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沈みゆく百貨店。唐突なトップ交代に見る迷走劇のエンディング

三越伊勢丹HDの社長人事、業界全体のイメージも毀損
 百貨店業界の混迷が深まっている。国内最大手の三越伊勢丹ホールディングス(HD)は7日、大西洋社長(61)が31日付で辞任すると発表。仕入れ構造やバーゲン時期など多くの改革を進め、2016年5月には日本百貨店協会の会長にも就いた大西社長の突然の退任。何があったのか。

 近年、百貨店業界はショッピングセンター(SC)やeコマースとの競合や、訪日外国人客による免税売上高の減少で苦境に陥っている。同業のJ・フロントリテイリングや高島屋が不動産業での収益確保に活路を見いだす一方、三越伊勢丹HDは今も売上高の9割以上が百貨店業だ。

 同社は16年9月に三越千葉店(千葉市中央区)など2店舗を閉店することを発表。同11月、大西社長は17年秋から19年3月末にかけ、広島三越(広島市中区)など4店舗で抜本改革を進める本格的なリストラの方針を示した。

「都心店頼み」限界


 都心店の売り上げで地方・郊外店の不振を補う構造に、限界がきている表れだった。ただ大西社長が「投資を集中する」とした都心店も苦戦している。16年4―9月期の売上高は伊勢丹新宿本店が前年同期比3・7%減、三越銀座店が同8・2%減だった。

 一方で注力したのが「多角化」だった。1月にエステ会社を傘下に持つSWPホールディングスを買収。2月にはシニア向け海外旅行の企画会社を子会社化する方針を示したが、関係者からは「迷走している」との声も挙がっていた。さらに成果を出す前の大西社長の退任に、戸惑いも広がっている。

 同社は差別化戦略として、SPA(製造直販型小売業)戦略を進めてきた。11年に発売した婦人靴「ナンバートゥエンティワン」は累計で6万足を販売するなど成功例も見られる一方、急激な改革に社員からは不満の声も挙がっているという。
                

人事抗争も?


 三越と伊勢丹が経営統合してから9年。いまだに社内には「三越出身」「伊勢丹出身」の意識が根強く、待遇面の違いもあったとされる。大西社長、杉江俊彦次期社長(56)はともに伊勢丹出身。三越出身の石塚邦雄会長(67)も6月に開催予定の定時株主総会で会長職を退任予定で、さらにリストラ策を出す前の痛み分けとの見方もある。

 大西社長がまいた種は実を結ぶのか。再生に向けて新たなモデルを描くのか。杉江次期社長は大きな宿題を抱えている。

 日本百貨店協会がまとめた2016年の全国百貨店売上高は36年ぶりに6兆円を割った。特に深刻なのが地方と郊外の状況だ。東京や名古屋などの10都市を除いた百貨店売上高はピークだった98年と比べ、半分以下に落ち込んだ。

閉店の動きさらに加速


 最近になって閉店の動きがさらに目立っている。2月27日には、JR仙台駅前のさくら野百貨店仙台店(仙台市青葉区)を経営するエマルシェ(同)が突如、仙台地裁に破産を申請した。翌28日には西武八尾店(大阪府八尾市)、同筑波店(茨城県つくば市)が閉鎖。今月1日には中合(福島市)が福島店2番館(同)を、耐震性を理由に8月末で閉じると発表した。

 多店舗展開している百貨店の場合、都心の基幹店では品ぞろえや店舗デザインを磨き上げることができても、富裕層や訪日客の絶対数が少ない地方や郊外では難しい。価格競争力などで勝るショッピングセンター(SC)と戦うのも苦しい状況だ。

次期社長は異色


 辞任が突如決まった大西社長の後任として4月に三越伊勢丹ホールディングスの社長に就く杉江氏は食品部門での実績で知られている。アパレルメーカーに顔が利く人材が出世する傾向の百貨店業界では異色だ。

 杉江氏は三越多摩センター店(東京都多摩市)を今月20日に閉じる理由を「品ぞろえが日用品(中心)になっている」と語り、三越ブランドのイメージ維持を優先する姿勢を示していた。地方・郊外店については、思い切ったリストラも含めた見直しを迫られている。
三越伊勢丹ホールディングスの大西社長(左)と杉江次期社長

世界中でネット通販にのみ込まれる


 百貨店業態が迷走しているのは日本だけではない。米国ではアマゾンを筆頭とするネット通販の台頭が響き、百貨店大手のメイシーズやシアーズ、J.C.ペニーが大規模閉店する方針を相次いで発表。中国では1月、ネット販売大手の阿里巴巴(アリババ)集団が百貨店チェーンの銀泰商業集団に、買収を提案した。百貨店ブランドが新興勢力のネット通販ブランドにのみ込まれる構図だ。

 高島屋など同業他社はテナントを誘致して賃料を得るビジネスモデルにかじを切っている。三越伊勢丹HDは百貨店業重視の姿勢を貫いてきたが、16年3月期からは異業種との共同出資会社設立やM&A(合併・買収)で、ブライダルや飲食など事業の多角化を図ってきた。

 一方で社長交代を発表した7日以降、新規事業に関する発表が先送りとなるなど社内は混乱している。

 40代以上では百貨店ブランドに対する信頼感はいまだ根強い。今回の社長交代劇はこうしたイメージまでも毀損(きそん)した。業界再編も含め、SCやeコマースなどに対抗しうるモデルを百貨店が提示できなければ、再建は厳しい。
(文=江上佑美子)

日刊工業新聞2017年3月8日9日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ヤマト問題をみてもネット通販も曲がり角に来ている。これから業界というよりどこの企業が新しい小売りのビジネスモデルや楽しみを提示していくか。もはや「業界」という枠にしばられていては、何も見えてこない。

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