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東電連合は「都市ガス販売で大変なライバル」(東京ガス社長)

原料調達ルート広げてコスト低減狙う。LNG、スポット取引3割に
東電連合は「都市ガス販売で大変なライバル」(東京ガス社長)

(茨城県日立市のLNG基地に到着した運搬船、東京ガス提供)


家庭向け参入の動き鈍く


 ただ、家庭向けガス小売り事業参入の動きは総じて鈍い。経済産業相が16年8月の受け付け開始以降、「ガス小売事業者」として登録した新規参入事業者は同年末時点で総勢9社。

 うち一般家庭への販売を予定している事業者は、東電EPや関電など4社にとどまった。電力では全面自由化の前年の15年12月末時点で119社が「小売電気事業者」として登録されていた。

 もともと都市ガスの小売り事業には制約が多く、新規参入のハードルが高い。都市ガスの供給区域は導管網が整っている大都市周辺などに限られ、対象世帯は全国の7割程度にとどまる。

 市場規模は電力の8兆円に対して2兆4000億円と小さく、参入余地は電力ほど大きくない。加えて商材となるガスを売買する卸取引市場がないため、新規参入事業者は自ら調達ルートを確保する必要がある。

 経産省は市場参入を促すため、都市ガス会社が保有するLNG基地を、基地を持たない事業者が保有者と同等の条件、費用で活用できるようにする「第三者利用制度」などの環境整備を進めた。

 東京ガスなど大手の都市ガス会社が、ほかの事業者に導管を使用させる対価として受け取る託送料金を巡っても、各社の認可申請に対して経産省の審議会が、原価をさらに切り詰めるように求め、料金の引き下げをのませた。

 事業環境が整ってきたことで今後、大手の商社や石油元売り会社などの参入表明が相次ぐ可能性がある。

 日本エネルギー経済研究所の小林良和ガスグループ研究主幹は、ガスの購入先を変更する動きは「低水準にとどまる可能性が大きい」としながらも、これら有力企業の市場参入が「ガスの価格にどう影響するかが今後、注目される」と指摘する。

 小売り全面自由化を柱とする電力・ガスシステム改革は、安倍晋三政権の目玉政策とされるだけに、競争促進効果が乏しければ、制度設計を見直す公算が大きい。

 既存の都市ガス会社に対し、一定規模のガスを新規参入事業者に卸供給することを、実質的に義務付けるなどといったことが想定され、都市ガス各社にとって厳しい試練となりそうだ。
                  


大口客向けで全面対決も


 一方、すでに自由化されている大口需要家向けの分野でも、全面自由化を機に顧客争奪戦が激しさを増しそうだ。

 東電HD傘下で工場や商業施設に省エネルギー化支援などのサービスを提供する日本ファシリティ・ソリューション(東京都品川区)は、16年11月にガス小売事業者と小売電気事業者の両資格を立て続けに取得。冷・温水や蒸気などを客先に供給するサービスの一環として今後、電力やガスを自ら販売する。

従来、電力やガスを供給する際には、グループ会社や外部の都市ガス会社に協力を求めていたが、一元化して利便性を高める。岡英樹社長は「条件が整えば、関西や中部地域への展開にも力を入れたい」と意気込む。

 東京ガスも傘下の東京ガスエンジニアリングソリューションズ(同港区)と連携し、同様なサービスと一体でガスや電力を売り込む構えで、家庭向け市場の攻防が、大口客向けを含めた全面対決に発展しそうだ。
(文=宇田川智大)

日刊工業新聞2017年1月5日

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
スポット取引の拡大をテコに既存の長期契約でも、更改時などの交渉でなるべく有利な条件を引き出せるかもポイント。

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