“ナノカー”国際耐久レース、参戦する物材機構をトヨタが支援する理由
ナノの世界でもモータリゼーションが起きるかもしれない
大きさ2ナノメートル(ナノは10億分の1)の電気自動車(EV)が36時間の耐久レースに挑戦―。28日からフランス国立科学研究センター(CNRS)で世界初の国際大会「ナノカーレース」が開かれる。ナノカーは2016年のノーベル化学賞に選ばれたテーマだ。ただ社会で役に立つにはまだまだ道のりは遠い。国際レースの開催で研究の活性化を狙う。日本からは物質・材料研究機構が参戦。トヨタ自動車がスポンサーとして協力する。
ナノカーは化学合成した有機分子だ。金基板表面のうねりをコースとして利用し、100ナノメートルを走るタイムを競う。駆動力は走査型トンネル顕微鏡(STM)の針先から照射される電気パルス。ナノカーを電子で励起して車輪を回したり、分子を変形させたりして前進する。分子設計とSTMでの電子注入の技術が勝敗を分ける。
ナノカーレースには6カ国6チームが参戦する。物材機構はチョウのような構造の分子を合成した。電子を注入すると羽根を羽ばたかせるように動き、金表面でジタバタしながら前進する。
チョウ型分子の強みは左右対称で表裏もない点だ。ナノカーが横転して反転したとしても同じ体勢になる。チームリーダーを務める物材機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)の中西和嘉(わか)MANA研究者は、「STMで電子注入の場所をうまく選べば前進し続けられる」と説明する。
対して6チーム中3チームは四つの車輪をもつ分子を採用した。4輪を回転させ、推進力とする設計だ。ただナノカーにとって金表面の凹凸は大きい。
ナノカーの大きさは1ナノ―3ナノメートル程度だが、金原子一つの直径は0・29ナノメートル。大きさ3メートルの車に対して15センチ―30センチメートルの段差を乗り越えながら進むことになる。中西研究者は、「ナノの世界でも4輪が最適なのか勝負したい」と意気込む。
レースはF1のようにタイムを競う戦いではなく、完走を目指す耐久レースになりそうだ。STMからの電子エネルギーが大きすぎるとナノカーが壊れたり、どこかに弾け飛んでしまったりすることもある。
初めての国際大会だけに100ナノメートルを何チームが完走できるかわからない。これは1895年にフランスで世界初の自動車レースが開かれた当時と似ている。1200キロメートルのコースに対し、22台が参加し完走は6台だった。
ナノカーは基礎研究だからこそ、国際大会というスタイルが有効に働く。MANAの有賀克彦主任研究者は、「大会に向けて各チームがいろんなアプローチを試し、大会が終わればそのノウハウを交換する。大型共同研究のように研究が活性化する」と説明する。
自動車メーカーも応援する。フランスチームには仏プジョーシトロエン、ドイツチームには独フォルクスワーゲンがスポンサーについた。
物材機構にはトヨタが研究費などを支援する。中山知信MANA副拠点長は「企業が基礎研究を応援するのは珍しい。大会を機に研究者が増え、研究の輪が広がるだろう」と期待する。ナノの世界でもモータリゼーションが起きるかもしれない。
(文=小寺貴之)
100ナノメートルを走る
ナノカーは化学合成した有機分子だ。金基板表面のうねりをコースとして利用し、100ナノメートルを走るタイムを競う。駆動力は走査型トンネル顕微鏡(STM)の針先から照射される電気パルス。ナノカーを電子で励起して車輪を回したり、分子を変形させたりして前進する。分子設計とSTMでの電子注入の技術が勝敗を分ける。
ナノカーレースには6カ国6チームが参戦する。物材機構はチョウのような構造の分子を合成した。電子を注入すると羽根を羽ばたかせるように動き、金表面でジタバタしながら前進する。
チョウ型分子の強みは左右対称で表裏もない点だ。ナノカーが横転して反転したとしても同じ体勢になる。チームリーダーを務める物材機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)の中西和嘉(わか)MANA研究者は、「STMで電子注入の場所をうまく選べば前進し続けられる」と説明する。
4輪が最適?
対して6チーム中3チームは四つの車輪をもつ分子を採用した。4輪を回転させ、推進力とする設計だ。ただナノカーにとって金表面の凹凸は大きい。
ナノカーの大きさは1ナノ―3ナノメートル程度だが、金原子一つの直径は0・29ナノメートル。大きさ3メートルの車に対して15センチ―30センチメートルの段差を乗り越えながら進むことになる。中西研究者は、「ナノの世界でも4輪が最適なのか勝負したい」と意気込む。
レースはF1のようにタイムを競う戦いではなく、完走を目指す耐久レースになりそうだ。STMからの電子エネルギーが大きすぎるとナノカーが壊れたり、どこかに弾け飛んでしまったりすることもある。
初めての国際大会だけに100ナノメートルを何チームが完走できるかわからない。これは1895年にフランスで世界初の自動車レースが開かれた当時と似ている。1200キロメートルのコースに対し、22台が参加し完走は6台だった。
研究者が増え、研究の輪が広がる
ナノカーは基礎研究だからこそ、国際大会というスタイルが有効に働く。MANAの有賀克彦主任研究者は、「大会に向けて各チームがいろんなアプローチを試し、大会が終わればそのノウハウを交換する。大型共同研究のように研究が活性化する」と説明する。
自動車メーカーも応援する。フランスチームには仏プジョーシトロエン、ドイツチームには独フォルクスワーゲンがスポンサーについた。
物材機構にはトヨタが研究費などを支援する。中山知信MANA副拠点長は「企業が基礎研究を応援するのは珍しい。大会を機に研究者が増え、研究の輪が広がるだろう」と期待する。ナノの世界でもモータリゼーションが起きるかもしれない。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞科学2017年4月13日