全国で活発化、「ヒト」「カネ」呼び込む地域商社
地域資源を活用したビジネスに注目が集まる中、地域産品などの市場開拓を後押しする「地域商社」事業が活発化している。同事業に取り組む企業が増え、生産者の課題解決やネットワーク構築支援などをテコに域外から「ヒト」や「カネ」を呼び込む効果を引き出している。先駆者として取り組みを進めている3社を通じて、地域商社の現状に迫る。
ファーマーズ・フォレスト(栃木県宇都宮市)は、「道の駅うつのみやろまんちっく村」の運営などさまざまな事業を手がけている。その一つが農産品などを「栃木ブランド」として売り込む取り組みだ。
一口に「地域商社」といっても、地域資源の発掘や商品開発など事業の内容は多岐にわたる。同社の特徴は、観光や農産物など地域資源を「オールインワンで手がける」(松本謙社長)総合力にある。
中核拠点は、道の駅うつのみやろまんちっく村。ただ「ハコものだけでは魅力に乏しい」(同)と、プロデューサーの視点を生かした事業を展開する。例えば道の駅うつのみやろまんちっく村には、農産物の直売所や飲食店などのほか、宿泊施設を整備。滞在型施設として域外から人を呼び込んでいる。
地域外での販売戦略にも力を注ぐ。栃木の食や体験をまとめた冊子「トチギフト」を2009年に発刊。松本社長は「単なる通販雑誌ではない。栃木ブランドを売り込むメディアやプラットフォーム」と強調する。
16年には沖縄県うるま市に支店を設置。栃木と沖縄で収穫時期が異なる野菜を相互に補完販売する新たな試みにも着手し、地域商社事業の可能性を広げている。
クロスエイジ(福岡県春日市)は、九州の農産物のブランド化や販路開拓支援などで地域商社の機能を担っている。藤野直人社長が、「1次産業の魅力向上に貢献し、社会的課題の解決につなげたい」との思いで05年に設立した。
農業分野では、生産者の高齢化が進む一方、就農する若者が少ない。産業として活性化させるには収益性の向上が欠かせない。
同社が提唱するコンセプトが「中規模流通」。大量生産した均一の農産物を販売する大規模流通や、地産地消を目的とする小規模流通ではなく、生産者から仕入れた適量の農産物を外食産業やスーパーなどへ届ける仕組みだ。
「我々は農業の総合プロデュース集団」(藤野社長)と話すように、法人化や補助金獲得、事業計画の作成などあらゆる面で生産者に助言を行い、収益力の高い「スター農家」の輩出を後押しする。
事業拡大に向けた目下の課題は、プロデューサーとなる人材の確保・育成。数年後の株式公開を目標に掲げるのも、知名度の向上によって人材の獲得効果につなげるため。
生産者と二人三脚で農業の産業化を推し進めつつ、稼ぐ力があるプロデューサーの育成に力を注いでいく方針だ。
萌す(沖縄県糸満市)は、沖縄の海産物などをアジア向けに販売する地域商社だ。シンガポールや台湾、タイなどアジアの各国・地域に販売する。
同社の創業は15年。別会社で観光案内業務を手がけていた後藤大輔社長が、色彩豊かで美しく水族館での鑑賞用としてのイメージが強い沖縄の魚に着目し、商材として売り込もうと考えたのがきっかけだ。アジアに商機を見いだしたのは、日本の居酒屋文化が紹介され、刺し身への関心度が高まっているため。「焼き魚ではなく刺し身として提供することが、アジアでは大きなインパクトになると考えた」(後藤社長)。
那覇空港のハブ機能を活用して現地の事業者と直接取引を推進する。「飛行機で早朝に出発し、現地でランチとして提供する」(同)ことも可能だ。日本への関心度の高まりと相まって、需要が順調に伸びている。今後は2、3年かけて販路を広げつつ、沖縄県内での加工場の設置も計画する。
外部との連携にも力を注ぐ。観光情報提供事業などを手がける角川アップリンク(那覇市)と提携。同グループの情報や拠点網を活用し、地域性や流行に合わせた商品の販売を計画するなど、業容拡大に余念がない。
【「地域商社」とは?/地元の魅力発掘、高収益化】
地域商社とは、地域の魅力的な商品やサービスについて、販路開拓などに取り組む事業者。地方創生の流れに沿って全国各地で活動が活発化している。
農産物をはじめとする地域資源は各地にあるものの、生産者や地元の人たちほどその魅力に気づいていないケースが多い。地域商社は、外部の視点を生かすことにより地域産品の新たな価値を見いだし、収益性を高めた商品として売り込む役割を担う。
地域商社の創出を後押ししている内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局では現在、地域商社の機能を担っている事業者は全国で10―20程度と推定。将来は100事業者程度まで増やす目標を掲げている。
市場開拓に向けては、農産物の生産者のような川上の立場の人たちにはアイデアやノウハウが乏しいとの指摘がある。ただ内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の村上敬亮内閣参事官は「こうした出口戦略の部分を補えば、収益拡大が見込める地域資源が数多い」と強調する。各地で成功事例を増やすことが、今後の大きなテーマとなりそうだ。
(文=古谷一樹)
ファーマーズフォレスト/「栃木」のブランド化推進
ファーマーズ・フォレスト(栃木県宇都宮市)は、「道の駅うつのみやろまんちっく村」の運営などさまざまな事業を手がけている。その一つが農産品などを「栃木ブランド」として売り込む取り組みだ。
一口に「地域商社」といっても、地域資源の発掘や商品開発など事業の内容は多岐にわたる。同社の特徴は、観光や農産物など地域資源を「オールインワンで手がける」(松本謙社長)総合力にある。
中核拠点は、道の駅うつのみやろまんちっく村。ただ「ハコものだけでは魅力に乏しい」(同)と、プロデューサーの視点を生かした事業を展開する。例えば道の駅うつのみやろまんちっく村には、農産物の直売所や飲食店などのほか、宿泊施設を整備。滞在型施設として域外から人を呼び込んでいる。
地域外での販売戦略にも力を注ぐ。栃木の食や体験をまとめた冊子「トチギフト」を2009年に発刊。松本社長は「単なる通販雑誌ではない。栃木ブランドを売り込むメディアやプラットフォーム」と強調する。
16年には沖縄県うるま市に支店を設置。栃木と沖縄で収穫時期が異なる野菜を相互に補完販売する新たな試みにも着手し、地域商社事業の可能性を広げている。
クロスエイジ/「スター農家」プロデュース
クロスエイジ(福岡県春日市)は、九州の農産物のブランド化や販路開拓支援などで地域商社の機能を担っている。藤野直人社長が、「1次産業の魅力向上に貢献し、社会的課題の解決につなげたい」との思いで05年に設立した。
農業分野では、生産者の高齢化が進む一方、就農する若者が少ない。産業として活性化させるには収益性の向上が欠かせない。
同社が提唱するコンセプトが「中規模流通」。大量生産した均一の農産物を販売する大規模流通や、地産地消を目的とする小規模流通ではなく、生産者から仕入れた適量の農産物を外食産業やスーパーなどへ届ける仕組みだ。
「我々は農業の総合プロデュース集団」(藤野社長)と話すように、法人化や補助金獲得、事業計画の作成などあらゆる面で生産者に助言を行い、収益力の高い「スター農家」の輩出を後押しする。
事業拡大に向けた目下の課題は、プロデューサーとなる人材の確保・育成。数年後の株式公開を目標に掲げるのも、知名度の向上によって人材の獲得効果につなげるため。
生産者と二人三脚で農業の産業化を推し進めつつ、稼ぐ力があるプロデューサーの育成に力を注いでいく方針だ。
萌す/沖縄の海産物を海外展開
萌す(沖縄県糸満市)は、沖縄の海産物などをアジア向けに販売する地域商社だ。シンガポールや台湾、タイなどアジアの各国・地域に販売する。
同社の創業は15年。別会社で観光案内業務を手がけていた後藤大輔社長が、色彩豊かで美しく水族館での鑑賞用としてのイメージが強い沖縄の魚に着目し、商材として売り込もうと考えたのがきっかけだ。アジアに商機を見いだしたのは、日本の居酒屋文化が紹介され、刺し身への関心度が高まっているため。「焼き魚ではなく刺し身として提供することが、アジアでは大きなインパクトになると考えた」(後藤社長)。
那覇空港のハブ機能を活用して現地の事業者と直接取引を推進する。「飛行機で早朝に出発し、現地でランチとして提供する」(同)ことも可能だ。日本への関心度の高まりと相まって、需要が順調に伸びている。今後は2、3年かけて販路を広げつつ、沖縄県内での加工場の設置も計画する。
外部との連携にも力を注ぐ。観光情報提供事業などを手がける角川アップリンク(那覇市)と提携。同グループの情報や拠点網を活用し、地域性や流行に合わせた商品の販売を計画するなど、業容拡大に余念がない。
【「地域商社」とは?/地元の魅力発掘、高収益化】
地域商社とは、地域の魅力的な商品やサービスについて、販路開拓などに取り組む事業者。地方創生の流れに沿って全国各地で活動が活発化している。
農産物をはじめとする地域資源は各地にあるものの、生産者や地元の人たちほどその魅力に気づいていないケースが多い。地域商社は、外部の視点を生かすことにより地域産品の新たな価値を見いだし、収益性を高めた商品として売り込む役割を担う。
地域商社の創出を後押ししている内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局では現在、地域商社の機能を担っている事業者は全国で10―20程度と推定。将来は100事業者程度まで増やす目標を掲げている。
市場開拓に向けては、農産物の生産者のような川上の立場の人たちにはアイデアやノウハウが乏しいとの指摘がある。ただ内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の村上敬亮内閣参事官は「こうした出口戦略の部分を補えば、収益拡大が見込める地域資源が数多い」と強調する。各地で成功事例を増やすことが、今後の大きなテーマとなりそうだ。
(文=古谷一樹)
日刊工業新聞2017年4月3日