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ジャパンディスプレイ、再起なるか

「曲がる」新型液晶と脱スマホで挑む
ジャパンディスプレイ、再起なるか

JDIの曲げられる新型液晶

 ジャパンディスプレイ(JDI)が3期ぶりの当期黒字に王手をかけた。掲げる戦略は高価格帯スマートフォン向けでのシェア確保と、非スマホ領域の拡大の2本柱。3月末までに有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)ディスプレーを手がけるJOLED(東京都千代田区)も子会社化する計画で、多角化を図る。事業構造改革の兆しは見え始めた。それを成果として数字で示すことが再起の必須条件だ。

白山工場「一時は売却することも頭をよぎった」


 「一時は売却することも頭をよぎった」。JDI幹部が苦笑しながら明かすのは、スマホ向け液晶ディスプレーを生産する白山工場(石川県白山市)のことだ。当初予定から遅れること約半年、2016年末に量産稼働を始めた。高価格帯中国スマホ向けの採用が増え、全社の生産キャパシティーが逼迫(ひっぱく)したことが後押しとなった。

 16年10―12月期の中国向け事業の売上高は、前四半期比60%増で成長。3月末には中国向けの売上比率が40%に近づく勢いだ。モバイル事業を担当する柳瀬賢執行役員は「15年に開設した深圳の事業開発センターが機能し始め、設計から販売まで好循環ができてきた」と説明する。

 従来は縦割り意識が強かった調達や営業など各部門を横串で通し顧客関係管理(CRM)を徹底。中国ファーウェイや同Oppo、同Vivoなどを取り込んだ。

どうする有機EL対抗


 現在の最大の課題は、曲げられるなどデザイン性が高くスマホへの採用ニーズが高い有機ELディスプレーにどう対抗するか。

 そこで投入するのが、4辺の額縁をなくした新型液晶「フルアクティブ」だ。組み合わせて見開き型にするのも可能で、中国メーカーなどとの交渉を開始。年内の量産を計画する。

 プラスチック基板を採用した曲げられるタイプも開発。18年の量産を目指す。有機ELよりもコストや低消費電力に優れる液晶で、同等のデザイン性が可能だ。

 IHSテクノロジーの早瀬宏シニアディレクターも「有機ELとも遜色なく、かなり期待できる」と評価する。

 本間充会長兼最高経営責任者(CEO)は有機ELにいかに食い込めるかが一つの分岐点になるとし「主要顧客に液晶の魅力を認めさせるためにも、フルアクティブの提案を非常に強化している」と明かす。

 「全社でのスマホ事業比率は下がるが、最大市場をあきらめた訳ではない」(柳瀬執行役員)。新型液晶の成否が、JDI復活の一つの指標となる。
              

プラットフォーム技術に経営資源を投入


 もう一つの柱である非スマホ事業の拡大。「ディスプレーの搭載領域は増えており、成長機会は十分ある」。有賀修二社長兼最高執行役責任者(COO)は、スマホで磨いた液晶技術を他の用途に広げるべく「技術ポートフォリオをそろえる」と強調する。

 車載向けの拡大に加え仮想現実感(VR)、パソコン、サイネージ、医療用モニターなどへの参入を狙う。すでにパソコン向けでは4社からの受注が決まり、VR向けでも複数社からの受注が確実だという。新規参入領域は17年度中の量産を目指し、非スマホ事業の売上比率を18年度に33%まで引き上げる。

 非スマホ事業の早期育成の軸が、プラットフォーム戦略。瀧本昭雄最高技術責任者(CTO)は「ディスプレーの根幹となるプラットフォーム技術に経営資源を投入し、製品やビジネスに近い領域ではオープンイノベーションを加速する」と説明する。

 事実、電子ペーパーでは台湾イーインク、次世代通信「5G」ではNTTドコモなど、協業先を増やしている。

 12年に始めた社外向け技術展示会の成果も出始めた。2年後の量産を視野に入れる技術を全社から集めて披露し、事業化につなげる。最近では「部門の垣根を越えた相乗効果で、段々と挑戦的な技術にも着手できるようになってきた」(瀧本CTO)。新規事業の下地は整いつつある。

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(2017年2月17日)
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
JDIの新型液晶に対する顧客からの引き合いは良いという。その価値を認めさせられれば有機ELの対抗軸になりうる。しかし「有機EL」というブランドに対する顧客からのニーズも高く、いずれは本腰を入れて量産投資をせざるを得ない局面がやってきそうだ。その時までに非スマホ事業を第2、第3の柱に育てて財務基盤を安定させられるか、そして有機ELの技術レベルを高められるかがカギになりそうだ。

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