建機、世界市場で“春の兆し” 日本勢は耐え抜いた底力を発揮するか
いよいよ中国が本格回復へ。インドは周辺国含め一大市場に
インドの需要、急速に伸びる
インドをめぐる建機メーカーの攻防も熱を帯びてきている。モディ政権の方針によりインフラ整備が進むことが見込まれており、建機需要が急速に伸びている。
早くも油圧ショベルの増産に踏み切ったのが、神鋼子会社のコベルコ建機。現地の工場で上位機種の年間生産台数を現在の約1500台から、18年度までに約2000台に拡大する。隣接するクレーン工場も活用して、生産効率を高める方針。市場全体のうち約3割を占める上位機種の拡販に照準を絞る。
日立建機はタタモーターズと合弁事業を進めていて、月600台の油圧ショベルの生産能力を19年度をめどに4割高める。コマツも油圧ショベルの年間生産能力が2500台の工場を設けている。現地の有力ゼネコンであるラーセン・アンド・トゥブロ(L&T)と販売やサービス面で連携しているのも強みだ。
収益面で懸念も
インドは中国と並ぶ巨大市場に成長する可能性を秘めるが、収益性では懸念もある。「販売価格が他の地域と比べると安い」(三木健コベルコ建機取締役専務執行役員)ためだ。円高も影を落とす。インドでの販売だけで利益を確保するのは簡単ではない。
そこでカギを握るのが、インドの周辺国も含めた販路の拡大だ。需要が回復しつつあるアジアに加え、低迷している中東地域も持ち直せば、国をまたいでの一大市場ととらえることができる。
各社にとって海外の収益構造が変わる可能性もある。インド事業が今後の成長戦略を左右するだけに、生産体制の拡充に向けた投資も増えそうだ。
欧州市場も建機メーカーの収益を下支えする。特に旧ソビエト連邦にあたる独立国家共同体(CIS)地域で、金鉱山向けの需要が伸びているという。
4―12月期決算での同地域の売上高は、コマツが前年同期比33・0%増の485億円、日立建機は同1%増の134億円。また同社は油圧ショベルの16年度需要見通しで、西欧をこれまでの3万1000台から3万4000台に増やしている。
新興国と比べれば大きな成長を見込めないが、海外で苦戦を強いられてきた中では心強い市場。油圧ショベルに取り付けて作業に使う「アタッチメント」で特殊品を求められるなど、とりわけニーズが幅広いことから、きめ細かい対応が競争力を高める前提となる。
米国に不透明感
回復機運が徐々に高まっているが懸念材料も少なくない。レンタル向けの建機需要が低迷している米国は、トランプ大統領の就任により不透明感を増している。トランプ氏は選挙期間中、コマツを名指しで批判した。
しかしトランプ氏が打ち出したインフラ投資が進めば、各社も恩恵を受けられる。コマツの稲垣泰弘常務執行役員は今後の見通しについて、「分からないというのが正直なところ。需要が上振れてもいいように準備する」と言葉を濁す。
コマツと日立建機にとっては、低迷から抜け出せない鉱山機械事業も頭の痛い問題だ。資源価格の下落に伴って需要も落ち込んでおり、回復するのは17年以降との見方が強い。まだ我慢の時期が続くため、部品やサービスの拡大による収益確保が引き続き求められる。
(文=孝志勇輔)
日刊工業新聞2017年2月6日