で四国初の直営農場を開く。セブン&アイ・ホールディングス(HD)は販売期限切れなどの野菜を堆肥にして野菜を育てる、「循環型農業」を進めている。
(文=江上佑美子)
※内容、肩書は当時のもの
日刊工業新聞2016年3月9日
サラダクラブも農家支援
カット野菜やパッケージングサラダの国内最大手、サラダクラブ(東京都調布市、萩芳彰社長)が、契約農家と信頼関係を築く取り組みに力を入れている。その一つとして、複数の契約農家を「優良契約産地」として表彰している。年間を通じて一定価格を強みとするカット野菜は、原料の供給が生命線。台風や猛暑などで産地が打撃を受ければ、スーパーなどで欠品や品薄の事態を招き、取引関係を見直されかねない。同社の取り組みは、業務用野菜を手がける同業他社にも参考になりそうだ。
「昨年10月、気象災害で野菜相場が高騰したときも、(契約農家の)皆さんの協力で切り抜けられた」。このほどサラダクラブが都内で開いた優良契約産地の表彰式の席上、萩社長は契約農家への感謝の気持ちをこう強調した。
スーパーとの懇談会で「『御社は欠品しないですごいね』と口々に言われた」ことも披露。「ひとえに皆さんのおかげだ」と、絶賛した。
実際、2016年は地震や台風、記録的な大雨が頻発。それだけに、同社が欠品や品薄を起こさなかったことを評価する声は多い。
同社の原料に欠かせないキャベツやレタスなどの葉物野菜は、長雨や猛暑などの天候状態によって、相場が大きく変動する。スーパー店頭で1個の値段が、80円から400円にはね上がることもざらだ。
価格に敏感な消費者は、こうした相場に左右されにくいカット野菜に注目。カット野菜市場は毎年2ケタ近い高成長が続いている。
サラダクラブが契約する農家の産地は、北は北海道から南は沖縄県まで、全国480カ所に及ぶ。レタスの場合、気候が暖かくなる順に従って沖縄、熊本、香川、長野、群馬、茨城、北海道などと“産地リレー”を組む。年間でレタスの栽培・収穫時期は限られるが、バトンを受け渡すように産地がリレーし、安定供給を確保する。
天候不順や気象災害がもたらす影響は、これだけではない。日照不足や長雨だとレタスが小玉になったり、水浸しで腐ったりする。商品価値のある野菜はますます品薄になる。こうした場合に、農家との長年の信頼関係がものをいう。
レタスで表彰された熊本県玉名市の北部農園は「これからもサラダクラブをもり立てて頑張っていきたい」と話す。農家にとっても契約取引は、安定した収入を確保できることにつながり、規模拡大や設備投資の判断が容易になる。“豊作貧乏”で野菜の買い取り価格が暴落していたら、落ち着いた機械投資などできない。
表彰は使用量の多いキャベツ、レタス、ロメインレタス、サニーレタス、グリーンリーフレタスの5種が対象。加工する工場の評価で品位を算出し、高得点を得た産地や農業法人を表彰する。
農林水産省も農家に、収入安定につながる加工・業務用野菜への作付け転換を促している。土壌改良やマルチ資材の購入費用などを援助する「加工・業務用野菜生産基盤強化事業」で後押しする。
働く女性増加や高齢化で、必要な量を手軽に使えるカット野菜の需要は今後も増える見通し。供給能力の重要性は高まるばかりだ。
(文=嶋田歩)
2017/4/25