リニア最難関工事へJR東海、最大規模の設備投資
「未来に向けて新たなスタートを切る年に」(柘植社長)
JR東海は23日、2017年度の設備投資計画を発表した。リニア中央新幹線(写真)の建設や東海道新幹線の安全対策などを中心に、前年度比8・0%増の4570億円を投じる。リニア中央新幹線の建設や東海道新幹線の土木構造物の大規模改修工事などにより、設備投資額は87年のJR東海発足以来、最大規模となる。
リニア中央新幹線関連では南アルプストンネルや品川駅、名古屋駅を中心に沿線で準備が整ったところから、トンネルの掘削工事や地中連続壁工事などに本格的に着手する。リニア中央新幹線建設関連の設備投資額は1590億円となる。超電導リニア技術の開発による営業線建設、運営・メンテナンスコスト低減にも50億円を投じる。
安全・安定輸送の確保では、東海道新幹線・在来線合わせて1430億円を投資する。東海道新幹線は大規模改修に370億円を投じるほか、地震などに備えた脱線防止ガードの敷設を進める。
輸送サービスを充実するため最新車両「N700A」の投入などにも470億円を投資する。柘植康英社長は「未来に向けて新たなスタートを切る年にしたい」と述べた。
リニア中央新幹線のトンネル掘削工事が、いよいよ始まる。中でも全長25キロメートルにおよぶ「南アルプストンネル」は1400メートルもの「土かぶり」や湧水など、課題が多い。JR東海や大手ゼネコン各社は、本格的な掘削工事の着手を前に、技術開発などの準備を進めてきた。リニア中央新幹線には、日本のトンネル掘削などの最新技術が結集する。
南アルプストンネルは、山梨県、静岡県、長野県の3県にまたがっており、すでに山梨と長野の工区は大手ゼネコンを中心としたJVとの契約を終えた。山梨工区では起工式も終了し、本格的な掘削工事の着手が秒読み段階に入っている。
南アルプストンネルの最大の課題は、1400メートルにおよぶ「土かぶり」。土かぶりとは地面から埋設物の上端までの深さを指すもので、これまでで最大の土かぶりは大清水トンネル1300メートル。南アルプストンネルはこれを100メートル上回る。
リニア中央新幹線の工事ではリニアが通る「本坑」を掘削する前に、「先進坑」と呼ばれる作業用トンネルを掘る。柴田洋三JR東海中央新幹線建設部土木工事部長は、「地質は実際に掘ってみないと分からないところがある。先進坑を掘って地質を確認しながら、本坑を掘っていく」と話す。先進ボーリングで地山の強度などを把握し、トンネルの覆工なども決めていく。
先進ボーリングは、トンネルと平行に「水平ボーリング」を実施し、地質調査を行う。この規模の土かぶりで継続的に水平ボーリングを行うのは世界でも初めて。
水平ボーリングは長い距離を狙った方向に掘削するところに、その難しさがある。南アルプストンネルの工事では、1000メートル先の水平ボーリングなども想定し、山梨県内などで数年前から調査坑を掘り、技術の習得を進めてきた。本工事では、これまでの積み上げてきた技術を生かす。
また、南アルプストンネルの掘削工事で課題となっているのが、湧水対策だ。一般的な対策は、湧水を坑外に排水したり地盤改良して湧水を抑えたりするが、この工事では地盤改良剤として薬液を地盤中に注入し、湧水を減少させる「薬液注入工」を実施。
これにより湧水を抑えながら、最寄りの河川に流すことを想定する。柴田部長は「ゼネコンに対し、異常時の対応を提案に盛り込むように要請している」と話す。
さらに、掘削中の突発的な湧水は工事を遅らせ事故を招く恐れがあり、事前調査も欠かせない。その時に有効な技術が鹿島の「スイリモ(水リサーチ・モニター)」。掘削面前方のボーリング調査と同時に湧水圧と湧水量を連続計測し、複数の湧水区間がどこに、どの程度存在しているかを把握できる。
「水抜き孔の必要性や配置、止水対策工事の仕様など、条件に応じた適切な対応が可能になる」(手塚康成土木管理本部・土木工務部トンネルグループ次長)という。
日本の山岳は複雑な地形の上に多様な岩盤が混在し、工事が難しい。南アルプスの山岳トンネル工事では、ゼネコン各社がこれまで磨いてきた最高技術の投入が必要だ。
山岳トンネルの標準的な施工は(1)掘削(2)岩石搬出(3)コンクリート吹きつけ、ロックボルト打ち込み(4)コンクリート打設(覆工コンクリート)。重要なのが施工前に実施する地質調査だ。通常はボーリングを行って地質状況を把握する。詳細な情報を得ることで必要な対策がとれ、安全で円滑に施工できる。
地質調査で威力を発揮する技術に、大成建設の「穿孔(せんこう)振動探査法T―SPD」がある。先進ボーリングマシンが穴を開ける時に生じる小さい振動の弾性波を、トンネル側壁に埋め込んだ受振器で測定。
前方に岩盤が不安定な断層破砕帯がある場合は、位置や規模を把握できる。「トンネル掘削面の前方約500メートルの区間まで評価できる」(谷卓也土木技術研究所地盤・岩盤研究室岩盤チームチームリーダー)という。
掘削時に発生する大量の岩石の搬出については、効率的な処理が求められる。清水建設が提案するのは、高速搬出が可能な「S―マックシステム」。トンネル掘削面の近隣に仮置き場を設置し、重機2台の稼働率をあげて岩石処理を行う。
連続ベルトコンベヤーと組み合わせることで「高速施工を実現し、工期短縮を期待できる」(鈴木正憲土木技術本部機械技術部主査)とし、従来比で33%の時間短縮を見込める。
トンネルの仕上げ段階となる覆工コンクリートの施工では、品質確保が重要だ。大林組の「連続ベルコン通過型テレスコピック式セントル」工法は、覆工コンクリートの品質向上と高速作業を両立する。
二つのアーチ型の型枠を運用し、コンクリートの養生時間を確保しながら打設作業を実施。同時に、掘削面からの岩石搬出も行える。中間祥二生産技術本部トンネル技術部長は「連続ベルトコンベヤーとの組み合わせで実現した」と説明する。
※内容、肩書は当時のもの
リニア中央新幹線関連では南アルプストンネルや品川駅、名古屋駅を中心に沿線で準備が整ったところから、トンネルの掘削工事や地中連続壁工事などに本格的に着手する。リニア中央新幹線建設関連の設備投資額は1590億円となる。超電導リニア技術の開発による営業線建設、運営・メンテナンスコスト低減にも50億円を投じる。
安全・安定輸送の確保では、東海道新幹線・在来線合わせて1430億円を投資する。東海道新幹線は大規模改修に370億円を投じるほか、地震などに備えた脱線防止ガードの敷設を進める。
輸送サービスを充実するため最新車両「N700A」の投入などにも470億円を投資する。柘植康英社長は「未来に向けて新たなスタートを切る年にしたい」と述べた。
日刊工業新聞2017年3月24日
トンネル掘削はどうやるの?
リニア中央新幹線のトンネル掘削工事が、いよいよ始まる。中でも全長25キロメートルにおよぶ「南アルプストンネル」は1400メートルもの「土かぶり」や湧水など、課題が多い。JR東海や大手ゼネコン各社は、本格的な掘削工事の着手を前に、技術開発などの準備を進めてきた。リニア中央新幹線には、日本のトンネル掘削などの最新技術が結集する。
南アルプストンネルは、山梨県、静岡県、長野県の3県にまたがっており、すでに山梨と長野の工区は大手ゼネコンを中心としたJVとの契約を終えた。山梨工区では起工式も終了し、本格的な掘削工事の着手が秒読み段階に入っている。
南アルプストンネルの最大の課題は、1400メートルにおよぶ「土かぶり」。土かぶりとは地面から埋設物の上端までの深さを指すもので、これまでで最大の土かぶりは大清水トンネル1300メートル。南アルプストンネルはこれを100メートル上回る。
リニア中央新幹線の工事ではリニアが通る「本坑」を掘削する前に、「先進坑」と呼ばれる作業用トンネルを掘る。柴田洋三JR東海中央新幹線建設部土木工事部長は、「地質は実際に掘ってみないと分からないところがある。先進坑を掘って地質を確認しながら、本坑を掘っていく」と話す。先進ボーリングで地山の強度などを把握し、トンネルの覆工なども決めていく。
先進ボーリングは、トンネルと平行に「水平ボーリング」を実施し、地質調査を行う。この規模の土かぶりで継続的に水平ボーリングを行うのは世界でも初めて。
水平ボーリングは長い距離を狙った方向に掘削するところに、その難しさがある。南アルプストンネルの工事では、1000メートル先の水平ボーリングなども想定し、山梨県内などで数年前から調査坑を掘り、技術の習得を進めてきた。本工事では、これまでの積み上げてきた技術を生かす。
湧水を減少させる「薬液注入工」
また、南アルプストンネルの掘削工事で課題となっているのが、湧水対策だ。一般的な対策は、湧水を坑外に排水したり地盤改良して湧水を抑えたりするが、この工事では地盤改良剤として薬液を地盤中に注入し、湧水を減少させる「薬液注入工」を実施。
これにより湧水を抑えながら、最寄りの河川に流すことを想定する。柴田部長は「ゼネコンに対し、異常時の対応を提案に盛り込むように要請している」と話す。
さらに、掘削中の突発的な湧水は工事を遅らせ事故を招く恐れがあり、事前調査も欠かせない。その時に有効な技術が鹿島の「スイリモ(水リサーチ・モニター)」。掘削面前方のボーリング調査と同時に湧水圧と湧水量を連続計測し、複数の湧水区間がどこに、どの程度存在しているかを把握できる。
「水抜き孔の必要性や配置、止水対策工事の仕様など、条件に応じた適切な対応が可能になる」(手塚康成土木管理本部・土木工務部トンネルグループ次長)という。
多様な岩盤攻略
日本の山岳は複雑な地形の上に多様な岩盤が混在し、工事が難しい。南アルプスの山岳トンネル工事では、ゼネコン各社がこれまで磨いてきた最高技術の投入が必要だ。
山岳トンネルの標準的な施工は(1)掘削(2)岩石搬出(3)コンクリート吹きつけ、ロックボルト打ち込み(4)コンクリート打設(覆工コンクリート)。重要なのが施工前に実施する地質調査だ。通常はボーリングを行って地質状況を把握する。詳細な情報を得ることで必要な対策がとれ、安全で円滑に施工できる。
地質調査で威力を発揮する技術に、大成建設の「穿孔(せんこう)振動探査法T―SPD」がある。先進ボーリングマシンが穴を開ける時に生じる小さい振動の弾性波を、トンネル側壁に埋め込んだ受振器で測定。
前方に岩盤が不安定な断層破砕帯がある場合は、位置や規模を把握できる。「トンネル掘削面の前方約500メートルの区間まで評価できる」(谷卓也土木技術研究所地盤・岩盤研究室岩盤チームチームリーダー)という。
掘削時に発生する大量の岩石の搬出については、効率的な処理が求められる。清水建設が提案するのは、高速搬出が可能な「S―マックシステム」。トンネル掘削面の近隣に仮置き場を設置し、重機2台の稼働率をあげて岩石処理を行う。
連続ベルトコンベヤーと組み合わせることで「高速施工を実現し、工期短縮を期待できる」(鈴木正憲土木技術本部機械技術部主査)とし、従来比で33%の時間短縮を見込める。
トンネルの仕上げ段階となる覆工コンクリートの施工では、品質確保が重要だ。大林組の「連続ベルコン通過型テレスコピック式セントル」工法は、覆工コンクリートの品質向上と高速作業を両立する。
二つのアーチ型の型枠を運用し、コンクリートの養生時間を確保しながら打設作業を実施。同時に、掘削面からの岩石搬出も行える。中間祥二生産技術本部トンネル技術部長は「連続ベルトコンベヤーとの組み合わせで実現した」と説明する。
※内容、肩書は当時のもの
日刊工業新聞2016年3月15日