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なぜ左官屋で若者と女性が活躍できるのか。話題の「モデリング」とは?

<情報工場「読学」のススメ#25>わずか1カ月で基本技術を身につけさせる

言葉ではなく映像から感性を読み取る習慣


 さらに言えば、技術や「型」が感性を育てるという面もあるのではないか。感性を言葉で伝えるのは難しい。だが、一流職人の「型」から滲み出る感性を「見る」ことで受け取ることはできるだろう。

 『フレンチの王道』(文春新書)によれば、フレンチの名店「シェ・イノ」のオーナーシェフ・井上旭さんは、フランスでの修行時代、師と仰ぐ料理人ジャン・トロワグロのソースづくりを「映像」として頭に叩き込んだという。ルセット(レシピ)を覚えることは一切しない。日本に帰国後、ルセットをすべて破り捨てたというから徹底している。一流の技、そして感性を、言葉ではなく映像を通して直接学んでいったということだ。言葉と言葉の間にある微妙なニュアンス、頭を使わずに自ずと体が動いてしまうような技術は、目に映るそのままの姿からしか受け取れないのだろう。

 左官を志した新人も、モデリングを経験することで、井上さんのように「映像で受けとる」習慣が身についていくのではないだろうか。その習慣は、その後、プロの職人としての感性を身につけていくための、強力な武器になるに違いない。
              

(文=情報工場「SERENDIP」編集部)
『新たな“プロ”の育て方』
原田 宗亮 著
クロスメディア・マーケティング
190p 1,480円(税別)
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冨岡 桂子
冨岡 桂子 Tomioka Keiko 情報工場
最近、大阪・小さな寿司店「鮨 千陽(ちはる)」が、『ミシュランガイド京都・大阪2016』に掲載されたことが話題になった。そこで働く寿司職人は全員、作り方をわずか3カ月間学んだだけだ。掲載されたカテゴリは、コストパフォーマンスの高い良質な料理を楽しめる店を選ぶ「ビブグルマン」だが、それでも、寿司職人の教育について様々な声があがった。原田左官の話を聞くと、左官職人の世界でも、職人を育成する方法が変わっているのを感じる。どちらも伝統的な、「文化」とも言える仕事だからこそ教育の仕方に注目が集まるのかもしれない。ただ時代は常に変化する。「文化」の良い面を継承し発展させていけるのなら、時代に合わせて教育手法が変わっても良いのではないかと思う。

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