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地味な電子部品業界、“初めてテレビCM”に見え隠れする危機感

AI人材争奪戦、ブランド戦略を加速
地味な電子部品業界、“初めてテレビCM”に見え隠れする危機感

全世界のブランドロゴを「Nidec」に統一する考えを示す永守日本電産会長兼社長

 電子部品メーカー各社は優秀な人材の確保に向け、ブランド戦略に注力している。新卒学生が有利な“売り手市場”が続く中、個人にアプローチするブランド戦略が不可欠になっている。特に、各社はIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)に詳しい人材を求めているが、こうした人材を獲得したいのは電子部品業界に限らず、どの企業も同じ。そこでテレビコマーシャル(CM)を刷新したり、女性社員との座談会を開いたりするなど、あの手この手を使って人材確保に取り組んでいる。

 「未来をどこまで想像できるか」―。TDKが2016年から展開したCMは創業100周年事業の一環で、想像力をテーマに同社の未来への挑戦を描いた。CMには、TDKのハードディスクドライブ(HDD)用磁気ヘッドにも応用されているGMR(巨大磁気抵抗効果)を発見したペーター・グリュンベルグ氏などが登場。学術的な理学をカギとして工学に応用され、製品として完成される科学の軌跡を示した。

 新卒の学生らに対し、将来にわたって活躍の場が広いことをアピールしている。また知的好奇心を刺激する内容を訴求し、理系の学生らの認知度を高める狙いもある。石黒成直社長は「未来においても電子部品の可能性は無限大だ」と力説し、優れた学生の獲得につなげる構えだ。

 日本電産も73年の創業以来初めて、16年末からCMを全国で開始した。学生を子どもに持つ母親世代をターゲットに設定。人気俳優の佐々木蔵之介さんを起用するなど、女性を中心に幅広い層に自社の企業イメージを訴えた。

 同社の永守重信会長兼社長は「売り上げが1兆円を超えた企業が人材を採用しようとすると、ブランドの認知が必要になる」と重要性を説明する。20年には現在比約3倍となる年間1000人程度の新卒採用をもくろむ。

 一方、村田製作所は「電子部品業界の魅力が学生に伝わっていない。このため理解や共感を得るようなメッセージの発信が大切」(広報担当者)と指摘する。特に、母数が少ない理系の女子学生の採用については、女性社員との座談会などを開催。実際に働く社員の話を聞くことで就業イメージを想起してもらう。

 電子部品各社が人材確保に力を注ぐのは、新規事業の創出を急いでいるためだ。スマートフォン向け事業に依存した体質から脱却するには、成長力のある新規事業が不可欠。そのためには、新しい発想や知見を持つ人材が必要になる。そこでデータサイエンティストなど特殊な人材の中途採用も行うなど、多様な採用活動を展開している。

 これまで日本航空電子は主力のコネクター事業に関連する機械・電気工学系の人材採用が多かった。だが今後の採用については「IoT向けなど新規事業の割合が増えれば、人材も変わる必要がある」(小野原勉日本航空電子社長)と指摘する。

 産業界では電子部品各社の技術力や収益力が高く評価されるものの、一般的には地味な存在だった。だが事業領域や売上高が拡大している今、相応のブランド力が求められる局面に入っている。優れた人材の確保と新規事業の創出に向け、ブランド戦略を引き続き強化する必要がある。
(文=渡辺光太)

日刊工業新聞2017年3月24日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
永守さんがよくいう日本電産の最大のリスクは人材。「新卒が育つまでに10年かかるが、10年なんてすぐたってしまう。最大のリスクは成長に人材が追いつくかどうか。布団に入ると、ここが足りない、あそこが足りないと考えてばかりいる」と。村田製作所を筆頭に現在、日本では勝ち組の産業の一つではあるが、日本で確保できなければ海外にももっともっと目を向ける必要があるかもしれない。

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