ニュースイッチ

バレンタインデーはなぜ2月に?チョコレートの美味しさを科学する

<情報工場 「読学」のススメ#24>今の季節ならば「常温」で保存を!

世界的なカカオ豆不足は却って技術進歩のチャンス


 「V型」結晶の多い美味しいチョコレートを作るのに、伝統的に「テンパリング」という製法が用いられているそうだ。大まかにいうと、ココアバターを25~26度まで冷やして「IV型」結晶を作り、それを30~31度まで再加熱する。すると、「V型」の「種結晶」ができる。それを一気に冷やすことで「V型」結晶ができあがる。

 テンパリングは職人たちが試行錯誤の末、経験の中から編み出したものだ。上記の結晶化の理論を踏まえたものではない。食品物理学の研究が進むことで、伝統的な技法に理論的な裏づけがされたということだ。今では研究の進展や装置の進化により「種結晶法」というテンパリングなしで作る方法や、「撹拌」をテンパリングに組み合わせた方法など、さまざまな製法が用いられている。

 近年、世界的にカカオ豆不足が深刻化しているという。中国をはじめとする新興国の需要増大が原因だ。それらの国々では、それまでは菜種油や大豆油などをココアバターの代わりに使っていた。ところが経済成長によって富裕層が増え、「本物のチョコレート」の消費量が一気に増えたのだ。

 だがカカオ豆不足は悪いことばかりではない、と上野教授は言っている。ココアバターの代用脂で美味しいチョコレートを作る技術の進歩が期待できるからだ。さらに、そうした進歩のおかげで、本物のココアバターを使うチョコレートづくりも進化する可能性がある。今後、さらにバラエティに富んだ食感や風味のチョコレートが登場するのを楽しみに待ちたい。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)
『チョコレートはなぜ美味しいのか』
上野 聡 著
集英社(集英社新書)
206p 720円(税別)
                 

ニュースイッチオリジナル
冨岡 桂子
冨岡 桂子 Tomioka Keiko 情報工場
コーヒーに「シングルオリジン」などサードウェーブコーヒーと呼ばれるものが生まれたように、チョコレートにも新しい潮流が起きている。たとえば、カカオ豆を厳選し買い付け、焙煎、そこからチョコレートの製品になるまでの全工程を自社で一貫して行う「ビーントゥバー」と呼ばれるものや、更には、カカオ豆のもと、つまりカカオの木を選ぶ工程から行う「トゥリートゥバー」など。サードウェーブコーヒーと同じようにアメリカ発だが、日本でも最近、そのコンセプトで展開するブランドが続々と生まれている。これらのブランドは、チョコレートそのものだけでなくデザインも個性的で見ているだけで楽しい。バレンタインには、チョコレートの新潮流を味わってみるのはいかがだろう。

編集部のおすすめ