マイナス金利1年、黒田ジョークに「つらすぎて、笑うしかないよ」
地銀に冬は続く。露呈する旧来モデルの限界
「国債購入一本足打法」の地銀
全国地方銀行協会の中西勝則会長は「地銀が最も厳しい」と繰り返した。有望な貸出先も人的資源もメガバンクに比べれば限られる。運用手段も「国債購入一本足打法」と揶揄される地銀も少なくない。
低金利下で新たな収益源の発掘に奔走するが、不良債権処理後はリスクを避け「巣ごもり」を貫いていた地銀にとっては、ハードルは高い。
金融庁は地銀に目利き力の向上やリスクマネーの供給を促してきた。苦境に追い打ちをかけるとの指摘もあるが、地銀の一部が預金と貸出の金利差で利ザヤを稼ぐ旧態依然としたビジネスモデルに寄りかかってきた面は否めない。
「リスクを取らない」、「目利きが出来ない」という言い訳は他業界では通用しない。マイナス金利という劇薬は金融業界のいびつさを浮き彫りにした側面もある。
「地域金融機関からの相談が大幅に増えている」。三菱UFJ信託銀行の池谷幹男社長はマイナス金利政策導入以降の変化を語る。マイナス金利政策導入後の約10カ月で地方銀行や信用金庫への私募投信の販売は金額ベースで前年同期の約3倍に達した。
地方金融機関の多くは国債以外の金融商品を運用できる体制を敷いてない。超低金利下で国債運用が難しくなる中、少しでも高い利回りを求め、外債や株式に投資する私募投信への運用の配分を増やしている。
金利に依存しない手数料ビジネスへ
マイナス金利が収益を直撃するのは地方銀行だ。みずほ総合研究所の試算では貸出金利回りや有価証券利回りの低下が続く場合、地銀の2020年3月期の実質業務純益は16年3月期に比べ4-5割落ち込む。
メガバンクはすでに貸し出しの金利に依存しない手数料ビジネスの拡大にかじを切っているが、地銀は手段が限られる。専門の運用会社が設定する利回りの良い商品の購入やノウハウやネットワークを持つ他行との緩やかな連携を進める。
東京スター銀行の投資銀行部の北井賢一ヴァイスプレジデントが「地方行脚」する日は昨夏以降、確実に増えている。「我々がアレンジするシンジケートローン(協調融資)はスプレッド(金利)が他銀行とケタが違う場合もある。地銀に高いスプレッドに魅力を感じてもらえる」と手応えを示す。
同行も第二地方銀行だが台湾資本傘下で外国の投資銀行やメガでシンジケートローンを手がけた出身者を抱える。他行が手がけにくい案件も積極的に組成するため、高い金利を得られる。組成案件に地銀の関心が高まっている上、16年下半期からは地銀が自行では組成が難しい案件の協力要請も出てきている。
「特定の地域内でのM&Aの成約は難しい。地域金融機関の関心は高い」。りそなホールディングスの東和浩社長は手応えを示す。
地銀と取引先のM&Aの情報を共有できるシステムの運用を始める。クラウド上で連携することで、M&Aの成約率向上に役立てる。地域を越えた情報交換の場を提供して、全国で課題になっている事業承継の解決にもつなげる。
金融庁に突きつけられた「変身」
地域金融機関が重い腰を上げた背景には、超低金利の環境に加え、金融庁が導入した地域金融機関に無担保融資やM&Aなどを通じて企業の成長に貢献しているかなどを評価するためのベンチマーク制度の存在がある。「変身」を突きつけられ、動かざるをえない。
「銀行冬の時代」をどう生きるか。外部環境が激変する中でも、「利ざや縮小の最大の対抗策はリスクを取らずに、経費の削減だ」(東北地方の地銀の中堅行員)との指摘もある。
トップラインが伸びにくい中、ボトムラインの改善で縮小均衡しながら生き残りをかけるのも一つの選択肢だろう。とはいえ、経費削減には限界があり、合理化の行き着く先には他行との経営統合がちらつく。
日銀の黒田東彦総裁の任期の18年4月まではマイナス金利が続く可能性が濃厚だ。ただ耐えるには長すぎる。
日刊工業新聞2017年2月15日、16日 加筆修正