「キリュウ・シティ」に住む少女がSOS、地方都市が街探索で活性化

IoTサービスで観光案内、地域課題とも向き合う

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「キリュウ・シティ」公式ページより
 ゴールデンウイークを迎え、全国の行楽地に出かける人も多いだろう。地方自治体では観光客の誘致に向け、スマートフォンやセンサーなどを用いたIoT(モノのインターネット)サービスを提供する動きが広がっている。群馬県桐生市や青森県八戸市などは情報通信技術(ICT)を活用して地域の観光スポットを楽しみながら回遊する仕組みを構築しており、誘客につなげる考えだ。また観光促進のみならず、街全体の活性化に結び付け、人口減少や高齢化といった地域課題の解決を目指している。

スマホゲーム活用、楽しみながら回遊


 群馬県桐生市。JR桐生駅を中心とした市街地の約100カ所にセンサーが設置されている。スマホで専用のアプリケーション(応用ソフト)を稼働しながらセンサーの前を通るとスマホに指令が届き、物語が進行する。

 全地球測位システム(GPS)とIoTを活用した街探索型ゲームで2017年1月に提供を始めた。現在はリニューアル作業中で、近く再開する予定だ。

 桐生市は人口減少が進んでおり、地域経済の活性化が大きな課題になっている。一方で市内の一部は「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されており、高齢者の観光スポットになっている。若年層を誘客し、にぎわいを一段と創出するため、ゲームを楽しみながら観光スポットや商店街を回遊できる仕組みを構築した。

 ゲームは桐生市が地元ベンチャーなどと共同で開発した。ゲーム開発を主導したニュートロンスター(桐生市)の殿岡康永代表取締役は「生まれ育った地元の商店街がさびれていく姿を帰郷するたびに見ていた。いつか(にぎわいの創出に)貢献したいと考えていた」と力を込める。

 ゲームは100年後の「キリュウ・シティ」に住む少女のSOSを受け、未来の街を救うSF風の物語。「若年層を意識しつつ、話題性を狙ってエッジの立ったストーリーにした」(殿岡ニュートロンスター代表取締役)という。

 アプリの取得数は1―3月で約1000件に上った。桐生市産業政策課は「今後暖かい時期に提供すれば、さらに多く誘客できる」と期待する。また、市街地のセンサー網は今後の街づくりにも生かす考え。子どもの見守りシステムなどでの活用を見込んでいる。

音声ナビでサイクリング


ナビチャリ活用のイメージ(フォルテ提供)

 青森県八戸市。一方、地方都市において観光スポットの回遊を促す手段としてレンタサイクルを導入する自治体は多い。そこにもIoT技術が使われ始めている。

 青森県八戸市は13年から種差海岸で、GPSと連動した音声ナビゲーションシステム「ナビチャリ」を搭載した自転車の貸し出しを始めた。利用者は骨伝導イヤホンを装着し、道案内を聞きながらサイクリングできる。17年度は5月から計10台を貸し出す。

 八戸市は、種差海岸が東日本大震災からの復興や被害の伝承を目的とした「三陸復興国立公園」に指定されたことを受け、同海岸の観光促進を強化。その一環としてナビチャリを導入した。

 八戸市観光課は「(ナビチャリの)利用者は関東圏からの観光客が6―7割を占める。観光促進ツールとして役立っている」と手応えを語る。

 ナビチャリは地元ベンチャーのフォルテ(青森市)が開発した。すでに静岡県伊東市や佐賀県鹿島市、大分県玖珠町などでも利用されている。

 また、多言語に対応しており、15年に経済産業省関東経済産業局がまとめた「東京五輪・パラリンピック活用地域活性化戦略プラン」にその活用が盛り込まれた。フォルテは「訪日外国人需要の拡大を目指す地方都市などでの導入を促したい」と意気込む。

ニフティは温泉地を支援


温浴施設内の混雑状況を可視化し、利用者の利便性を高めている(ニフティ)

 日頃の疲れを癒やす温泉は人気の高い観光スポット。ニフティは温泉施設でIoTを活用したサービスを提供する。浴場や食事処といった施設の主要箇所にカメラを設置し、利用者の混雑状況を可視化して表示。利用者は混雑を避けながら快適に楽しめる。個人が識別できる情報は取得せず、浴室にカメラを設置しないなど、プライバシーを配慮して実施している。

 第1弾として埼玉県杉戸町の温泉施設「杉戸天然温泉 雅楽の湯」に導入した。来館者はスマホで浴場や食事処、岩盤浴の混雑具合を把握できる。

 例えば、空いている風呂に行ってから食事をするといった選択ができる。一方、施設の運営会社は混雑状況を従業員全体で共有できるため、サービスの改善につながる。

 ニフティの広田朋美部長代理は「来館者には、混雑しても工夫すれば良いサービスが受けられることを理解してもらっている。サービスの満足度が平準化され、かつ底上げされた」と、その導入効果を指摘する。

 今後はさいたま市の温泉施設「美楽温泉 SPA HERBS(スパハーブス)」でも運用を始める予定。日帰り温泉のみならず、宿泊施設を含め全国の温泉地にも提案していく。

 IoTの活用は観光促進による地域の活性化に加え、消費者の利便性や業務の効率化を高めるツールとして寄与している。

日刊工業新聞2017年5月4日

COMMENT

 通信事業者も観光シーズンに向け、さまざまなサービスを投入している。行楽地に車で出かける人が多いことから、NTTドコモやゼンリンなどは長距離ドライブをより快適に楽しめるよう、車載器向けの音声サービスの提供を始めた。ドライバーが話す内容を理解し、運転中の操作を音声で対応できる。目的地を検索する入力作業は不要だ。また対話履歴からドライバーの行動を予測し、ルート上の渋滞情報を通知して渋滞を回避するルートを提示したりする。  さらに会員制交流サイト(SNS)とも連携。例えば、千葉の房総半島にドライブに行くと、花のイベントや漁港祭りといった地元の情報をSNSから抽出して通知する。目的地での行動が決まっていなくても時間を持て余すことなく、有効に使える。  NTTドコモIoTビジネス部の新田和正課長は今後の機能拡充について「画像を取り入れたり、対話の中からドライバーの感情を分析したりするなど、よりドライバーに寄り添うサービスにしていく」と話す。 (日刊工業新聞第一産業部・清水耕一郎)

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