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日米連携で特許行政にAI導入

15分野・20業務に絞り込み職員をサポート、費用対効果の見極めも
 特許庁が、特許行政事務に人工知能(AI)を導入する。2022年度までの行動計画(アクションプラン)を策定し、17年度から実証や費用対効果の確認作業を本格化する。審査制度の複雑化や先行調査範囲の拡大など業務量が増加する中、AIを人間のサポート役に位置付け、行政サービスの向上、職員の働き方改革につなげる。3月には米国の知財庁と緊密に連携することで合意、日米連携で世界の特許行政へのAI活用を主導する構えだ。

 業務へのAI導入はややもすると、人間の仕事が奪われるとのアレルギー反応が出がちだ。16年度から検討に入った特許庁も例外ではなく、「内部で相当激しい議論を交わした」(特許庁の木村聡総務課長)という。

 ただ、90年代以降、特許行政における情報システム化の流れは加速しており、今では特許や商標、意匠のオンライン出願は9割を超える。草創期を乗り切ってしまえば自然と浸透するだろう。
                   

 AI導入の実行計画策定に当たり、各部署に不公平感が出ないように特許行政全業務を棚卸しして、892業務に仕分けた。そこから思考や判断が不要な業務や、通常のシステム化で対応できる業務などを除外。

 さらに産業技術総合研究所の支援を得ながら、業務負荷と業務頻度、職員の精神的な負荷の3点を評価指標に、15分野・20業務に絞り込み、AI技術の導入可否を検討することを決めた。そして16年12月、AIの活用可能性が高い業務として電話応答システムでの実証を始動した。

 特許庁全体の電話応答数は、年間約30万件。現状は各課の窓口担当者が問い合わせを受け、不明な点があればマニュアルやデータベース(DB)の参照、ベテラン職員に質問するなどその都度、業務中断が発生している。

 そこで過去の質問応答をAIに学習させ、模範回答案を一覧として提示させるシステムを構築。上位5位までに提示される回答案に正答が含まれる割合で8割を達成した。

 AIを業務のサポート役と位置づければ業務効率化への貢献は小さくない。今後、AIが学習を重ねるほどに10割に近づく公算も大きい。

 特許庁の木村総務課長は「AIをスマートに使いこなし、ユーザーニーズをタイムリーに満たす質の高い審査体制を構築できれば、確実に行政サービスの向上につながる」と手応えを語る。

 他方、AI導入には、複数年にわたる検討が必要になる。最新技術や市場動向に精通した専門家の知見が欠かせない。特許庁は今後、実証や試行導入の優先順位付けなど客観的に評価するため、AI専門家や行政専門家、業務改善専門家などの有識者を集めた「タスクフォース」を組織し、アクションプランの事後点検を確実に実施していく。
         

 特許行政業務へのAI技術適用については国際調和も重要だ。特許庁は、国際会議などにおける長官のバイ(2国間)会談や事務方の意見交換を通じて取り組み状況を確認する。現状、米国と豪州は比較的前向きで、定期的な情報交換、協力を進める方向だ。

 まずは5月末に予定される5大特許庁長官会合などの機会をとらえ、実証成果を発信する。これに先立ち3月末の日米欧三極特許庁長官会合の機会に米国とバイ会談し、両国の連携で合意した。

 特許庁はタスクフォースとは別に、近くAI導入の進捗(しんちょく)管理などを行う組織横断のプロジェクトチームを立ち上げ、ここでの結果を米国チームと共有していく。
          

(文=鈴木真央)
日刊工業新聞2017年5月3日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
今後、特許庁に限らず、行政業務へのAI適用はますます進むだろう。ただ、拙速に導入すれば現場に混乱を招きかねない。費用対効果も見極め、時間をかけて行政サービス向上につながる道筋を見つけることが必要だ。 (日刊工業新聞経済部・鈴木真央)

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