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ルネサス“脱・官民ファンド”へ着々。東芝問題も影響?

13年以来の大幅な組織改革。グローバルに照準
ルネサス“脱・官民ファンド”へ着々。東芝問題も影響?

ルネサスの呉社長(左)と日産時代の上司にあたる革新機構の志賀CEO

 7割を出資する官民ファンド、産業革新機構が保有する半導体大手ルネサスエレクトロニクスの株式の一部を売却することが分かった。ルネサスは17年3月期の純損益が3年連続の黒字になる見通しで、経営再建がほぼ完了したと判断。革新機構は5月にも株式売却で保有比率を5割程度に引き下げ、関与を薄める方向だ。一方、同機構は、米ウエスタンデジタル(WD)や日本政策投資銀行とともに東芝が売却手続きを進めているメモリー事業の入札参加に意欲を示している。ルネサス株を20%弱を売却することで、3400億円程度の資金が得られるほか、再生への実績にもなる。

 ルネサスは昨年6月に元カルソニックカンセイ社長や日本電産副社長などを務めた呉文精氏を社長兼最高経営責任者(CEO)で招聘。成長フェーズへの切り替えを進めていた。呉氏の前任のCEOが就任半年で辞任。経営陣と革新機構で路線対立もあったとされる。依然、革新機構の影響力は残るものの、今後はルネサス主導で株式の「出口」と成長戦略を見出していくことになる。

 すでに社内組織では布石を打った。4月に大幅な機構改革を断行。従来、事業本部は自動車向けとそれ以外の二つのみだったが、より細かく顧客層を分類して三つにした。また同本部の権限を強化し日本の本社に縛られずに意思決定できるようにする。米インターシルの買収完了を契機に攻略市場の明確化と組織の融合を進め、日本を中心とした事業運営から脱却するのが狙いだ。「ワン・グローバル・ルネサス」をキーワードに、成長路線に乗るための基盤を固める。

 「インターシルとの相乗効果により、グローバルで勝ち抜ける営業利益率を達成する」―。ルネサスの呉社長は、20年に営業利益率20%以上という目標値を設定した。今回の機構改革は、それを実現するための布石だ。

 変化のスピードが速く大型の買収劇も相次ぐ半導体市場では、意思決定の速さが勝敗を喫する。そこで国や地域など場所を問わずに事業本部の機能を置き、日本の本社に縛られずに迅速に意思決定できる体制を敷く。「ビジネスを進める際に(本社が)障害とならない組織」(呉社長)が理想だ。

 まず4月1日付で自動車向けを担当する第一ソリューション事業本部を「オートモーティブソリューション事業本部」に変更。非車載半導体を扱う第二ソリューション事業本部については、産業機器や家電、IoT(モノのインターネット)などを担う「インダストリアルソリューション事業本部」と、それ以外の「ブロードベースドソリューション事業本部」に分割した。

 ブロードベースドソリューション事業本部には米インターシルの大半の部隊が入る。アナログ半導体製品の豊富なラインアップを強みに、中小企業など攻略できていなかった層の取り込みを図る。インターシルの社名変更やブランドの統合は今後検討する。

 事業別の責任も一段と明確化する。7月1日には三つの事業本部にそれぞれ販売とマーケティング部門を移管。設計開発から販売まで一貫して統括する体制を整える。加えて、サプライチェーンを統括する「サプライチェーンマネジメント本部」も新設する。各事業本部に分散していた生産戦略や資材調達などの機能を集約し、生産から調達までの戦略を一本化する。

 前回、大きな機構改革を実施したのは、産業革新機構からの出資を受け入れた13年だ。この時は製品別の事業体制から用途別の体制に移行した。今回はさらに踏み込み、グローバルで戦う体制を敷いた。

 呉社長が自ら決定した大型施策になるだけに成果が問われる。新体制で、その手腕をどう発揮していくのか。“呉流・ルネサス”がいよいよ動きだす。

革新機構はWDと組み東芝メモリーの入札に参加か


 一方、東芝の半導体メモリー事業の売却の行方については、さまざまな動きが出てきている。革新機構の志賀俊之会長は先日の会見で、半導体メモリーの新会社「東芝メモリ」への資本参加について、現時点で入札に参加していないものの「これだけ大きな案件であり当然、投資ファンドとして注目している」と語った。投資検討の正式なステージには至っていないと前置きしつつ「公開情報に基づき、社内でチームをつくって勉強している」(志賀会長)ことを明らかにした。

 投資に当たっては、成長性、革新性、社会的意義など産業競争力強化法に基づく投資評価基準を満たすかが「最初のハードル」(同)になる。入札に参加する場合は「単独ではできない」(同)と、他企業と組む考えを示した。経済界の反発などで議論は停滞しているが、日本企業を巻き込み、米国勢と2次入札に乗り出す可能性も否定できない。

 同機構は近く、経営トップ直轄の「グローバル産業再編プログラム」を立ち上げ、組織的に案件創出を図る仕組み作りに乗り出す。電機業界とは明言しなかったが、現状「仮説として10業種」(勝又幹英革新機構社長)程度が産業再編の対象になっているという。
日刊工業新聞2017年3月9日の記事に加筆
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
もともとルネサスについて革新機構は出口戦略を探っていたが、タイミングがタイミングだけに意図を感じずにはいられない。個人的には東芝メモリーはブロードコムで決まりかと思っていあたが、現状はWDと革新機構、政投銀の日米連合が浮上しつつある。

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