春闘にもトランプの影。「就労のカタチ」どう描く
労使トップ、焦点を語る
経団連副会長・工藤泰三氏(日本郵船会長)
「実情踏まえた議論期待」
―経営側の基本的な考えは。
「収益が拡大した企業だけでなく中長期的に改善している企業には積極的な対応を呼びかける。諸手当についても子育て世代への重点配分や配偶者手当の見直しなど手法を例示し、各社の実情を踏まえた議論を期待する」
―連合はベア、月例賃金の引き上げにこだわっています。
「ベアを否定しているわけではない。ベアは厳しい企業でも賃上げのモメンタム(勢い)を維持するため、年収ベースでの賃上げに取り組んでほしい」
―過去3年間のベアの累積効果が「過小評価」されていると主張しています。
「ベアによる増額は、翌年度以降も基本給に積み上がっていくため(賃上げの)発射台は高くなる。(ベアだけを前年と比較して)数字が一人歩きするのは(あたかも基本給が下がったかのような印象を与え)賃上げのモメンタムを維持しようという中で逆効果だ」
―中小企業の底上げや非正規社員の処遇改善については。
「非正規社員の正社員化は今後も進めていく。原材料価格上昇に伴う中小企業の価格転嫁や生産性向上には協力の余地がまだある」
―連合は中小組合の要求水準を総額で1万500円以上としています。
「格差是正や底上げを否定するわけではないが業績が振るわない企業もある中、一律に1万500円は、しんどい面がある。賃上げには生産性向上が不可欠であり、そのためには経団連は協力する」
連合会長・神津里季生氏
「自律的成長にベア重要」
―17年の春闘方針は。
「デフレ脱却に向けての底上げ春闘だ。かつてのインフレ時代の春闘と違って、先頭車両(大企業)だけが動いても、それに続く車両(中堅・中小)が動かなければ経済全体が動かない。前年の底上げの動きを止めてはならない」
―経団連は「賃上げは年収ベースで。ベアも一つの柱」としています。
「ベアはなくてはならない大黒柱だ。賃上げの消費拡大への効果は一時金が0・5に対し、月例賃金は0・9。また一時金は上がったり下がったりするし、一般的に中小は一時金が低く零細ではそれもないところもある。経済の自律的成長にはベアが重要だ」
―中小底上げの原資はどう確保すればよいのでしょうか。
「(大企業が集まる)経団連には社会的責任があるはずだ。グループ企業や系列企業が見劣りするのであれば親会社の責任だ。中小企業経営者も賃上げをしたいといっているがそれを阻むものがある。サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正配分が必要だ。人手不足も深刻で(賃上げで)人を確保し、育てなければ事業は継続しない」
―非正規労働者の問題は。
「日本の経営者はこの20年、易きに流れた。正規雇用中心に戻すべきだ」
―ここ数年、「官製春闘」と呼ばれています。
「政府は概念を示すだけで良い。労使自治に任せてもらいたい」
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日刊工業新聞2017年1月31日